わたしには怖かった記憶 その1

※不謹慎になるため、場所は伏せます。決してそこは、ホラースポットなどではありません。

 秋の◯◯、社員旅行でのお話です。
 1日目だけは全体行動で、ディナークルーズからホテルに戻ると夜の8時ごろでした。ホテルが□□公園の近くで、ライトアップしてるとの話があり、何人かで誘い合って行くことになりました。
 班には上司や先輩しかおらず、だからこそ断れずわたしもついていきました。

 ライトアップで周りは明るいけれど、風が冷たかったのを覚えています。
 それから少し歩き、ホテルに戻ることになりました。

 近くにお手洗いがあり、わたしは「お手洗い行ってくるね」と声をかけると、少し早足でお手洗いに行きました。
 外に出ると、誰もいませんでした。会社の人だけではなく、散歩やジョギングをしていた人たちも、誰も。待ってくれていると期待していたわけではないですが、急いで出てきたし追いつくと思っていたのです。

 ライン交換している先輩がメンバーにいたので、すぐにその人にラインしようとしました。けれど、電波がつながりません。
 すぐにここから離れよう、と思いました。
 けれど、入り口がどこかわかりません。ライトで目立つはずの建物が見当たりません。
 人に聞くにも、人がいません。スマホを何度見ても圏外のままで、地図アプリを見るわけにもいきません。
 足をぶつけてからそこに何かがあることを知るほどに、あたりも暗いのです。スマホを首からさげライトをつけて歩きました。けれど照らしたところで、歩いても歩いても何もないんです。

 どうしよう、どうしようと思いながらひたすら位置もわからない外を目指していれば、ようやく車の音が聞こえました。それからすぐ、道路が見えてわたしはそこを出ることができました。
 安心して、今何時だろうとスマホを見ました。9時半、ラインの未読がたくさん溜まっていました。不在着信も。
 こんな時間になるわけない、とかマナーモードにしてないからやっぱり電波が途切れていたんだ、とか電波が急に繋がった時ってこんな通知になるんだっけ、とか疑問は頭によぎりつつ、とりあえず先輩のラインを開きました。

『すみません、みなさん今どちらにいます?』と送れば、すぐに既読がついて着信が来ました。
「今どこ?」と開口一番に問われ、わたしは「ちょっと待ってください」とアプリを切り替えマップを開きました。□□の外側でした。

「え、ずっとそこにいたの?」「はい、いました」
 そう答えながらも、わたしはまだ自分がここにいることが不思議でした。外に出ようと足が痛くなるくらいには歩いたし、時間も経っています。
「何回ラインしても返事してくれないから、心配していたよ。こんな時間まで何をしていたの」「わたしもこんな時間になっているって思っていなくて……」
 時間がこんなに経っていたという自覚は、やはりありませんでした。
 途中でスマホを見た時は、意識に残らないような普通の時間だったはずです。わたしの記憶にない、およそ一時間半の時間はどこに行ってしまったんでしょうか。

「探してもいないし、部屋にも戻ってなかったし」「ごめんなさい、こんなに時間経っていると思っていなくて」
 そう答えるしかありません。心配をかけた手前、お手洗いに行っていました、とは白状しづらく。お手洗いに行っていただけでみんながいなくなってしまうとも思えないですし。
 それにわたしはあの時、お手洗いに行くとたしかに伝えていたんですよね。

 でも、誰に?

 メンバーにはタメ語で話せる人なんていません。あの人は……あの子は、誰だったんでしょうか。
「今から迎えに行くから、そこで待っていて」「大丈夫です、帰り道は覚えています!」「いいから」
 あの子の、姿はどんなだったでしょうか。お手洗いに行くと告げたわたしに、なんて返してくれたのでしょうか。あの子は、わたしを待っていてくれたのでしょうか。

 それからしばらくして、先輩たちが迎えに来てくれました。
色々と、【わたしがいなかった】間のことを聞かれましたが園内を歩いていた、としか答えようがありません。

 旅行が終わり帰った後、職場ではわたしが神隠しにあったということになったようで、しばらくの間、他の部署の方にもいろいろと聞かれたりしました。
 変な人、と思われたくないからわたしは毎回、普通にみんなを探していた、としか答えようがないのです。けれどあの暗闇を聞かれるたびに思い出し、あの夜の空気が記憶に焼きついていくのです。

 なのに、何度思い返してもお手洗いに行くと声をかけたはずのあの子の顔や返事は浮かびません。
 今となっては、あの子があの子だった、確かにわたしはあの子に声をかけたということしか記憶にはないのです。
 わたしはあの時、一人でどこにいたのでしょうか。

※ ※ ※
似たような経験などあれば、お話伺えると嬉しいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

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