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さよなら、頭足人

  幼稚園の夏休みが始まった。実家へ遊びに行くと、息子は早速ホワイトボードに絵を描き始めた。ソファに座っている父の姿をチラチラ見ながらペンを走らせる。「できた!」父と母と、それからわたしが覗き込む。わたしたち三人全員が一目で父とわかる絵だった。ボーダーのTシャツに、ジーンズのステッチまで忠実に描かれている。指は三本しかないけれど、しっかり手の形をしている。感激した。と同時に少しさみしい気持ちになった。つい数日前まで、息子は頭足人を描いていたのに。

  頭足人。耳慣れない言葉だが、幼児が描く絵によく見られる〝頭(顔)から手足が直接伸びている〟姿をそう呼ぶらしい。言語も、習慣も、国籍も、文化も違う世界中の子供たちが、発達の過程で必ずこの頭足人を描くのだと知ったときには、身体中が震えた。わたしの愛するモンテッソーリ教育にも通じており、自己教育力が間違いなく存在していることを実感させられる。

  さよなら、頭足人。愛らしいその姿を、わたしは一生懸命目に焼き付ける。

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