チーム三浦由唯菜、日本代表3連戦へジュニアチームの準備と飛躍〜Saville U25 Challenge

JJクレッシェンドからチーム札幌国際大学への変遷

才能がある若者とそのチームは、ある日突然に飛躍するものだとあらためて思い知った。カナダ遠征でのここまでの飛躍はまったく予想できず、思いもよらないぐらいの好成績を上げたことに驚いている。昨年(2023年)の世界ジュニア選手権から気にし続けてきたチーム三浦由唯菜だったが、今シーズンに入っても日本のツアーで1勝を上げるのが精一杯といった成績しか上げられなかった。それが、9月と11月にカナダ遠征を敢行すると、6大会すべてで予選を通過し5大会で決勝に進出する、こんなことは予想の範囲を超えていた。2025年の日本選手権に出場できないジュニアチームが残した成績としては破格のものだろう。

北海道の名寄でカーリングを始めた三浦由唯菜のチームは、大学1年生にして大学対抗戦優勝といった成績をあげた。だが、名寄時代から幼馴染であるメンバーが欠けて新しい選手が加わるといったチーム編成の過渡期に入ってしまい、伸び悩みの時期がずっと続いていた。

三浦が名寄でカーリングを始めた頃からの幼馴染で構成されたJJクレッシェンドの4人は、リードの高橋佑奈が専門学校を退学して他の3人と足並みを揃えて2023年4月に札幌国際大学に入学した。しかし、その高橋が1年生の時からほとんどプレーしなくなり、2024年に入るとサードの松永愛唯のプレータイムも減り、ジュニアのライバルチームでプレーしていた敦賀心羽子が存在感を増した。

チームの編成は固定されることはなく、2024年の9月と11月のカナダ遠征も2大会続けて同じ並びで4人を組むことがなかった。それが、まだジュニアのチームなのに一般の4つの大会に出て全てプレーオフに進出し、11月は3大会とも決勝に残った。能力の高さにようやく見合う成績を出し始めた。このカナダ遠征がJJクレッシェンドの解体を意味するのか、チーム札幌国際大学として新たな編成を加速させるのか、そこはまったくわからない。


The Saville U25 Challenge 2024(November 22 - 24, 2024, Saville Community Sports Centre, Edmonton, Alberta, Canada)

・Draw 1(A Event)
Myla Plett(AB🇨🇦・42位)🔨
0201 0100 | 4
1010 3011 | 7
三浦由唯菜(JPN🇯🇵・72位)

・Draw 3(A Event)
田畑 百葉(JPN🇯🇵・13位)
0020 34xx | 9
0201 00xx | 3
三浦由唯菜(JPN🇯🇵・72位)🔨

・Draw 4(B Event)
Myla Plett(AB🇨🇦・42位)🔨
1030 1101 | 7
0103 0010 | 5
三浦由唯菜(JPN🇯🇵・72位)

・Draw 5(C Event)
三浦由唯菜(JPN🇯🇵・72位)🔨
2031 02xx | 8
0100 10xx | 2
Suhyeon Kim(KOR🇰🇷・58位)

・Draw QF
Gracelyn Richards(AB🇨🇦・)🔨
2000 10xx | 3
0213 03xx | 9
三浦由唯菜(JPN🇯🇵・72位)

・Draw SF
Seungyoun Ha(KOR🇰🇷・12位)🔨
2010 3010 | 7
0302 0103 | 9
三浦由唯菜(JPN🇯🇵・72位)

・Draw CF
三浦由唯菜(JPN🇯🇵・72位)
0001 0xxx  | 1
2110 4xxx | 8
田畑 百葉(JPN🇯🇵・13位)🔨

※ 今大会の北海道銀行は田畑が休み。カナダ遠征中のスキップは仁平。

11月のカナダ遠征は2025年の試運転!?

カーリングというスポーツのチーム作りは熟成が大事と言われる。4人制なら4人のメンバーを固めて、時間と試合を重ねて密度の濃いチームワークを作るのだそうだ。ところがチーム三浦由唯菜が3大会で行ったことは、

大会ごとにサードを変える

という大胆な起用で乗り切った。だが、これには理由があって、2025年の1月から4月にかけて3大会で日本代表に選出されており、それぞれの大会でメンバーが微妙に異なっている。その試運転を試みたと考えれば、11月の遠征の中身がより良く見えてくる。

◎Ladies Alberta Open(11月8日〜11日)

池田ー佐久間ー松永(V)ー三浦(S) ※Draw2のみ

池田ー佐久間ー敦賀(V)ー三浦(S)

・4月に開催される世界ジュニア選手権の代表メンバー。

◎Kamloops Crown of Curling(11月15日〜17日)

池田ー佐久間ー安井(V)ー三浦(V)

・2月に開催されるアジア大会の代表メンバー。敦賀は帰国して札幌地区代表選考会に出場していて、学内のチームを掛け持ちの状態。

◎Saville U25 Challenge(11月22日〜24日)

池田ー佐久間ー安井(V)ー松永(S) ※Draw1のみ

池田ー佐久間ー安井(V)→松永(V)ー三浦(S) ※Draw3の途中でサードを入れ替え。

池田ー佐久間ー松永(V)ー三浦(S) ※Draw4からCF。

・敦賀は道央ブロック選手権に出場。

Saville U25 Challengeでは最初の試合で絶対的なスキップ・三浦を外す起用をした。日本ミックスダブルス選手権に帰国したのでは、そんな筆者の疑念を抱かせつつも結局は三浦をスキップに戻して準優勝に輝いた。これは不測の事態に備えるかのような用意周到ぶりを思わせ、2025年に備えた実りある11月の遠征だったのではないか。唯一の不安は、12月3日から開催される日本ミックスダブルス選手権に三浦と敦賀(コンビを組む男子選手も含めて)がほぼ調整期間を経ないて出場することぐらいだろう。

今回取り上げた大会についても触れておきたい。

Saville U25 Challengeは25歳以下の選手で構成されたチームが出場する大会だが、その中には大会開催時に世界ランキング12位だった韓国のSeungyoun Haや同じく13位のTabata Momoha(北海道銀行)も出場、さらに世界ジュニアのカナダ元代表チームも参戦し大会のレベルは決して低くないものだった。

SFで対戦したSeungyoun Haとは一進一退の攻防を繰り広げ、最終8エンドでは三浦のラストロックで鮮やかなダブルテイクアウトを見せて振り切った。72位のチームが12位のチームに競り勝てるのは、潜在能力が世界のトップクラスにあるのではないか。

CFで対戦したのは北海道銀行。24年の日本選手権で決勝に行ったチームだが、チーム三浦は23年の日本ジュニア決勝から相性が悪く、この大会でも2度対戦して大差で負けている。内容も完敗。1つのエンドでフロントエンドからミスを連発し、スキップの投擲時にはどうにもならない展開になることが多く、力の差を見せつけられるのが現状といえる。第2エンドでは三浦の投擲時に3時方向のストーンに当ててボタン付近に置かれた相手のNo.2を弾き出そうと試みたが、わずかにかすっただけで逆にNo.1にしてしまった。運にも見放されたのか、あとは何をやってもうまくいかない展開だった。この2チームの年齢はだいたい2、3歳ほどの差で北海道銀行が年上だが、シニアで大活躍するチームとジュニアの駆け出しチームの差は予想以上に感じるものだろうか。リードからセカンド、そしてサードのポジションでチーム三浦の実力がまだ足りない印象で、スキップの傑出した能力とスキップワークだけではまだまだ上回れないのが現状だろう。もしもサードに敦賀が入っていたら、試合展開は変わったのだろうか。

この項の最後に、カナダ遠征の成績を載せておく。

◎MJCT Fall Spiel(9月13日〜15日) 🥇※
◎MOTHER CLUB FALL CURLING CLASSIC(9月19日〜22日) ベスト4
◎Larry Jones Junior Classic(9月27日〜29日) 🥇※

◎Ladies Alberta Open(11月8日〜11日) 🥈
◎Kamloops Crown of Curling(11月15日〜17日)  🥈
◎Saville U25 Challenge(11月22日〜24日) 🥈

注、※印はジュニアの大会。いずれも2年連続優勝。

チーム三浦のカナダ遠征は成績でも大成功だ。2戦目ではアメリカのT.ピーターソン(産休でメンバー変更あり)、6戦目では韓国のSeungyoun Ha、ランキング10位台のチームにも勝つなど潜在能力の高さを存分に見せたといえる。その一方で、北海道銀行に2度負けるなど、相性の悪さを払拭できない面もあった。それでも、ジュニアのチームであるチーム三浦が一般の大会に出ても通用することは証明できた。このままいけば、ジュニアを卒業した段階で、もっとランキングを上げていく可能性は十分にある。ところで、2戦目には敦賀をセカンドに入れたが、後の大会では試されなかった。このチームで敦賀のプレータイムがかなり多くなっているが、どんな布陣を組むのかは将来の課題になる。

日本選手権に出場しない日本代表チーム

札幌国際大学カーリング部に所属する一部のメンバーは12月3日から開催される日本ミックスダブルス選手権に出場しているが、北海道選手権に出場する部員もいるので日程は詰まっている。そして、2025年に日本代表として出場する大会が待ち受けている。下記に日程とメンバーを記載しておく。

◎Torino 2025 FISU World University Games Winter(1月13日〜23日 イタリア,トリノ)
敦賀 心羽子、三浦 由唯菜、松永 愛唯、鈴木 凜、大関 結、荻原 詠理(24年6月7日発表)

◎The 9th Asian Winter Games Harbin 2025 (2月7日〜14日 中国,ハルピン)
三浦 由唯菜、松永 愛唯、佐久間 優名、池田 葉南 、安井 涼音 (24年7月22日発表)

◎World Junior Curling Championships 2025(4月12日〜21日 イタリア,コルティナ)
三浦由唯菜、松永愛唯、佐久間優名、池田葉南、敦賀心羽子(ジュニア強化チームA)


この3大会に出場するにあたって、特にアジア大会に出場するチームは教会の判断で日本選手権に出場ができない。理由はアジア大会と日本選手権の日程が一部重なってしまうためで、アジア大会に出場するチームはミラノ・コルティナ五輪以降の大会に出場が見込める若手チームの育成と位置付けたからだ。国内のNo.1を決める大会に出場できないことを札幌国際大学の選手たちがどう思ったかはわからないが、アジアのトップクラスと対戦できるのは願ってもない経験になるだろう。

おそらく三浦は不測の事態がない限り、この3大会の全てでフォーススキップを務めることになる。ジュニアや大学の大会とはいえ国を背負っての戦いに、チームの命運を握るスキップにかかる重圧を三浦は感じるものだろうか否か。今のカーリング界は世界的にジュニア世代が強く、韓国のBobae Kangがランキング37位まで順位を上げ、上記の大会のどれかに出場するといわれている。それ以外にも各国から強豪が集うのは確実で、チーム三浦が勝てる保証がないほどレベルが高くなるだろう。何より、ジュニアのうちにたった4ヶ月で3大会連続日本代表として出場するチームは容易に出現しないかもしれない。それは日本の国内選手権では経験できないことで、ジュニアだからこその経験をすることになる。2025年は大きな飛躍のチャンスなのだ。

三浦頼みに見えるチームはここから本物になる

カナダ遠征のゲームをYouTubeで見ていたが、スキップとしての三浦由唯菜の実力が突出している印象だった。11月の大会はサードを大会毎に変えながらすべて決勝に導いたが、これを20歳の学生スキップがやってのけるのは信じられない。このチームの弱点はフロントエンドにある。リード・池田のウエイトジャッジが他の3人と違うことがあり、「ウォー」とコールしているのに彼女はスイープすることがあった。そんな時でも三浦は、
「葉南、早いぞ」
と言いながらも、笑顔で声がけをしていった。エンドの最後に投げる時は、ウエイトやラインの情報を瞬時にサードに伝え、特に敦賀がそれに応えてコールをハキハキとしていた。このチームのスキップはとにかく落ち着いていて苛立つことがない。そこに敦賀が入ると感情の起伏が少し立ち上るのがいいスパイスになり、佐久間のコミュニケーション能力の高さがチームの潤滑油になっている。

三浦のチームはカードを苦にせずカムアラウンドを多用する攻めのカーリングを見せるが、それが決まらないと北海道銀行戦のようにミスを多発する脆さも併せ持つ。ジュニアを卒業する頃にどこまで実力がついてくるのか。ただ、弱点を抱えながらもカナダで結果を出したのは、紛れもなくスキップ・三浦の実力が高いからこそ。その三浦頼みの現状打破と他のメンバーの実力向上が課題となるだろう。ただ、シーズン初めに142位だったランキングが59位から62位付近にまで上げてきた、その伸びしろはこれからもっと加速がつくだろう。

最後に。このnoteを書いている12月4日に、日本ミックスダブルス選手権に出場している三浦が右脇腹の怪我でチーム札幌国際大MSが棄権した、との一報が入ってきた。カナダ遠征の時、エンド間で抜けることが何度かあったが、それは怪我の予兆だったのかはわからない。1月のユニバーシティ・ゲームズまで1ヶ月あまりというところで怪我の情報は心配だが、2024年のうちに判明したのは不幸中の幸いかもしれない。ここで身体のメンテナンスをして心身ともに英気を養ってもらえばその後に好影響となるだろう。三浦にとっての勝負どきは2025年の1月から4月の3大会になる。日本代表3連戦でジュニアの総仕上げをどう飾るのか、日本選手権よりも楽しみな日本代表3連戦が今から待ち遠しい。

(敬称略)。


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