本屋さんの金メダル
2012年に書いた日記をmixiから転載しました。前職は最後の青春だったような気がします。
ロンドン五輪が終了しましたね。 なんだかんだ言われつつメダル獲得数は史上最多。素直に嬉しいですね。 漢字は違えど自分と同じ名前の金メダリストが二人も出たのも嬉しくて。 ってゆーか金メダルが全て格闘技系って海外から見ると日本ヤバイって感じでしょうか。
同級生さんが多いのでアレですが私は札幌五輪の年に生まれました。 だからというわけではないですが、オリンピックが大好きです。 で、4年前の私はこんな日記を書いていました。懐かしいなあ。
https://note.com/leciel_ruban/n/nf44501f84012
このつづき、北京五輪と私のことを書きます。
北京五輪の日程は私の夏期休暇とほぼ丸かぶりな感じでした。 時差のストレスなく仕事の心配もしなくていいというベストな五輪。 当時はまだ仕事をうまくまわせなくて夏期休暇前はバッタバタでした。 そして在庫調整などでも担当店に迷惑をかけていたかもしれません。
休み前にあるお店の児童書ジャンルでどうしてもやりたいことがありました。それは「北島康介」を平積みにすることでした。当時勤務先では児童書を扱っていてその中に「現役アスリートもの」がありました。 弊社刊行書籍売上構成比率では数%で勤務先でもスルーされている商品でした。
しかし私は「この夏、この店で必ず売れる!」と思い猛プッシュしました。 会社から「北島を売れ」という指示は出ていないですし勤務先の児童書は「売れないことに定評がある」ので有名でした。 しかもK伊國屋さんは8月が決算なので大量仕入れに難色を示しました。
1、北島は絶対に金メダルをとる。
2、金メダルをとれば、その人物に興味を持つ層がいる。
3、児童書はなんだかんだ女子向けが多いので男子の興味をそそる本が必要。
4、親や祖母が与えるのに「アスリートの生い立ち」は検閲がいらないのでイイ。
5、この店舗の客層は「熱心な子育て世代」。進学塾とスイミングは標準装備。
6、「旬」の本を探しに来て見つからなかったら「何もない店」と認定される。
…などとコンコンと話して児童書担当さんを納得させました。
担「じゃあ5冊で」
私「何言ってるの!『北島かっけー!』って思う子が5人しかいないと思う?」
担「じゃあ10冊…」
私「小学生向けノンフィクションに10冊、話題の本コーナーに10冊」
担「でも…」
私「水泳は前半なので北島が負けたら即返品してください。お盆休みは流通がとまります。お客様は2週間待てません。いいお客様をみすみす逃すのはこのお店のためになりません。」
なんという強気…でも、ここは譲れないところでした。 オープン間もないこの店、しかも近所に児童書の売れるライバル店ができた。 私はノルマも歩合もないので、ここまでする必要はまったくないのです。でも、このお店を地域一番店にして、彼女を喜ばせたかったのです。
結局、彼女が折れて、20冊受注。あれほど押した割に「素」に戻ると小心者な私。 休みに入ってからは「メダル取れなかったらどうしよう」 「とっても売れなかったらどうしよう」とかなり不安でした。 いや、もう、やってしまってんだから仕方ないのですけどね。
そして平泳ぎ決勝。北島はきっちり金メダルをとってくれました。 北島の「何にも言えねえ」を見たときに一番に彼女が思い浮かびました。 とりあえず結果を出してくれたので、あとはお客様の反応しだいだなと一安心。 そのお店の夏の混雑は殺人的なのでこちらから連絡はせず、休み明けをまちました。
勤務再開初日。 在庫がカツカツになっているはずの英検書は担当さんから歓迎されるはずですが
オオミエ切った「北島」は期待と不安が入り混じっていました。もしかしたら課長いや店長からのお叱りがくるかもな…なんて。
担「かおりさん、ごめんなさい。」表情をみてすぐにわかりました。
私「ほら~だから言ったじゃないw」
担「翌日に他店からの出庫要請も含めて20冊全て完売しました。出勤してすぐに取次さんの在庫全ておさえて30冊確保しましたがそれも完売しました。同時に御社の流通にも20冊注文してその残りがあと5冊です。」
私「あ~、私も弱気で申し訳ありませんでした…で、どうされます?」
担「あと10冊ください!」
私「はい。かしこまりました。」
金メダル翌日の反響は物凄くて「北島の本ありますか?」の嵐だったそう。 他店も同様でやたら在庫を持っているこのお店に出庫要請が殺到。
その日の彼女は問い合わせ対応に追われ続けてうれしい悲鳴だったそうです。 私も予想以上の反響は嬉しかったのですが読みが浅くて反省しました。
その後、このお店は「北島」と「さぴあ作文コンクールの課題図書」を事前にしっかりと確保して売り逃さず他店の助けにもなったと本社からほめられたそうで、店長、課長から彼女も凄くほめられたそう。実は「さぴあ」もウチの本ではないですが私が提供した情報でした。
彼女が「金メダル」をとるお手伝いができた気がして私も誇らしい気持ちになりました。
あれから4年。彼女は2年前に結婚を機に退職。今でも年賀状をやりとりする友人です。若いお店で全員が新人の中、色んなことにチャレンジしたなあ。みんな決して若くなかったけど「青春」がそこにあった気がします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?