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あの頃・その3

1988・ひゅーどろろ

 「にいちゃん、ブラックサバス聴いた。あれヤバいマジでヤバい本当に怖いけん」今日も今日とてMです。Mはバンドを組んでからと言うもの、友達である弟の部屋よりも僕の部屋に遊びにくることが多くなっていました。
 僕が、おお、ついに聴いたんか、と答えると、「そうそう、しかも深夜の犬鳴の旧道でよ、マジで怖かった」
 蛮勇。もしくは馬鹿。そう言われても仕方がない行為です。
 「犬鳴」とは福岡市と北九州市にまたがる峠道。今では通る車も少ない旧道です。それもそのはず、そこは陰惨な事件や、まことしやかな都市伝説が絶え無い場所で、県下有数の心霊スポットなのです。そこで深夜あのナンバーを聴く。蛮勇もしくは馬鹿。
 「そりゃ豪気やね。てか馬鹿やろ」僕はマルボロライトに火をつけて窓の外に紫煙を吐きました。

 そもそもなぜリリースから20年近く経った曲が僕らの間でホットだったのか。

 原因は、その年オジー・オズボーンがリリースしたアルバム『ノー・レスト・フォー・ザ・ウィキッド』にありました。


1988・昔の音で出ています

 オジーのナンバーの定番・低音弦ズクズクリフで始まる『ミラクルマン』がトップナンバーのアルバムですが、このアルバムがリリースされる際に、オジーがインタビューでよく口にしていた言葉が、「ブラック・サバスみたいに云々」と言う言葉でした。

 ブラック・サバス。頑全として揺るがぬヘヴィメタルの帝王バンド。

 そのエッセンスを付加したサウンドだというのです。
 当時、Mも含め僕の周りのバンド仲間は、その当時のバンドが影響を受けたバンドを聴くことを積極的にやっていました。レッド・ツェッペリンやディープ・パープル、ハンブル・パイそしてクイーン。やはり先鋭的なバンドを聴き慣れた耳には多少退屈ではあったのですが、それでも新たな発見はありました。「なるほど、ここいらへんがそーなのか」と言う具合に得心がいく場面がたくさんあり、それが面白かったのです。
 オジーがブラック・サバスに在籍していたことは知っていました。そしてここにきて遂に。天啓です。聴かいでか。いや聴かいでかッ。

 これがトップナンバーの『ブラック・サバス』です。
もう音のハナシよりもジャケットで怖い。古びた教会の佇む黒衣の女。画像処理で絵面そのものが歪んでいます。
 そして音。
 雷鳴とそぼ降る雨の音に導かれて始まるリフは、重苦しく。遅い。そして音使いが怖い。ローG→G→C#(D)トリル。特にこの半音トリルが怖い。半音階というものは人を不安にさせるものです。そして後半。演奏は激しくなる。暗雲の只中で発狂し泣き叫ぶが如く。
 これを深夜、犬鳴の旧道で聴くとは。Mも豪気というか馬鹿というか。
 兎にも角にも、これがドゥームと呼ばれるジャンルのはじまりだったようです。

1992・耳痛

 ブラック・サバスの衝撃から4年。
 僕はデスメタルやグラインドコアなどの所謂エクストリーム・ミュージックに出会います。そのエクストリームミュージックの中には、激・重・遅を極めたジャンルがありました。それがドゥームロックです。
 先に書いた文章の中でもご紹介したボルト・スロワーもそのひとつと言ってよいでしょう。
 そんなエクストリームミュージックばかりをリリースするレーベルが、イヤーエイク・レーベルです。

 なかなか刺激的な音ばかりです。1997年ですから古いですが。サンプラーのトップのゴッドフレッシュはドゥームではありませんが、激・重・遅を体現する二人組ユニットです。面白いのはその一人、ジャスティン・ブロードリックは、元ナパームデスのメンバーだったりします。そして注目すべきは3番目に登場するバンド、カテドラルです。

1992・好きこそもののなんとやら

 カテドラルのリーダー、リー・ドリアンも元ナパームデスのメンバーでした。衝動の権化のようなグラインドコアの帝王は、メンバーの加入脱退の忙しいバンドでした。でした、というのは現在ではそこそこ安定しているからです。(それにしてもご長寿バンドですね)
 これは僕の勝手な解釈ですが、初期ナパームデスのメンバーたちは、自分の表現したいことを表現して、それに満足すればアバヨと、別のフェイズに移っていったのではないでしょうか。先のジャスティンもそうですし、リーもそうだったのでしょう。
 彼はもともと初期ブラック・サバスの信奉者です。自らドゥーム専門のレーベルを立ち上げるくらいに。彼のインタビュー記事を読んだことがありますが、そりゃー刺激的でした。それはもう山椒の効いた煮えたぎる麻婆豆腐ばりに。そんな彼が満を持してリリースしたアルバムがカテドラルのデビューアルバム『この森の静寂の中に』です(あえて邦題)

 ジャケットからもうヤバいですね。まさに西洋版百鬼夜行。
 そしてズルズルズルズル引き摺る引き摺る。リーのグロウルの聴いたヴォーカル、メロディック・マイナーを多用したギター・リがさらに不穏感を煽ります。これぞドゥーム。ブラック・サバスを局所拡大させて自らのものとして昇華させた結果がこれです。しかし、これで終わらないのがマニアの怖い(面白い)ところ。

 なんともおサイケな雰囲気で怪しさ全開。「これがドゥームか」と問われれば「・・・」ですが、ブラックサバスにもこんな一面あった。

 ファッション、セットともに、おサイケ。
 リーはここまでこだわってサバスをリスペクトしているのです。ちなみにMは平成であるにもかかわらずベルボトムに長髪というスタイルだったのですが、クリフ・バートンというよりもこっちに近かった気が。
 リー・ドリアンのレーベル、ライズ・アボーブには、まだまだユニークなバンドがたくさんいますが、長くなるので…

1992・重い扉を開けるとそこは…

 メタルは言うに及ばず、パンクもそうですが、それまで僕は速いロックはそこそこ聴いていたつもりでいた。しかし、遅いロックは未経験でした。それが故に、ブラック・サバスを祖とする一連のドゥームロックには、本当に刺激的でした。カテドラルもそうですが、エレクトリック・ウィザードやオレンジ・ゴブリン、日本のコラプテッド、ボリスなんかも非常に興味深い。
 激しく、重く、遅く、そして音の数を極端に減らしたロックには、どことなく枯山水に似た寂寞とした世界観さえ感じます。
 最後に僕が唖然としたバンドを二つ。
 一つはスリープ。アルバム『エルサレム』一時間一曲。
 もう一つは、アース。アルバム『アース2』そこはもう涅槃。

 トべます…


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