3回めのカウンセリング(話をする準備が整いはじめた)
(7月)
3回めのカウンセリングは、前回から2週間あけて行われた。いつもの通りのカウンセリングルーム、簡素で、静かで、カウンセラーの手によって扉が閉められる。
3回目のカウンセリングのやり取り(覚えている限り)
①前回から変わったことはありますか?
(1)あまりないように思います。つらかったり悲しかったりするし、もうたたかいたくないっておもったり…
②戦う?
(2)ちょうどきのう美容院に行って、髪の毛きれいにしてもらってこれでまた戦えますね、って言ったら、美容師さんが「そんなにみんな戦ってないですよ」って笑ってて(考える)それが本当かどうかはわからないですけど、でもわたしもときどきはたたかいたくない、と思いました、それで(考える)、…そうです。
「戦う」とはどんなことで、それによって何が起きるのか
③何と戦っているんですか?
(3)ぜんぶです、全て(考える)…全部ですね
④戦うとあなたに何が起こるんですか?
(4)勝ったり負けたりします。
⑤勝つと、どうなりますか?それともどんなことを思う?
(5)勝ったら、そこでおしまいです。終わり、うれしい。負けると、(考える)、たたかいは終わりません。それについて、(考える)、もっと考えたり、負けたことについて、なぜそうなったか、考えないといけない。
⑥戦ってると、疲れちゃいますよね。
(6)疲れます。
⑦「全部」ということについてもう一度聞いてもいいですか?
(7)はい、それはたとえば、家をでてここ(カウンセリングルーム)に来るということ、いろんなこと、街や物音や通り過ぎる人々に、怯えないで、ここまで来て、カウンセリングルームの椅子に座れたら、勝ちです。そういう、自分の外側でおこることが「全部」ということで、生活のほとんどは、自分と、その外側にあるすべてのものとの、たたかい…折り合いのときも、あるけど…でもたたかいです。勝ったり負けたりします。
⑧「物音」が気になりますか?
(8)うーん(考える)、気になります、人がしゃべっていることとか…救急車のサイレンがきたりすると…「きちんと対応しなければならない」ということがたたかいです。正しくそこに居られるかどうかということです。たとえば工事の人が「気をつけてお通りください」って言ってくれたら、ちゃんと、十全に、気をつけて、通らなければならない。ちゃんと通れないと負けだと思います。そういう負けがいくつかあったら、ここまでたどり着けなくて、それはもう本当に負けなんですね…
⑨たとえばそういう人の声や音で何かを思い出してしまうことが多いですか?
(9)音だけが特別記憶を揺さぶるというわけではないと思っています。見えるものとか、季節とか、聞こえる音とか、そういう、感じることの全てからあらゆる記憶や考えがはじまります。常に。
⑩いつもですか?
(10)そう、常です…
⑪そのときの、体の感覚はどうですか?変わったことがありますか?
(11)めまいによく似ている感じがします。それから一歩が長い…自分だけが重たい空気の中を進んでいる感じ…
⑫なかなか前に進めないという感覚?
(12)そうです、自分だけが…、そしてそれはつらいことです
⑬そういった感覚はいつからあるのでしょう?
(13)16歳くらいだと、思います。
「たたかう」に対しての「たたかわない時間」について
⑭あなたがたたかっていない時間は、ありますか?
(14)あると思います、お風呂にひとりで入ってるときと、トイレに入ってるとき…
⑮そういう時間は、とても大切な時間ですね。その、あなたが「たたかっていない」という状況が他にもあれば、それから、そのときに感じていることがわかれば、いつでも教えてくださいね。
(15)はい
⑯今はどうですか?
(16)今は、思っていることを話せていると思います、そんなに悪い気分でないです。このあととても疲れることがわかっているんですけど、でも悪いことじゃないと思っています。
⑰全然悪くないですよ
(17)(泣いて話すことができなくなった)
⑱あなたが、ここで、感じたことや思っていることを、真剣に話そうとすることがわかりますし、わたしもそこからあなたのことを知ろうと思っています。
(18)それは、わかります。でも、(とても長く迷う)、ここで話したことが、本当じゃなかったらどうしようという気持ちになることがあります。本当のことを話したいと思って話していても、そうならないようなときがあります。あるいは、帰ってから、やっぱりあの部屋のなかでは本当のことは全然言えなかった、と思うかもしれないと思います。
⑲大丈夫ですよ、もし自分が行ったことが本当でないと気づいたときにはそのときに言ってくれればいいです。わたしは、あなたがいまここで話していることを事実として受け止めます。あなたは、この部屋であなたから出てくる言葉をここで言うことができます。
(19)(泣いてしばらく話すことができない)頷く
⑳先ほど話していた、「たたかわなくていい時間」を大事にしてみてください。見つけたら教えてください、そのときに感じていることや、体の状態について、わかることも。一緒にその時間をどのように持ち続けるか考えたいと思っています。
(20)(頷く、疲れている)
3回目のカウンセリングがおわり、つかれて、部屋を出る
次回のカウンセリングをまた2週間後に定めて、今回はこれでおしまい。
わたしたちは、小さな丸テーブルをはさんで、対話をする準備がやっとできたかもしれない、と感じている。彼女がわたしのなかに入ってこようとしないこと、わたしが彼女をわたしのなかに招き入れなくても、彼女がわたしの話を聞く姿勢を持っていることについて理解したと思う。
部屋を出るときは、一人で出る。
扉はカウンセラーが開けてくれる。そして、また前回や、前々回と同じように、精神科と併用の待合室で、支払いに呼ばれるのを待つ。