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人民鉄路の看板列車を探せ

わざわざ海外まで出張って行って、鉄道乗り回している皆様こんにちわ
普通列車でのんびり車窓を眺める旅もいいものだが、鉄道会社の看板背負った最優等列車に乗るのもまた格別である。

その国の鉄道会社の技術の粋を集めて、最優等列車にふさわしい設備とサービスを整え、そして何よりその国の鉄道史に受け継がれてきた伝統を引っ提げて颯爽と走る列車はカッコいいのだ。

例えば世界最長の鉄道・シベリア鉄道の看板列車といえば、列車番号1,2を掲げるロシア号がモスクワとウラジオストクを一週間近くかけて結ぶ。
あるいはロシアの二大都市モスクワ‐サンクトペテルブルク間を結ぶ十月鉄道の最優等列車「Кра́сная стрела́」(赤い矢)号も同じく列車番号1,2を名乗る。真っ赤な特別編成はまさに看板列車にふさわしい出で立ちだ。

モスクワ・レニングラード駅にて

あるいは世界で4番目の路線長を持つインドでは、観光列車を除くと、Rajdhani Express(首都特急)と呼ばれる最優等列車が首都デリーと各州都を結んでいる。運賃も最も高く、一等寝台などの設備を備えた列車はまさにインド国鉄を代表する列車群である。車内の治安もその辺の凡百の列車と比べると少しだけよかったり…。

Jammu Rajdhani

ではでは世界で二番目の路線長を持つ中華人民共和国の看板列車は何だろうか。列車番号1を背負う列車?世界で唯一の高速寝台列車?寒帯から亜熱帯まで南北に走る抜ける客車列車?

という本題に入る前にまずは中国の列車種別を確認しておこう。(そんなこと常識だよという知識自慢の読者諸兄は読み飛ばしてもらってかまわない)

中国の列車種別

一般列車
Z列車:直达特快列车(直通特快列車)、大都市間を直通で結ぶ列車として設定、最高速度160㎞/h
T列車:特快列车(特快列車)、主要駅のみ停車の快速列車、最高速度140㎞/h
K列車:快速列车(快速列車)、県級以上の街に停車の快速列車、最高速度120㎞/h
普快列車、普客列車

高速鉄道
G列車:高速動車組、最高速度300㎞/h以上の都市間列車
D列車:動車組、最高速度200∼300km/h程度の都市間列車
C列車:城際動車組、都市近郊輸送

と並べてみるとZ列車こそが人民鉄路の看板を背負うにふさわしい列車種別であることは日本と置き換えてみると頷いてもらえるかと思う。(1A列車のぞみ1号と伝統的に東京発下りのブルートレインが名乗っていた1レを比べてみると、共感してもらえるかとは思う。)

中国における鉄道史を見ても、2004年に蒸気機関車全廃後の鉄道部において、中国铁路第五次大提速という政策が行われ、生まれ変わった高速な鉄道を示すための直達列車19往復が運行された。これが現在のZ列車の原型である。当時最新鋭の25T客車を投入して、北京駅を夕方に並んで発車する様は壮観であっただろう。

Z1/2次、Z3/4次、Z5/6次…

いま筆者の手元に中国鉄道時刻研究会が発行した2023年春夏版の中国鉄道時刻表があるので、Z列車の番号が若い列車群を抜きだしてみたい。

Z1/2次列車
北京西(1757発)→長沙(翌810着)
途中、石家荘、鄭州、武昌、岳陽に停車して一晩で1587㎞を走り抜ける。表定速度は112㎞/hである。北京と広州を結ぶ伝統の京広線を走り、首都・北京と湖北省都・武漢、湖南省都・長沙を結ぶまさに看板列車である。

Z3/4次列車
北京西(1745発)→重慶北(翌1213着)
途中、石家荘、鄭州、漢口、荊州、宜昌東、恩施に停車して2050㎞を走る。表定速度は111㎞/hである。京広線と寧蓉線を通って、首都・北京と直轄市・重慶を結ぶ。

Z5/6次列車
北京西(1605発)→南寧(翌1518着)
途中、石家荘、鄭州、武昌、長沙、衡陽、永州、桂林北、柳州に停車して2495㎞を走る。表定速度は107km/hである。

Z7∼Z10次列車は欠番となっている。
日本の在来線列車では最も表定速度が高いのはサンダーバードの103㎞/hであるので、それよりも速く・長く・長編成で走るこれらの列車はまさに人民鉄路の看板列車であろう。

というところで記事を締めたかったのだが、2019年1月、中国鉄路迷界隈に激震が走った。中国鉄路は直達特快列車を順次高速鉄道の車両に置き換えて、D列車化するというのだ。高速鉄道の車両になっても走行は在来線であるため走行時間はあまり短縮されないとあって、体のいい値上げではないかと非難が巻き上がったのだ。

多くの批判があがったが、中国鉄路は方針を変更することなく値上げを進めた。そして2024年1月、ついに看板列車たるZ1/2次列車とZ3/4次列車がD列車化されてしまった。

Z1次列車を置き換えたD1次列車は停車駅も変わらず、値段だけ上がるという、鉄路の誇りもかなぐり捨てた有様となってしまった。またこのような値上げと同時に余剰となった客車を利用してT列車の格上げという名のステルス値上げを続けた結果、Zの名に見合わない速度と停車駅を持つあまたのZ列車が生まれることとなってしまったのだ。

とはいえ今のところZ5/6次列車は存続しており、いまだZの看板を背負う伝統の列車群も存在している。ここからは各鉄路局ごとに看板列車を順に見ていきたいと思う。(列車の時刻は2024年10月現在、時刻は基本的に奇数列車のものを記載)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E9%89%84%E8%B7%AF%E9%9B%86%E5%9B%A3

哈爾浜局

Z15/16次
北京(2218発)→哈爾浜(翌738着)
中国で最北端と最東端の駅を抱える哈爾浜局が誇る看板列車はZ15/16次列車である。この列車は北京を出ると、なんと終着哈爾浜まで無停車で駆け抜ける。走行距離は1249㎞、表定速度は驚異の121㎞/hである(Z15次)。

この列車は編成も高級軟臥1両+軟臥16両という、座席車はおろか三段寝台である硬臥車すら連結しない、まさに高級高速を地で行く看板列車であり、京哈特急という別名をはじめ、紅旗列車、国家青年文明号など様々な称号を受ける。
哈爾浜局のみならず中国全土を見回しても、この列車に匹敵する看板列車は存在しない。

Z17/18次
北京(2126発)→斉斉哈爾(翌1051着)
先述のZ15/16次を補完するこの列車も哈爾浜局の看板列車である。北京を出ると哈爾浜、大慶西のみに停車して1537㎞先、中国最北の百万都市である斉斉哈爾まで駆け抜ける。表定速度は115㎞/h。16両の硬臥と2両の軟臥を連ねたオール寝台客車は他局であれば旗艦列車であってもおかしくはない威容を誇る。

瀋陽局

Z61/62次
北京西(2120発)→長春(632着)
2004年に運行開始された元祖Z列車19便の一角を占めるZ61/62次列車は、北京西・北京を順に停車すると吉林省都・長春まで無停車で駆け抜ける(Z62次は四平も停車)。走行距離は1012㎞、表定速度は110㎞/h。軟臥8両、高級軟臥1両、硬臥10両の長大編成はまさに伝統の列車の風格である。

Z12/13次(Z11/14次)
瀋陽北(700発)→広州(翌々1241着)
中国東北の中心都市・瀋陽から中国南部の中心都市・広州まで3004㎞を結ぶ超長距離列車の筆頭である。途中、盤錦北、錦州南、葫芦島北、(綏中北↓)、山海関、秦皇島、(↑唐山北)、北京豊台、(↑保定)、石家庄、(↑邯鄲)、鄭州、武昌、(↑信陽)、長沙、(衡陽↓)、(郴州↓)に停車し、表定速度は101㎞/hと遅く、Z列車の看板を掲げるには名前負けする列車である。
しかしこの列車は1949年に開業した北京‐瀋陽間の急行列車3/4列車の系譜をひく列車であり、1959年に洪水被害にあっていた綏中県の住民を数多く助けたことで英雄列車の称号を授与された列車の伝統を引き継ぐ由緒正しき列車でもある。

烏魯木斉局

Z40/41次、Z42/39次
上海(1648発)→烏魯木斉(翌々825着)
上海と新疆ウイグル自治区の首府・ウルムチを結ぶ超長距離列車である。走行距離は3981㎞を誇り、広州‐拉薩間のZ264/265次、Z266/263次が走り始める以前は中国で最長距離を走るZ列車であった(中国境内运行里程最长、运行时间最多、沿途自然环境最为恶劣的一趟列车)。途中停車駅は21駅にも及び、6省1市1地域を通過する。

Z69/70次
北京西(1019発)→烏魯木斉(翌1728着)
首都・北京から西の端・烏魯木斉までを結ぶ列車がこのZ69/70次である。走行距離は3144㎞、表定速度は101㎞/h。乗務員は漢人、ウイグル人、カザフ人、ロシア人など多民族でチームを組み、沿線の地域特性に合わせたサービスを行うことを売りにしている。そのためこの運行チームは全国文明産業創造先進集団、鉄道部先進集団など様々な栄誉を授けられている。

青蔵集団

Z21/22次
北京西(1952発)→拉薩(翌々1136着)
首都・北京とチベット自治区・拉薩間3756㎞を結ぶ超長距離列車である。言わずと知れた世界最高所を走る青蔵鉄道を走る最優等列車である。車両も乗務員も特別に編成された専用チームで運行される様は、この列車が特別であることを示す。途中駅は石家庄北、太原、中衛、蘭州、西寧、徳令哈、ゴルムド、那曲、表定速度は95㎞/h。

成都局

Z77/78次
北京西(1611発)→貴陽(翌2005着)
首都・北京と湖南省南部・貴州省間2536kmを結ぶ。貴州省から初めて北京までの直通列車として登場した149/150列車の後継列車であり、成都局貴陽支局の看板列車としてサービスの高さを何度も表彰されてきた中国鉄路屈指のブランド列車である。停車駅は石家荘、鄭州、武昌、長沙、湘潭、婁底、懐化、玉屏、凱里であり、表定速度は91km/h。

蘭州局

Z55/56次
北京西(1452発)→蘭州(翌743着)
蘭州を擁する甘粛省など西部方面への北京からの直通列車は長らく後回しにされ不遇をかこっていたが、2009年Z列車の増発時に蘭州の経済成長と利用者の大幅増加を蘭州局が強硬に主張した結果、勝ち取った列車である。この列車のブランド化を進めるために蘭州局は、東方航空にスタッフを派遣して専門チームを結成させるほど力を入れている。途中停車駅は保定、陽泉北、太原、中衛、走行距離は1569km、表定速度は93m/h。

上海局

Z99/100次
上海(1727発)→広州(翌958着)
新型コロナウイルス流行前は上海から香港紅磡を結んだ列車であったが、香港への乗り入れが停止された現状では広州までの運行となっている。走行距離は1991㎞、途中停車駅は金華のみ、表定速度は121㎞/hを誇る。硬臥9両、軟臥3両、高級軟臥1両、硬坐3両の編成は様々な旅客に対応した多用途編成である。次に動車化され、客車での運行が停止されるであろうZ列車の候補トップでもあり、早めに乗車しておきたいところである。

Z29/30次 Z51/52次
北京豊台(2140発)→南通(翌953着)
北京豊台(1907発)→南通(翌820着)
首都・北京から中国最大の人口密集地帯である長江下流域方面へのZ列車はほぼ全てD列車化されたが、長江北岸の南通へ向かうこの二列車のみ客車列車のまま残されている。とはいえこのZ29/30次はZ列車運行開始時の19往復のうちのひとつでもあり、伝統の列車でもある。停車駅は明光、揚州、泰州、海安、運行距離は1411㎞、表定速度は118km/h。またZ51/52次は軟臥16両、高級軟臥1両を連ねた中国屈指の高級列車でもある。停車駅は天津西、徐州、沭陽、塩城、東台、海安、如皐、運行距離は1325㎞、表定速度は100㎞/h。

南寧局

Z5/6次
北京西(1605発)→南寧(1444着)
Zを名乗る列車で唯一、一桁ナンバーを掲げる列車が南寧局の看板列車Z5/6次である。詳細は先述した通りであるが、ここ1年でさらなる快速化がはかられ、表定速度は110km/hにまで速くなった。
またこの列車はコロナ前は北京発ハノイ行きの客車を連結しており、国際列車としては唯一のZ列車でもあった。同時に「全国紅旗列車」「全国青年文明号」「全国衛生列車」など様々な栄誉を授けられてきた名物列車でもある。

昆明局

Z53/54次
北京西(2230発)→昆明(翌々1010着)
中国南西部の交通の要衝・昆明は長らく北京と直通するZ列車の設定がなかった。元来この列車は北京と西安を結ぶ軟臥車中心の高級列車の車番であったが、北京と広州を結ぶ高速鉄道の開業に伴い、車両・車番ともに押し出される形で昆明局がZ列車の設定にこぎつけた形だ。北京を出発した翌々日に昆明に着くダイヤ構成や、途中駅が15駅にも及ぶなど決して恵まれた列車ではないが、鄭州・武漢・長沙・貴陽など途中の省都クラスの都市間相互の需要も取り込み人気列車の地位を確保している。走行距離は3174km、表定速度は89km/h。

武漢局

Z25/28次 武昌(2215発)→上海南(翌745着)
Z31/34次 武昌(2204発)→寧波(翌735着)
Z45/48次 武昌(2151発)→杭州(翌602着)
武漢鉄路局の中心都市・武漢は中国中央部屈指の巨大都市であるが、そのため多くの列車が集まり、長年輸送のネックとなっていた。2007年に実施された中国鉄道第六次大高速化により大幅に列車の運行状況が改善されたことにより、武漢局悲願のZ列車大増発の権利を勝ち取った。10∼15分刻みで長江下流部の都市に向けて発車していくZ列車のさまは壮観である。

北京局

Z83/84次
北京(1816発)→斉斉哈爾(翌825着)
中国国家鉄路集団を構成する各鉄路集団の中で最大の社が、この北京鉄路集団である。しかし北京局は高速鉄道の運営がメインであり、Z列車は地方局が担当している列車が多い。そんな中で二桁台のナンバーを持つ唯一の列車がこのZ83/84次である。途中停車駅は秦皇島、哈爾浜、大慶東、走行距離は1537km、表定速度は109km/h。


以上で中国鉄路における看板列車群を紹介した。今はまだ客車列車を連ねて走るこれらの列車もいずれはD列車に格下げされ、高速列車化されるかもしれない。
現に北京‐上海(D1~D10次)、北京‐成都(D49/50次)、北京‐蘭州(D29/30次)、北京‐西安(D43/44次)、北京‐重慶(D3/4次)など、高速鉄道車両で運行される列車の本数は増加の一途である。客車特急列車に揺られてターミナル駅を出発する古き良き鉄道情景を堪能できる時間は残り少ないかもしれない。


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