スキップ融合チーム&ヨーロッパスタイルにロコ・ソラーレは勝てるか? (カーリング世界選手権2023回顧)
緊張するスポーツ、カーリング。
チーム藤澤五月(ロコ・ソラーレ)がプレーオフで負けた瞬間に、かなり気が抜けた。カーリングというスポーツは選手の会話と、ストーンが氷の上を滑る音が聞こえる静かなスポーツだ。それなのに、テレビ観戦するこちらは、かなり緊張して見ている。決勝でノルウェーのフォース・スカスリエンがドローをハウスに入れれば同点でエキストラ、という場面でショートして2点スチールを許して優勝を逃すした。見た目は簡単なショットでも決められない。その緊張感が伝わる怖さ、それがカーリングなのだ。
ロコ・ソラーレのゲームは、いつだって明るさと緊張感を味わえる。それがカーリングそのものの魅力である。
スキップの融合チームが世界のトレンド!?
世界選手権の優勝はティリンツォーニ(スイス🇨🇭)、2位がローヴィク(ノルウェー🇳🇴)、3位がエイナーソン(カナダ🇨🇦)、という結果だった。この3チームに共通しているのが、
違うチームのスキップ同士が手を組んだチーム
だということだ。
スイス🇨🇭→ティリンツォーニがサードスキップ、アリーナ・ペーツがフォース
ノルウェー🇳🇴→ローヴィクがサードスキップ、スカスリエンがフォース
カナダ🇨🇦→4人全員がスキップ経験者
スキップをやらざるものは世界を制することはできないのか? 世界選手権に出場していないチームだが、スコッティーズ(カナダ女子選手権)の準決勝まで進出したチーム・マッカーヴィルも他チームのスキップを迎え入れたようだ。この世界的な流れは止まらないのだろう。
テイク重視のヨーロッパスタイルにロコ・ソラーレは弱い!?
ロコ・ソラーレが敗北を喫したチームの中にはトルコ🇹🇷とイタリア🇮🇹がある。この2チームともに、戦術がローリスク重視というところが共通している。ノーティック・ルール(ガードストーンをセンターラインに置いた場合は、5投目までは動かすことができない)の採用により、センターガードを置かれたら次はカムアラウンドしてストーンをTラインよりも上に置く作戦をとるチームが増えた。No.1を素早く取って、相手にプレッシャーをかけるのが昨今の主流になっている。
ところがイタリアとトルコはガードにはかまわずに、ハウスの3時方向にストーンを置いてくる。ガードを置いた側は当然のように自分たちが回り込んでストーンをT前に隠してNo.1を取ってくるが、それがまるで気にならないのだろうか?
この2チームは相手がセンターを占めて来たところで、ランバックなどのテイクショットで撃ち抜いて中央付近を空けてくる。ロコ・ソラーレは自分たちが置いた石をことごとく弾かれてその都度作戦の変更を迫られて後手に回り、相手のフォースに決められるパターンでずるずると流れを失った。
また、この大会はコーナーガードの裏にストーンを隠しても、少なくともロコ・ソラーレのゲームではなかなか機能しなかった。複数点がなかなか取れないのが今大会のロコ・ソラーレだったのは、アイスの読みが難しいだけだったのか、戦術の過渡期ということなのか?
ヨーロッパはテイク重視、カナダ(北米)はドロー重視、と言われているようだが、ロコ・ソラーレは完全なカナダスタイルで、ラインを読みウエイトジャッジを正確に把握してドローを入れてくる。この攻撃的なスタイルも、テイクで簡単に弾かれてはどうにもならない。今大会では1勝1敗だったエイナーソンとは、波長が合うのか2試合とも接戦だった。ロコ・ソラーレはヨーロッパスタイルとの対戦をもう少し増やすことも必要なのだろうか。
ロコ・ソラーレは未だ成長の途中
プレーオフでカナダに負けたあと、スキップの藤澤五月は10エンドの自らの1投で自チームのNo.1ストーンを弾いてしまったショットを悔やみ、敗戦の責任を一身に背負った。スキップは基本的に戦術の決定とスコアを決める最後の2投を投じる、チームの勝敗とそれによって生じる運命を決める立場だ。NFLのクォーターバックと同じくらいの責任の大きさがあるのではないか。
ロコ・ソラーレが負ける時の特徴は、日本選手権でも世界選手権でも、フォースの調子が絶好調で手がつけられない相手と当たった時だ。青森フィロシークも、トルコやイタリアも、そして北京五輪シーズンのスコットランドもそうだった。それでもいなして勝てるチームになるにはどうしたらいいのか、実力が世界レベルになり相手から恐れられる存在になり全力でぶつかってくる相手に勝つにはどうしたらいいか。
今のロコ・ソラーレは番付で言えば大関クラスは十分にある。これから横綱に昇進するために、格下相手に確実に勝つにはどうしたらいいか、ヨーロッパスタイルにも勝つにはどうしたらいいか。勝てる実力がありながらも、カナダ戦の10エンドの1ショットで負けてしまった。ということは、逆に決まれば勝てるゲームもあった、ほんの紙一重の状況で戦っていたということだ。もしも、初戦のデンマーク戦で勝ち切っていれば、もっと楽に勝ち星を積み重ねることができたかもしれない。吉田知那美がダブルテイクアウトを再三再四決めていたので、そこで藤澤がさらに決めればもっと点数が取れただろう。
今後は経験を積み重ねると同時に、アイスの状態を掴みきれない初戦や2戦目でも勝ち切ることが必要かもしれない。見ていて気になったのは、リスク重視で相手に点数を与えることを計算するよりも、果敢に得点を狙う場面が、少し無謀に見えたのが気になった。これは筆者がうがっているかもしれない。ただ、ヨーロッパで行われるゲームをまた経験できたのは大きく、イタリアの五輪(26年ミラノ・コルティナダンペッツォ)にも生きてくるはずだ。ロコ・ソラーレが出場できれば、これが大きなアドバンテージになるだろう。
日本のシンデレラチーム、ロコ・ソラーレの冒険はまだ始まったばかりだ。
日本のジュニア、一時停止は飛躍の直前。
世界選手権がNHK-BSで放送されていたその裏で、日本ジュニアカーリング選手権がYouTubeでひっそり(!?)と閲覧できた。ロコ・ソラーレが持つ明るくて密度の濃いコミュニケーションと戦術理解度が高いゲームを堪能しながら、初めてまともに見るジュニアのカーリングはとにかく攻撃的で魅力的だった。
筆者の注目はジュニア世界選手権でチーム日本のフォーススキップを担った高校生とそのチームだ。まだ高校生なので、あえて実名は書かないが、大学生もしくは社会人になってから堂々と名前を書きたい。その人は紛れもなく藤澤五月の後継者、ひょっとしたら超えていく可能性がある。世界選手権を見ていても、フォースの実力が世界番付で横綱大関レベルでなければ、まず世界で勝つのは無理。その点で、この頁の主人公は、今の日本女子で世界レベルになる可能性を最も秘めている。高校3年の年齢でスキップを務めて世界ジュニアの決勝まで勝ち上がってくるのは伊達ではない。
日本ジュニアでも、予選リーグを全勝。決勝まで勝ち上がったがそこでは序盤から一方的に相手に形勢が傾いて試合にならなかった。セットアップで後手を踏み、投げるコースを狭くされ、フォースで打開しようにもどうにもならなかった。この大会で負けたのは日本選手権に出場した北海道銀行のメンバー3人が入った札幌協会だけ。決勝ではまるでフォースの対策を徹底して行って来たかのように、札幌協会が完璧なゲームをしたという印象だった。日本選手権レベルのチームに徹底的にマークされる高校生のフォーススキップ、それを確認できたような気がして、ちょっとした収穫を得た気分だ。
そして興味深かったのは、第5エンドで作戦タイムをとった時。コーチが離れる直前にチームみんなで笑い合ったところ。
世界ジュニアに出る目標が絶たれようとしている時でも、笑っていられるのはいいことだと思った。不謹慎とか不真面目、そうは思わなかった。圧倒的に不利な状況でも、笑って目の前の状況に向かえる、このチームこの選手なら可能性は大いにありそうだ。ひとつの目標は断たれたが、いっそのこと日本選手権を目指してそこでどんなカーリングをするのか見てみたい。
日本のカーリングはまだまだこれからだ。
(了。敬称略。)
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