新疆で綿花畑に迷いこんだお話
これは例の感染症で気軽に海外渡航できなくなる直前のお話。
その日、私は嘉峪関からの夜行列車で早朝というよりはまだ夜中の哈密駅に降り立った。
季節はそろそろ冬に入ろうかという時期で、薄い上着しか着ていなかった私は震えながら駅前の食堂に飛び込んだ。
中国の駅前食堂と言えばメニューは牛肉面か水餃子くらいしか選択肢がない。震えながら啜る牛肉面はただただ熱かった。
私が新疆ウイグル自治区の東の端にあるあまり有名でないこの都市を旅程に組み込んだのには目的があった。この街から南に数10km行ったところに中国最後の現役蒸気機関車が働いているのだ。保存用でもなく観光用でもない蒸気機関車を一目見たかったのだ。
しかし私が渡航する直前にやはり一人で訪れようとした西欧人が中国公安に拘束されたというニュースを聞いたため、泣く泣く訪問はあきらめ市内観光に時間をあてることにした。
新疆では北京時間より2時間遅い新疆時間という標準時がある。非公式ではあるが、店や市内交通や博物館などはこの時間にあわせて動いている。そのため北京時間早朝にこの街に降り立った私は早速時間を持て余してしまった。
食堂で1時間以上粘ったがいい加減店員からの視線も険しくなりだしたので、とりあえず店を出て駅前の大通りを歩きだした。蒸気機関車は見れなかったが、中国ご自慢の高速列車でも撮るかという心づもりである。
地図を見ると哈密駅から西に数km行ったところがいい感じに開けていて撮れそうだったので、そこに向かって歩きだした。
歩いているうちに少しずつ明るくなってきて街が起き始めた。私は旅をしているときはこの朝一番の時間が好きだ。仕事前の腹ごしらえをしている人と並んで食堂で朝食をとったりしていると、その街の一員になった気がする。
1時間ほど歩くと周囲の建物も低くなってきて遠くに線路が見えたのでそちらに近づいていった。線路の横の農地に白い花をつけた作物が植えられているのが見えたが、最初はソバかと思って気にも留めなかった。
線路が見えるとそちらに夢中になって周りが見えなくなるのは撮り鉄の悪い癖である。国内ではそれで色々トラブルを引き起こしていると聞く。私も気を付けなければ...
烏魯木斉に向かう一番列車の時間が近づいてきたのでカメラを構えて列車が来る方を向く。
ちょうど朝日が昇ってきて、列車をシルエットにすれば最高の写真が撮れそうな雰囲気である
が.....
列車はカメラを構えた線路ではなく100mほど奥を走っている別の線路の上を走って行ってしまった...
悔しいので線路だけ撮っておく...
この区間は哈密駅から近く何本も線路が走っているのだが、当然この一番南側の線路を走っていくものとばかり思っていたのだ。
もう全てが嫌になって落ち込みながら、カメラを片付けているとふと視線を感じた。遠くの方からこちらを窺っているような視線である。
ここでふと周りを見回してソバだと思っていた畑を見ると...
いや、めっちゃ綿花やん
アカンやつやん
あの遠くからこちらを窺ってくる視線はよそ者に対する警戒の目か、それとも不審者を見る目か
背中に嫌な汗を感じながら、そさくさとその場から離れる。たまたま迷い込んだだけですよという顔をしながら早足で歩く。
大通りにある交番の前を息を潜めて通りすぎて何とか駅前まで戻ってきた。
この綿花畑の写真も入っている写真集を2021年12月30日~31日に開催されるコミックマーケットC99にて頒布します。頒布スペースは2日目東ネ30bです。
また同人ショップのメロンブックスさんで委託販売も行っているのでこちらからもどうぞ。
ではでは
(国内海外問わず旅行者が畑に踏み込むことは、靴の裏に付着した病原菌等を持ち込む可能性があるため絶対にしないでください。この記事中の写真も車道から撮影しています。)
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