オリジナル商品の『靴クリームボックス』どうですか
いらっしゃいませ。
どうぞ。
こちらを、ご覧になってください。
当店、世界一小さな革靴ショップですので。
どうですか、この小ささ。
本気で世界一を名乗ってますから。
ええ。
でもね、お客様。
男の身だしなみは質です。
大きい小さいではないですから。
まずは、ごゆっくり。
うっとりして、いえ、ごらんになってください。
お客様、こちらも見てください。
ミニボトルを置いてみたんです。
雰囲気でると思って。
いいでしょう。
うっとり感アップみたいな。
え?
なんでミニボトル、ですか?
あれですよ。
ウィスキー使う靴磨きもあるんです。
ポリッシュ、つま先の艶出しですね、それにウィスキーを使うのも味なものですよ。
それに、仕事終わりで、疲れ気味の夜の靴磨きには、酒を飲みながらもアリじゃないですか。
色合いを眺めて一杯やれますし。
こうしてウィスキーを置いておくだけで、靴磨くのも楽しいですよね。
はい?
そんなことない?
靴磨きで1杯できない?
お客様。
失礼な言いかたで申し訳ないですけど、変わってますよね?
いやいや。
変わってるっていわれますよね?
え?
私のほうが変わってる?
なるほど。
まあ、いわれますよ。
うん、お客様。
よくわかりましたね。
さすがです。
でしたら、変わっているついでにオススメしますけど、この『最高級・靴クリームボックス』どうですか?
このタイプのボックスを製作して販売しているのは、世界で当店だけです。
ええ。
少々ご説明させてください。
世界中のすべての靴磨きセットって、箱に入れて収まうじゃないですか。
いやほんとに。
アマゾンで『靴磨きセット』で検索してみてください。
すべからく、箱入れ収納タイプです。
それが具合よくない。
箱に入れて収まうと、靴磨きしなくなるんです。
靴磨きのポイントは、毎日少しずつです。
3分とか4分とか。
習慣みたいなものです。
その度に、箱から出して、また詰めて収まってなんてやっていたらメンドくさいじゃないですか。
そりゃ、オシャレはガマンだっていいますけど、そんなメンドくさいところはガマンしなくていいでしょう。
すぐに手に届くように、すぐに片付けれるように、いつも目に入るように置いておくんです。
このディスプレイタイプの『最高級・靴クリームボックス』で、こまめに靴磨きができるんです。
ここに、男の身だしなみの質が現れるんです。
ええ。
で、これ。
奥行きは靴1足分なので、下駄箱、いやシューズラックに置けるんで。
最高級ですから、目に付くように置いてもよし。
重ね置きしてもよし。
え?
いくら?
ありがとうございます!
さすが、お客様!
いえ、私ね。
あ、申し遅れました。
私、店長の西田と申します。
最初からピンときましたよ。
お客様だったら、このボックスの良さがわかるって。
さすがです!
やっぱ、わかってらっしゃる!
ちなみに、こちらの商品は最高級だけあって、非常に手が込んでまして。
構想3年、試作も3回重ねてます。
というか、これも試作品なんですけどね。
ええ。
ですので、定価は1万4800円とさせていただいておりますが、まあ今回、9800円、いえ、お客様だったら8000円!
いえ私、がんばります!
特別に5000円にさせてください!
その変わり、当店を宣伝してくださいよ、しっかり!
え?
こっちじゃない?
あっちの、ミニボトル?
こんなボックスいらない?
ちょちょちょ、ちょっと、お客様。
そういう話じゃないでしょ。
いやあのね、当店は革靴ショップ。
酒屋じゃないの。
え?
お金がない?
酒の1本でいい?
ですから、お客様。
当店は革靴ショップなの。
それに、これ売っちゃったら、この辺りがさびしくなるじゃない。
ほんと、わかってない人だな。
あいや、お客様。
たいへん失礼しました。
私、取り乱してしまいました。
やっとひとつ売れたと張りきっちゃって。
今日も妻に、売れないだの、ガラクタだの、散々といわれたものだから。
まあでも、お客様。
1本だけほしいってことは、やっぱアレですか?
家に帰る途中で、コンビニで缶チューハイ買って、歩きながらガブ飲みしている人ですか?
やっぱり。
家で酒を飲むを禁止されているんでしょ。
酒の匂いがイヤだとか、しょうもないこといわれて。
わかりますよ、そのくらい。
私の妻も、しょうもないんで。
私もねぇ。
ずっと前は、酒くらい家に帰ってからゆっくり飲めばいいのにって笑って見てましたけど、気がつけば同じことやってましたよ。
ええ。
お客様、ということはですよ。
ここだけの話。
靴磨きを趣味にしたら、どうでしょう?
そしたら、玄関先に自分だけの居場所ができるんです。
靴を磨くのだったら、妻だってそうそうは反対しないじゃないですか。
この際、男の身だしなみの質だなんて、ぶっちゃけどうだっていいんです。
靴磨きに使うって名目で酒も置いて、この『最高級・靴クリームボックス』も置いて、こっそり飲んで、1人で楽しくやればいいんですよ。
あれ、お客様。
なんで、さびしい話をさせるんですか。
やめてくださいよ。
とりあえず今日、家に帰ったら「靴磨きを趣味にしようかな」って妻につぶやいて、ジャブを打つところからはじめましょう。
靴磨きだったら、わるいようにはならないので。
私が保証します。
はい。
しっかし、お客様。
いろいろいってしまって、本当に申し訳ありませんでした。
また寄ってくださいね。
お待ちしております。