コワかった藤澤五月を素直に応援する

カーリングがつまらないという人の気持ちがわからない。カーリングをのんびりと見ることができる人は信じられない。

カーリングは4人が、あたかも1人の人間になるかの如く、その途方もない作業と鍛錬を繰り返す、チームスポーツの極致だと思っている。一投なげ終わるたびに展開が変わり、ピンチとチャンスが交互に押し寄せる、それを見ていてとても気が気じゃない、そこが大きな魅力だ。

日本人のカーリング選手の中で、最もコワいのは藤澤五月だと思っている。それは、この人が日本が産んだ最高のカーラーだと信じて疑わないから。そして、平昌五輪の頃までは、別のチームに肩入れしていたので、その行く手を阻むなら、この人がいるチームだろうと思っていたからだ。

肩入れしていたのは。小笠原歩率いる北海道銀行フォルティウス(現・フォルティウス)。トリノ五輪でカーリング娘旋風を巻き起こした小野寺(現・小笠原)歩と林(現・船山)弓枝を中心に日本女子カーラーの中では体格がいい選手を揃え、30代と20代の異なる年代の融合チーム。160センチを超える吉村紗也香162センチ、近江谷杏菜166センチ、小野寺佳歩165センチを揃えたフォルティウスは、日本カーリングの未来を明るく照らしているように思えた。2015年に札幌で開催された世界選手権に出場し、日本の中では平昌五輪へのアドバンテージを握ったと見えた。

ライバルが躍進を遂げる中で、2015年当時中部電力に所属していた藤澤五月は闇の中をさまよっているかのようだった。

筆者は、当時の日本選手権での藤澤で忘れられないシーンがあった。予選リーグのある試合、敗色濃厚のゲーム。プレーをしている中にもかかわらず、心ここにあらず……。

4人でプレーしているのに、ひとりで絶望に打ちひしがれているような表情をする藤澤の表情がテレビに映し出された。目標を失っているのかもしれない。カーリングをこのまま続けていけるのだろうか、そんな勝手な料簡を覚えてしまうような表情をしていた。

それからほどなく、驚きのニュースが飛び込んできた。2015年5月、藤澤五月がLS北見(現、ロコ・ソラーレ)に加入したのだ。まさか本橋麻里がスキップを務めるチームに藤澤が入るとは驚いた。しかもフォーススキップに藤澤が入る。藤澤が司令塔になるなら、このチームは強くなるかもしれない。

大きかったのは、サードに吉田知那美が収まったことだ。天才肌の藤澤を支える吉田知、優れたラグビーチームのハーフ団、スクラムハーフとスタンドオフのように、頭脳と感情のコントロールのバランスがとれたのだろう。代表決定戦からPACC、日本選手権、世界選手権2位、そして平昌五輪で銅メダルを獲得するまでに駆け上った。

フォルティウスは実力上位と見られながら五輪に出られず、五輪を経て1年ほど経った頃、小笠原はチームを離れた。筆者はここでフォルティウスへの肩入れを止めた。2021年に道銀からスポンサー契約から離れたことまで俯瞰すると、人が離れていく過程を見せられているような気がする。選手を迎え入れながら競技レベルを上げ、同世代の4人の融合を図ることに成功したロコ・ソラーレが世界レベルになった。チームつくりは、身長が高い選手を集めるだけでは勝てない。

平昌五輪後の藤澤でも思い出す表情がある。2020年の日本選手権決勝のラストロック。この時は最後ドローで置きにいって決めるところを、テイクショットを選択した。ドローでは精神的にきついのでチームメイトに相談して、テイクにしたようだ。

心の揺らぎをチームメイトに見せた。もしかしたら、中部電力にいたころは勝敗の責任を負うがあまりにチームメイトに頼る気持ちを持てなかったのかもしれないが、この頃はかたくなさを少し捨てはじめたのかもしれない。結果は見事に決めて日本一に輝き、これが北京五輪への道の第一歩になった。この試合あたりから、遅まきながら藤澤五月はもちろんロコ・ソラーレに肩入れし始めた。彼女たちの笑顔の裏にある感情の揺らぎを、こちらが素直に受け入れて観戦できるようになったからだ。

北京五輪への出場を自力で決めたロコ・ソラーレの強さが、藤澤ひとりの力で成し遂げられているように評価するのは間違っている。インスタグラムで度々含蓄がある文章をのせる吉田知がコミュニケーションの柱であり、ゲームの流れを変えるショットメーカーであることがこのチームの強み。そして、最近の記事でその名を取り上げられることが増えた鈴木夕湖のスイーパー能力、そしてクレージースイーパーズのもう一人でもあるウイックショットはほぼ決めるほどの精度をほこる吉田夕梨花、と一人一人をとりあげてコラムを書けそうな逸材ぞろいなのが魅力的である。同世代チームでまとまる良さがある。

それでも、藤澤五月がフォースとしてエンドのラストロックを投げるのは、ロコにとっての強みであり、それが五輪での好成績を期待できる。ただ、筆者にはその能力を正確に把握できる文章を書けない。すべては勘によるものだが、これは当たっていると思いたい。五輪代表決定戦でフォルティウスに勝ったのも、つまるところ藤澤と吉村の差だと思っている。4人制のカーリングにおいてフォーススキップが占める責任の重さは、仮にプロ野球でプレーイングマネジャーがいたとしてもそれよりも重いかもしれない。なぜなら、必ず点数が決まるショットを打ち結果を突きつけられるからだ。野球で打点を上げる可能性はスターティングメンバー9人なら誰でも勝利打点を上げられるが、カーリングは常にフォースである4人目の選手がスコアを決める。勝利の結果を残してきた藤澤が、日本のナンバー1カーラーだ。

北京五輪は素直にロコ・ソラーレを応援できる。他に注目しているのはスウェーデンのチーム・ハッセルボリ。この2チームは少なくとも4年前の平昌五輪からメンバー編成を変えていない。カーリングのチームワークは一朝一夕には身につかないもの、この2チームに熟成の強みを見せてほしい。藤澤とハッセルボリの対決は2月10日の初戦、どんな戦いを見せるか。できれば金メダルマッチでの再戦、となればうれしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?