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washizukami
毎週ショートショートnote『釜揚げ師走』
【釜揚げ師走】なる店があらわれた。ただでさえ忙しい師走の忙しさを丁度いい塩梅に茹でてくれるらしい。
例年よりも多めの師走が手に入った私はこの店を訪ねてみた。
「茹で加減はいかがいたしますか」
「じゃあ硬めでお願いします」
やがて茹で上がってきた師走はたしかに硬めであった。家に持って帰ると妻が言った。
「これ硬すぎない?」
「そうかな」と言うと、妻の実家の地方の師走は柔らかめが普通らしい。
「硬い師走は忙しいから嫌なの」
仕方がないから、硬めの釜揚げ師走をごみ箱に捨てた。
その夜、妻が甘えるようにして私の身体に自分の身体を密着させてきた。そして何かをねだるようにして私の身体を撫で回す。
しばらくしてから憮然とした表情で妻が言った。
「ちっとも硬くならないじゃん」
私は答えた。
「おまえは柔らかい方がいいんだろ」
こんな私達夫婦だけど、いつもなかよく絡みあって熱々である。あたかも釜揚げしたての饂飩のように。
(410文字)
たらはかに様のこちらの企画に参加させて頂きました。