私のあしながおじさん
風邪をひくと、咳がひどく出るタイプの子どもだった。パート勤めをしていた母は、初日こそ仕事を休んで小児科へ連れて行ってくれたけれど、二日目、三日目となると「ビデオでも観ていなさい」と布団の脇にビデオテープを積み上げて仕事へ行ってしまった。昼休憩には自宅に戻ってくるのだし、階下には祖父母もおり、何も問題はなかった。ただ、母が牽制していたのか祖父母が階段を昇ってくることはなかった。
そのぽっかり空いた時間を埋めたのが、布団の脇に積み上げられた「私のあしながおじさん」だった。時間稼ぎのためだけに選ばれたその長い物語は、わたしに生まれて初めて感動の涙を齎した作品だ。
孤児院で暮らす少女ジュディは〝あしながおじさん〟に文才を見いだされ、月に一度手紙を書くことを条件に彼の援助の元、全寮制の女子学院へ進むことになった。そこで繰り広げられる日々を描いたのがこの物語だ。かけがえのない友情や胸を焦がすような恋。教養を身につけたジュディが少女から大人の女性へと成長していく姿に胸が熱くなる。簡単にいってしまえばシンデレラストーリーなのだけれど、その一言では言い表せないくらい、深く、豊かなものを「私のあしながおじさん」はわたしに教えてくれた。
特にジュディが卒業式に答辞を述べるシーンは圧巻で、ぜひ全国の少年少女に観てもらいたいと勝手に思っている。