ロコ・ソラーレは、カーリングとは何かを教えてくれる
1、ジェニファー・ジョーンズの愛情
チーム藤澤(ロコ・ソラーレ)が金メダルをとる。これが現実になろうとしている。外れても銀メダルなのだから、絶対に金メダルをとる、と言い切ってしまおう。
その後押しをしてくれたのは、カナダのレジェンドだろう。そんなことを思わせるシーンがあった。
日本は予選リーグ最後のスイス戦に敗れ、決勝トーナメントを見ることなく帰国する、と彼女たちは思っていたところに、まさかの予選通過の知らせを受け、驚きと興奮で感情の整理がつかないままインタビューをうけていた。そこに、カナダのジェニファー・ジョーンズが近寄って、藤澤五月と吉田知那美を抱き寄せ言葉をかけた。
ソチ五輪で全勝優勝したレジェンドが、ロコソラーレについて「カーリングとは何かを教えてくれる」と謙虚にかまえ、そして愛情と労りをこめた言葉を20秒余りをかけて伝えてくれた。その言葉の内容はツイートから入って確かめてほしい。このシーンを的確に伝える言葉を、筆者は持ち合わせていない。ただただ、ありがとう、と伝えたい。
北京五輪のカーリング女子の予選リーグは、世界一残酷な結末を用意していた。5勝4敗同士のカナダと日本を最後に分けたのは、DSC(ドローショットチャレンジ)の差、わずか9.44cmだった。まさに天国と地獄。そして突き落とされた側がかける優しさと愛情、これを受け取った側は、絶対に優勝すると思っている。そして、思いっきり感情を揺さぶられて泣きはらしたであろうから、決勝トーナメントはかえっておちついてプレーできるのではないか。事実、準決勝はスイスと再戦し、8-6で見事な勝利をあげた。
風はロコ・ソラーレに吹いている。
2、ミュアヘッドは決勝が現役最後なのか?
日本対英国戦を前に、かなり気になる記事をみつけた。
「間違いなく最後の石になる」。
これは北京五輪を最後に引退するということだろうか?
これ以上、憶測はしない。
ここで、決勝に向けて、データを張り付けておく。興味がある方はリンクをみてほしい。
最後は筆者の #note から引用した。けっこう当たっているね(自慢)。
いよいよ、北京五輪の決勝について書く。
かなり難しいゲームになる。
五輪最終予選を勝ち上がった同士、北京五輪予選リーグの3位と4位、ともに5勝4敗のチームが対戦するということは、いかに今大会のチームの実力が高いレベルで拮抗していたかの証明になる。
チーム別のショット率では日本が1位、英国が5位。ポジション別では日本はフォースで藤澤五月、リードで吉田夕梨花、サードでヴィッキー・ライトが、それぞれ1位を記録している。ここ2試合の対戦では、イヴ・ミュアヘッドに前半でスーパーショットを決められて試合の主導権を握られ、日本はどうすることもできない展開に持ち込まれている。加えて予選リーグの試合では、藤澤のラストショットが髪の毛を踏んでしまってハウスに届かない不運にも見舞われた。英国は準決勝のスウェーデン戦では1エンドに4点を奪われながらエキストラエンドに持ち込んで粘り勝ちした。相手も勢いに乗っている。簡単なゲームになるはずがない。
ミュアヘッドの弱点を上げるとしたら、彼女自身のメンタルかもしれない。平昌五輪の銅メダルマッチのラストショットはわずかに狙いから外れた。厳しい場面での勝負強さは藤澤のほうが上だろう。ただ、昨年の欧州選手権で優勝したあたりから、ミュアヘッドの精神状態が安定しているように見える。相手の自滅を誘うのは難しい。
戦術面では、ミュアヘッドにテイクショットではなく、ドローを投げさせるような難しい展開に持ち込みたいが、ハウスに石がたまる展開でも今大会は打開できるようなショットが冴えることがある。筆者には英国の問題点を見つけるのは難しい。ここは藤澤の戦術的な駆け引きの上手さを見せてほしい。日本としては、5エンドまでを無難に立ち上がれば勝機はおとずれる。
3、競争制か選抜制か
日本と英国の対戦は、かなり興味深い対戦になった。筆者は日本とスウェーデンの決勝が見たかった。平昌五輪からメンバーを変えていないチームが強い、と証明してほしかったからだ。しかし日本の予想は当たったが、もう一方は英国が上がってきた。日本とは対照的なチームつくりをしてきたチームとの対戦、これはこれで面白いことになってきた。
日本複数のチームが競争することで国内レベルを上げるカナダと似た方式を根付かせている。一方の英国は、複数のカーラーを選抜しミュアヘッドのリーダーシップにゆだねる方式を取った。筆者は平昌五輪からメンバーを変えずに苦労をともにしてきたことが、ロコ・ソラーレの強みだと思っている。サッカーでも国の代表チームよりも練習期間が長いクラブチームのほうが強い。フィフスを含めた5人が1人の人間であるかのように苦労をともにしていくことがカーリングの勝つチームつくりだ。
しかし、特にヨーロッパでは今回の英国のように選抜制に近いことをやってくる国が増えるかもしれない。混合ダブルスで金メダルをとったイタリアはS・コンスタンティーニを中心にチームを組み立ててくる。競技人口が少ないチームは選抜制に近いことをやってくる可能性はある。
カーリングの未来予想図を語るうえで、複数チームの競争から勝ち上がってきた日本のロコ・ソラーレと、選手の能力を実戦を通して見極めて選抜してきた英国、そのどちらが勝つか。それを見るだけでも北京五輪の決勝は面白いことになりそうだ。
最後に。ジェニファー・ジョーンズはこう言っていた。
「彼女たちは私にカーリングとは何かを教えてくれます。純粋な喜び、仕事に対する姿勢、スポーツマンシップ、試合への愛、そして氷上で全て出し切ること。」
ロコ・ソラーレにはカーリングに対するたぐいまれなる愛情がある。その競技に対する献身と心から湧き上がる明るさが、世界を魅了しつつある。ゴールドメダルマッチが終わったとき、世界がロコ・ソラーレが発散するオーラに包まれた幸せを共有することになる。その瞬間はもう間もなくだ。(了)
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