この季節になると思い出してしまうひと
2012年にmixiに書いた日記の転載です。今もやっぱり同じ気持ちで思い出します。
学生時代のこと。マリノスサポーターとして仲間と遠征を繰り返していました。 ある競技場で知り合ったカップルの友人として彼と出会いました。イマドキっぽい服装にオサレなアクセサリー、スキンヘッドに近い短い髪。トイ・ストーリーのウッディに似ていてちょっとドキッとしました。
彼は友人カップルと女の子と来ていたので「彼女か…」とちょっとガッカリ。私は私で仲間に「元カレ」がいたので彼からみたらカップルに見えたでしょう。それから彼も一緒に応援仲間として観戦するようになりました。私は少し彼に好意を持っていましたがそんなこともあり何もありませんでした。
っていうか、彼は私にだけよそよそしいっていうより冷たい。何か話しかけてもいつもつっけんどんな受け答えしかしてくれないし彼から話しかけてくれることなんて一切なかった。私のような不細工バカは嫌いなんだろなって女としても人としても凹みました。
彼は服飾系専門学校を卒業し大手小売店に就職。アパレルの道に進むつもりが配属は鮮魚部。入社式は築地市場で朝4時集合だったと雑談で聞きました。「なんで俺が」と思いつつ魚をさばき続けているうちに魚の魅力にとりつかれ今では魚屋に誇りを持っていると語ったその笑顔にズキュンときちゃったんだな~。
と言っても私はいつも「元カレ」といるし、彼は相変わらず冷たいしっていうか、自分といるときに明らかに不機嫌な表情でいるので嫌われているのを自覚しなるべく近寄らないようにしていました。いいなって思う人に嫌われるってかなりきついものですが仕方ないです。
「かおりちゃん!」大学4年の3月、彼から物凄い勢いで声をかけられました。
「はい!なんでしょう?」何を怒られるのかとびびりながら返事をしました。仲間にも「何があった?」と緊張が走ります。
「ご卒業おめでとうございます!」彼は深々と頭をさげました。
(°Д°)!!「…あ、ありがとうございます…Hくんもお誕生日おめでとう」
以前、私の大学の卒業式と彼の誕生日が一緒だねと話していたのでした。仲間も私も拍子抜けしましたが叱られたりしなくてほっとしました。彼からまともに話しかけられたのはソレが初めてだったかもしれません。
社会人になってから仕事が忙しすぎてサッカーから遠くなっていきました。彼の連絡先は知っていましたがサッカーの仲間以上でも以下でもないので、どうしてるかな…と思いつつ連絡をすることはしませんでした。彼は当時携帯を持っていなかったのでなおさら連絡できませんし。
そんな新社会人の7月、体調を崩し入院してしまい病室でぼーっとしていると
「かおりちゃん…」と声がしました。彼です。えっ…なんで…?
「仲間から入院したって聞いてびっくりして、とにかく会いに行かなきゃって 市内の病院かたっぱしから探して、やっと見つかった。」とにかくびっくり。
「かおりちゃん…俺…携帯を買いました!最初に登録したのはかおりちゃんです!」
携帯を目の前につきだして大声で話す彼。私が最初とか嬉しいけどいいの? 彼の携帯番号を聞き、登録しながら彼がその機種を選んだ理由やら聞く。 やっぱ彼は機能だけでなく美しさも重視する。そういうところに惹かれたのね。
「…俺…彼女いない歴=年齢でさ…これから先も一人だったらとか不安で…」
何の流れか、いきなりの身の上話…あの子彼女じゃなかったんだ!
「Hくんかっこいいしお洒落だし自信もっていいよ。絶対に運命の人いるよ。」
私じゃダメ?って言いたかった、けど、言えなかった。嫌われるのが怖くて。
それからどのくらい時間がたったかわからないけど 帰らなきゃいけない時間まで彼はいてくれて、色々なことを話しました。
一ヶ月ほど療養したけれど、彼が来てくれたことは私の支えになりました。
その後私は入退院を繰り返してしまい彼に会ったのはソレが最後になりました。
数年後、彼と共通の友人である当時の仲間と会う機会があり彼がフグの免許を取り独立に向けて頑張っていると聞きました。
「私さ~今だから言うけどHくんのこと好きだったんだよね~ でもHくんは私のこと嫌いだったから言えなかったな。」
「えっ…Hくんずっとかおりちゃんのこと好きだったんだよ。可愛い顔して言いたい放題言うのがたまらないっていつも言ってた。だけど自分は女の子と付き合ったことないし、釣り合わないと思うって…」
えっえっ…どういうことなの…言ってくれれば良かったのに…。
アレはどうやっても好意があるように見えなかったな~と思いつつ自分自身に勇気がなかったことを激しく後悔しましたが後の祭り。今さらどうにもできなくて、恋心は消えていたもののなんともいえない喪失感のようなものをしばらく消すことができませんでした。
それから間もなく私の結婚が決まり、ふと彼のことを思い出しました。
ちょうどその時「Hくんから電話よ~」と母から呼ばれました。えーっ!
「もしもし。Hくん?久しぶり…私も連絡したいと思っていたの。」
「かおりちゃん、俺、生まれて初めて彼女ができたんだ!それが伝えたくて…」
同じテナントの洋菓子売場の女の子が彼に一目惚れをして、店長を通して合コンを依頼してくるなど猛アタックを受けたとのこと。なんとなくつき合い始めたら可愛くて可愛くて仕方なくて、ずっと一緒にいたいなぁと思い始めたそうで、それを私に伝えたかったって。
「そか~おめでとう。だから言ったでしょ?Hくんはすごいんだって!実は私ももうすぐ結婚するんだ…その前にHくんと話したかったんだ。」
「そーなんだ?俺の知らない人?かおりちゃんには幸せになってほしかったからよかったよ。おめでとう。俺もそろそろ考えないとな…」
普通の会話。だけど、なんだろう、愛の告白のようなお別れの言葉のような。何も言わないけど、このときはお互いに全てをわかりあえた気がしました。これ以来彼とは会うどころかいっさい連絡をとっていません。2人の恋は始まることがなかったまま終わりました。
それから15年、いつも彼のことを考えていたり未練があるわけじゃないけれど、Jが始まって大型連休に入り深緑がまぶしい季節になるとスタジアム前で初めて会ったときの彼のことを思いだし意味もなくデパ地下の鮮魚売場の奥のほうまで目をやったりしてしまいます。
小料理屋を夫婦でやりたいと言っていた彼。もし夢が実現しているのなら、名乗らずこっそり行ってみたいなぁ。
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