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#14 『ホームレス?本日のホームです』(明石・岡山・尾道)

話し相手JAPAN TOURとは


『支店長』

「明日、弓道の試合なんすよ」
「えッ、キミ、弓道やってんの?試合前に遊びに来ててええんか?」
「はい、息抜きですわ」

三ノ宮の最終日(三ノ宮を出る前日)に来てくれた5人組の高校生の中に、18才にして、すでに支店長クラスの風格を持っている男がいた。

明日、部活の試合を控えていた支店長(と呼んでた)は、友だちと明石から遊びに来てたのだが、てっきり付き添いの先生かと思ったぐらい落ち着きというか風格があった。

妙に落ち着いてる支店長が「明石にも来てよ」と言ってくれたが、あんまり乗り気でなかったというか、一気に岡山ぐらいまで行こかなと思ってたので

「明石は、月曜の夕方頃に通ると思うけど、明石かぁ〜、明石なぁ〜」
「まぁ、橋以外なんもないっすからね」
「そうやねんなぁ、でも、明石焼きがあるか!」
「タコ焼きの方がうまいっすけどね」

たしかにタコ焼きの方がうまい。というか、明石焼きは、なんか上品と言えば上品やけど、出汁に付けて食べるので、二度手間感が否めないし、べショベショになるので、あんまり食べたことがない。

この4日間は、もっぱらタイ焼きばっかり食ってたが。

次の日、テキ屋の準備を手伝って、三ノ宮でお世話になった皆さんに挨拶してたら昼過ぎになってた。三ノ宮から明石まで20キロちょっと。「夕方には着かれへんな」と思いながら出発した。

明石大橋が夕日に照らされてるのを横目に見ながら、結局日が暮れた頃に明石に着いた。で、そのまま通り過ぎ・・・

「あれッ?」

支店長がいた。駅前の植え込みの脇に座ってた。

「来ないかと思いましたよ。」
「待っててくれたんかいな!」
「昨日弓道の試合で優勝したんで、報告しようと思って」

と、嬉しそうにタバコを吸いながら・・・

「ん?キミ、高校生やろ?」
「あ、はい」
「タバコ似合うけどなぁ・・・オレの前と、親の前と、先生の前と、友だちの前では吸うな」
「いつ吸ったらいいんすか」
「弓道で負けた時だけは許す」
「じゃぁ吸えないわ。俺、無敵なんで」

無敵の支店長が缶コーヒーを買って待ってくれてた。

明石1

ハタから見たら、完全に支店長に励まされてる係長みたいな感じだ。

オレには微糖、自分は、けっこう甘めのやつを飲みながら、フツーの話しの相手をして笑ってた。

「頑張って下さい。なんかあったらどこでも行きますから」
「なんかある前に呼ぶから、助けに来てくれ!」

そう言って別れた。

たぶんこの先、いろんな『なんか』があると思うけど、まぁ、自分でなんとかしようと思うわ。30超えたオッサンが、なんかあって(なんかある前に)高校生に助けに来てもらうって、『なんか』よりも、めっちゃ『なんか』な感じやもんな。

明石駅から西明石駅まで歩くと、もう完全に夜になってた。今日は、ここまでかなと思って休憩してたら、テーブルも看板も出してないのに3人に話しかけられた。

だいぶ、話しかけられオーラが出るようになってるのかもしれん。

3人目は、ちょっと酔っ払いのサラリーマンで、奥さんが車で迎えに来てくれるのを待ってるらしい。それまでの話し相手だ。

「奥さん、たいへんっすね」
「バッカヤロー!俺は九州男児だからな『駅についたぞ、迎えに来い』って、ビシッと言うんだよ」
「毎回迎えに来てくれるんですか?」
「あたりまえだ。で、なんだ、旅してんのか?」
「いや、旅というのではないんですけど・・・」
「俺もやったな」

聞いてない。酔っ払ったサラリーマンの6割、いや、8割が、人の話を聞かない。で、昔の武勇伝を、ちょっと大袈裟に話す・・・と思う。
そもそもの武勇伝もアヤシイが、それを、少し味付けするから、よりアヤシくなる。

何年か後には、酔っ払ったオレが、JAPAN TOURの事をWORLD TOURって事にして話してんねやろなと思いながら、酔っ払いの話し相手になってた。

「泊まるとこないんだろ?」
「まぁ、そうなんですけど」
「うち泊まるか?メシ食ってないんだろ?」
「え?ホンマっすか!!」

ラッキー!!
どうやら、人の家にお世話になる流れみたいなんが来てる。そんなタイミングで、奥さんが駅に着いた。

「ちょっと待ってろ。言ってくるから」

で、そのサラリーマンが助手席のドアを開けて話をしようとすると、運転席の奥さんが

「後ろつかえてんねんから、はよ乗って!」
「あのな・・・」
「ええから、はよして!!」

九州男児が、めちゃくちゃ怒られてた。
バタンッ。ブオーン。
急に酔いが覚めてた(ように見えた)サラリーマンは、だいぶ申し訳なさそうな顔で、コッチを見て・・・ない。
目逸らしてるやん!!
一度もこっちを見ることなく、サラリーマンを乗せた車は去っていった。

1週間ぶりに野宿決定。


『岡山へ』

明け方、突然の睡魔に襲われた。

このツアーに出てから野宿で熟睡出来た記憶がない。だいたい2時間ぐらいで起きる。
肉食動物に狙われる草食動物って、こんな感じなんかなぁ。常に敵の気配を気にしながら寝てたような気がする。

なるべく安全なニオイがする場所を探して寝るというのが、身体に染み付いてた。閉店後から明け方にかけてのでっかいディスカウントストアー前にあるベンチは、かなり安全な仮眠スポットでもあった。

目が覚めた時、商品の積み込みか積み降ろしをしてた4トントラックが止まってた。薄っすらと見えたトラックのナンバーが

明石

岡山ナンバー!

5分後、4トントラックをジャックした。いや、乗せてもらった。

神戸を出て明石でちょっと支店長に会って、西明石で会ったサラリーマンの事は忘れかけて、それからノンストップエキスプレスで歩いてきた。

そんな時の人相は、相当悪い。なので「岡山まで乗せてもらえますか?」というより「岡山まで乗りますけど、いいですか?」みたいな、完全にヒッチジャックだ。

トラック運転手の井上さんが、名古屋の手前の岡崎で乗せてくれた大浦さん(#6 名古屋ナナちゃん前劇場)と、どことなく似てたのは、奥さんと1歳の娘さんの話をニコニコしながら話してくれたからやと思う。

順調に備前の手前(岡山まで、あと30キロぐらい)まできたところで、井上さんの携帯電話が鳴り、一瞬険しい顔になった。携帯を切って

「どうも積み荷を、一つ降ろし過ぎてて戻ることになっちゃいました。」「それは『フリダシに戻る』という事ですか!!」
「すみません、ホントに」

井上さんが謝る筋合いはひとつもない。

「ホンマやったら、やっと起きて歩き出してる頃ですわ」
「ハハハ、そうかもしれないですね。」
「いや、まだ寝てるかな。で、戻ってきた井上さんに『乗せてぇ〜』って頼んで、結局乗せてもらってますわ。」
「ハハハハハ、これで1人だったらイライラしてたけど、一緒にいてくれて助かりましたよ」

と、やっぱりニコニコニコニコして話す穏やかな人だ。こういう危険が全くない時、敵に狙われてないときは、一気に睡魔が舞い降りてくる。たぶん半分ぐらい寝てた。

岡山に着いて別れ際、井上さんは2回クラクションを鳴らして、奥さんと一人娘に会いに帰っていった。


『チャリの街、岡山』

岡山は、チャリンコが多かった。
そぉいえば、西口に『日本一自転車の安い店』があり、東口に『岡山一自転車が安い店』っていうのがあった。

どっちが安いのか確認はしてこなかったし、そんなに興味もなかったが、とにかくチャリンコかなり多めの町だった。

ツアー場所でも、テーブルの前を通って行った自転車が『話し相手』の看板を見つけて、だいぶ通り過ぎてから振り返って笑う。

自転車は、基本、立ち止まらない。そして、戻ってこない。

岡山では、雨が多くて3日間いたけど、『話し相手』は、1日だけしか出来なかった。岡山から倉敷を経て、2日かけて福山に到着。

福山に着いたのは夜中やった。地下道に入って寝ようと思ったが、ストリートミュージシャンが1人で歌ってた。

地下道で歌うと、ものすごいギターも声も響くので「今日の敵は、アイツか・・・」と思いながら寝転がってたが、そもそも、ここは人通りが少ない。

もっと駅前とかで歌ったらエエのに・・・と思ってたが、聞かせるために歌ってたんではなかった。ん?歌ってるんじゃなくて、作ってる?

大学生のノリくんは、澄んだ声をしてた。ギターのテクニックは・・・正直よく分からない。

「友達が結婚するんで、歌を作ってるんですよ」
「え、オリジナルの歌なん?」
「ええ、新郎も新婦も両方知ってるんで」
「それは喜ぶやろな」
「どうですかね?喜んでくれるといいんですけど」
「聞かして聞かして」
「まだ未完成なんですけど」
「エエやんエエやん」
「じゃぁ、タイトルは『赤い糸』です」

地下道貸切りライブ。とても澄んだ声で、途中まで歌ってくれた。歌詞は・・・

「それ、大丈夫なん?エエの?」
「どうですかね?」
「いや、まぁ、たしかに恋とか愛はハッピーばっかりではないけどなぁ」
「そぉなんですよ」
「親戚とかも来るんやろ?」
「ええ、たぶん、来ますね」
「まぁ、新郎新婦の2人に届けばエエのか!」
「そう思って作ってます」

新郎新婦の『赤い糸』は、アチコチ絡まってたけど、なんとか解けたり、絡まりすぎてたので、1回切って、その分近くシンプルになって繋がったような気がして、そんな風に届けばエエなと思った。

気がついたら軽トラに乗って真っ暗な道を進み、福山のどこかにあるノリくんの自宅で飲んでた。

朝、目が覚めるとノリくんのオカンが、おにぎりと大根とブリの煮物を出してくれた。「もう1泊してってください」と言ってくれたが、先に進むと伝えたら福山のどこかにある家から、視界に緑がガツンと入ってくる道を軽トラで進み、2号線に出たとこまで送ってくれた。


『家』

福山を出て尾道に着いたのも夜だった。海岸線はまだまだ寒かった。

オレの場合、旅好きなバックパッカーではないんで、寝心地とか風景重視で寝た事ってほとんどなかった。寝る時は、安全第一だ。

キャンプとかして日本一周してるんやったら、テント張って寝袋っていうのが定番なんやと思うが、たいがい町の最も賑わってる所で『on ダンボール in 寝袋』やったから、だんだんホームレスとの違いが自分でも分からんようになってきてた。

ん?家、引き払ってるから、正真正銘のホームレスか?

まぁ、そんな、ちゃんとホームレスな自分が、尾道で初めて段ボールハウスを作ってみた。

今まで『on ダンボール』やったのが、ついに『in ダンボール』になり、一戸建てを一個だけ作った。

まだまだ、ハウスというには規模の小さなワンルームだったので『ダンボールーム(暖かくないバージョン)』やった。

段ボールハウスを作るホームレスはアーティストやなとリスペクトした。

ちなみにオレんちの外壁は、屋根がパンパースとロリエセーフティーロング、入り口の扉はカロリーメイト。そう、薬屋さんにあったダンボール仕立てだ。

室内に目を移すと、床は霧ヶ峰のエアコン、そして、絨毯には、猛打賞を打った新庄が1面になって(試合では巨人に負けたのに)あたかも阪神タイがースが勝ったように思わせるデイリースポーツだった。

借地は住友銀行(今、なに銀行?)前。

夜の寒さをしのぎ、次の日の朝、取り壊した。家というのはハカナイ。ニンベンに夢で『儚い』と書く。昨日の夜は、夢すら見なかった。

一日だけの儚い家だったが、何年も住んだ東京の家より鮮明に憶えてる。

家を取り壊して、三原に到着。歩くの、ちょっと飽きた。そして、なんとなく海を見てたら、渡りたい衝動に駆られた・・・で、四国に上陸。

次回は、四国・・・から、また本州、広島へ。

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