お客様。革靴を選ぶときに中を覗いてみてください。
いいですか、お客様。
ファッション誌を開くと、50万100万の革靴が当たり前のようにして載ってます。
それが良い革靴だと絶賛されてます。
でもね。
革靴ってのは、高ければいいってものじゃない。
もし、2万5000円で良い革靴が買えたなら、5000円で靴クリームとブラシを買う。
髪は1000円カットだとしても、1万円でワイシャツをオーダーメイドもする。
ベルトは3000円の合皮にしても、バッグは3万ほどの本皮にしてみる。
ジャケットはユニクロにしても、ポケットには3000円のシルクチーフを挿してみる。
そうするうちに「高そうな革靴」って言われるものです。
お客様。
私もね、高いほうがいいだろうって思って25万の革靴を買ったことありました。
銀座に本店がある某革靴店でセミオーダーして。
創業100年を超えているので期待して。
そしたらね。
履き具合が、3万4万の革靴と変わらない変わらない。
その後の手入れだって、経年の風味だって、3万4万の革靴と同じです。
ああなんか、余計な買い物したなって。
3万4万の革靴を5足選んで並べたほうがよかったなって。
5足あれば、1日履いて1週間休ませることもできますし。
そのほうが革靴はグンと長持ちしますし。
だって、お客様。
あのチャールズ国王だってですよ。
革靴を4足しか持ってなくて、それをリペアして履き続けているんです。
聞いた話ですけど。
とにかく、天下の国王が革靴を4足ですから。
我々庶民は、5足も持てば、とりあえずはチャールズ(敬称略)には勝ったなって満足でしょう。
それにね、お客様。
革靴を10も20も持っている人ってのは変態ですから。
はい、まちがいありません。
ただの変態です。
だってね、5足までは実用で揃えますよ。
けど6足目くらいから、革靴を見る目つきが変わってくる。
7足目から、革靴への言動がおかしくなってくる。
8足目から、革靴と向き合う時間が増えてくる。
9足目で、革靴を撫でたり話しかける、もうヤバい人。
10足目となると、もはや手遅れ、もはや立派な変態。
ここ、大事なんで繰り返します。
革靴を10も20も持っている人ってのは、立派な変態です。
お客様、失礼ですけど変態ですか?
ちがいますよね?
であれば、革靴は5足あれば十分です。
10足も揃えたら、周りの理解が得られない。
今の時代、さまざまな靴がありますから。
とくに若い女性は、革靴の良さなんてわかってない。
はい?
良さがわかる若い女性もいる?
ですから。
それはキャバクラでの話でしょ。
どうせ、赤羽あたりのキャバクラでキャッキャッしてんでしょ。
はい?
赤羽はともかく、変態は言いすぎ?
お客様。
わかってらっしゃらない。
普通の人からすれば、革靴好きは理解されづらいんです。
想像してみてください。
暗い夜道を歩いているときに、腕時計を見てニヤニヤしている人がいたら「ああ、時計が好きなんだな」って思うでしょ。
でもね。
もしそれが、革靴を手にしてニヤニヤしている人だったら「うわ、変態だ!」って逃げるでしょ。
しかもそれが、赤羽の夜道だったらどうします。
恐怖しかないでしょ。
そういうことなんです。
どうせ、10足目の革靴を買ったものなら。
1週間は枕元に置いて、寝る前にはうっとりして眺めて話しかけて、頬ずりして撫で回して、朝起きれば匂いを嗅いだりキスしたりするんですから。
人に見せれます?
そんな姿?
普通に変態ですよね?
そうして、革靴好きは孤独にもなるのです。
1人で革靴を磨いて、1人で眺めて、1人でうっとりして、1人でニヤニヤするのです。
末期になると『世界一小さな革靴ショップ』とかはじめて、売れもしないオリジナル商品を作って、売上ゼロをぶちかますようになりますから…って、それは私ではないですかぁぁっ!
お客様。
話を戻します。
革靴を選ぶときのポイントです。
それはここ。
足の親指の付け根。
そこからの小指の付け根。
革靴が最も曲がるのが、つまりは可動して負担がかかるのが、この親指から小指の付け根の部分。
ここの部分に耐久性があるか、が重要です。
チェックしなければならないのは、この部分の内側の作り。
以下、この部分を内張りとします。
そして、ピッタリと2万5000円を境にして内張りが変わるんです。
革を接着財で張り合わせていただけなのが、糸で縫って補強もされるように変わる。
セメンテッド(接着)が、ステッチド(縫製)に変わる。
お客様。
内張りは重要な部分ですが、外側からは作りがわからない。
ですから革靴を買う前に手にとって、中を覗いてチェックしてください。
糸で縫うために、革の厚みも増しているでしょう。
ステッチドの革靴のほうが耐性が増すといってもいい。
価格が2万5000円であっても、この内張りがステッチドだったら、いい革靴です。
この場合の “ いい革靴 ” とは、長く行動を共にできる革靴だと補足もしておきます。
なんでしょう?
本当に2万5000円が境なのかって?
ええ。
実際に、多くの店で1000足以上は覗いて確かめましたから。
不思議ですけど、ピッタリと2万5000円が境なのです。
どのようなものでも相場というものがあります。
作り手のコスト、売り手の利幅、それらで形成された価格ラインしょうね。
店長の私がいえることは、最初から2万5000円でも買う人は、モノがよければ3万でも4万でも出す人なんですね。
ところが、ギリギリ2万5000円までしか出せない、なんとか2万5000円まででお願いしますという人は、3万となると引っくり返ってしまう。
革の原価は3000円もしないのに、3万で売るなんて詐欺なんじゃないかとも言ってのける。
そういう人を見分けるためにも、2万5000円という価格ラインは使えるのです。
とにかくもです。
2万5000円で、内張りがステッチドだったら買い候補。
そして5万以上となると、ここの内張りは間違いなくステッチドになってます。
注意しなければなのが、その中間。
3万4万の価格帯。
大事なところなんで繰り返します。
3万4万の革靴こそ、中を覗いてチェックしてください。
まちまちなんです。
無名メーカーの3万の革靴であっても、内張りはステッチドだったりする。
逆に、有名メーカーの4万の革靴であっても、内張りがセメンテッドだったりする。
たとえ老舗百貨店の紳士靴売り場であっても、内張りがセメンテッドだったら選ばないほうが賢明です。
良くない革靴とはいいません。
革靴を作る人には敬意を払わないといけませんから。
ただ、長く履ける楽しみは半減します、というだけです。
もちろん、セメンテッドのみで作られた革靴も頑丈です。
接着剤の性能も、驚くくらいに年々と向上してます。
しかし、当たり外れがあるんですよね。
ダメになるときはすぐにダメになる。
はい?
当たり外れって、どういうところがって?
そうですね。
雑に作られている革靴もあるというのか。
とくに、内張りは外から見えない部分。
覗いてみると、接着剤がベタベタとハミ出していたりします。
それくらいだったらいいのですけど、隅まで接着されてなくて、新品なのに剥がれていたりもします。
そうすると、履いてすぐに、剥がれた皮が丸まって異物感が出てきます。
シューツリーを入れたら、剥がれた革や布が引っかかって、さらにベリベリッと剥がれたりも。
最大は、革が裂けることですね。
小指の付け根が裂けやすい。
ところが。
ステッチドの革靴だと、当たり外れがない。
少なくとも、私が履きつぶした革靴のすべてが、内張りがセメンテッドでした。
ここの内張りがしっかりと作られた革靴というのは、全体的にしっかりとした作りなのでしょうね。
長くなっていけないのですが、細かなことをいうと。
内張りがセメンテッドの革靴だったら、コストダウンのために合皮が交じっている可能性が高い。
合皮を使っても、50%までだったらJIS規格では『 天然皮使用 』と銘打つことができます。
合皮はスレやヨジれ、あとは水分にも弱いんです。
ですが、最新の合皮はよくできていて、新品の時点では見分けがつかないほど。
おそらくですが。
コストダウンのために内張りが合皮だとすればです。
ソール(靴底)の中身もコルクと本皮は使ってないでしょう。
おそらくパルプ(紙)とフェルト(布)です。
ガタがきて壊れる、臭う、カビるというのは、これらの材料のセメンテッドです。
いかに本革というのは、古く新しい素材なのか。
気をつけなければいけないのは、有名メーカーであっても、老舗百貨店であっても、パルプとフェルトと合皮交じりの革靴を3万4万の値付けして売っていることなんです。
あれ。
失礼しました、お客様。
つい長くなりました。
お時間、だいじょうぶですか?
まだ、革靴を選ぶポイントはあるのですけど。
~続く~
世界一小さな革靴ショップ『西田』X支店
こちらも、何卒よろしくお願いします。