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Rebecca is dancing.

対向車の後部座席で泣き叫ぶレベッカと目が合ったのは、ほんの一瞬のことだった。あいつが誘拐されるのは、今年4度目だ。
俺は通信機を操作し、治安部隊に連絡した。

「よぅ無能ども。俺の愛する娘が、またどこぞやの馬鹿に連れて行かれた。理由?知るかよ。俺は追いかける。邪魔すんじゃねぇぞ」

Uターンして、さっきの車を追いかける。古臭い日本車、派手な塗装。すぐに追いついてタイヤに銃弾を撃ちこんだ。
車は路肩の木にぶつかって停まる。どうせ、レベッカは無傷だ。

大柄な男がふたり、レベッカを連れて降りてきた。片方は拳銃、もう片方はナイフを持っている。

「ふざけんな、こいつが大事じゃねぇのか!」

どっちも重傷だ。俺は車に銃を置いて、外に出た。

「大事だから助けたんだろうが。どうせうちの娘は死なねぇよ。昔から不思議な子でな…」

「うるせぇぇっ!」

片方の男が発砲した。俺じゃなきゃ、死んでたかもな。目の前で落ちた弾丸を拾い上げる。

「…お前ら、『商会』の人間か。なんでウチの娘を狙う?」

「知るか。頭領がご執心なだけだ。でも、もういい。こんなガキ、ここで殺してやる!」

もう片方がナイフを振り上げる。まずい。銃を置いてきちまった。

「パパ!」

レベッカが叫ぶ。
急に視界が真っ赤に染まり、理性が置き去りにされた。

どん、という大きな音。
気付くと、ナイフの男が潰れていた。大きな生き物に踏まれたみたいに。
銃の男は怯えきっている。風を切る音がして、そいつの胴体が裂けた。

大きな孔雀。
二人を殺したあと、そいつは俺をじっと見つめている。


首元にちくりとした痛みを感じ、俺は意識を失った。
薄れていく意識の中で、数人の男の話し声が聞こえた。

「カルマの違法行使確認。コード名〈マハーマユリ〉。このまま連行する……なお、女…殺……せよ…」

身体が誰かに持ち上げられた。
俺が最後に見たのは、返り血を浴びて踊るレベッカだった。

【続く】(777字)

#逆噴射小説大賞2024
#パルプ小説

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ナル
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