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デザイナーになるのは難しいというお話。
「3ヶ月でWebデザイナーに!!」
「2ヶ月目で月70万円達成!!」
等々の誇大広告の多さに呆れるのがSNS。
ですが、グラフィックデザイン、Webデザインという職業がどういうものか認知している一般の方はほぼいません。
だから、
「あ、難しそうに見えるけどカンタンなんだ」
と本気にする方がかなりの数いるわけです。
私はデザインスクールの代表兼講師なのであらかじめ
「デザインは難しいですよ」
と伝えています。
「難しいから職業としての価値があるんです」
とも伝えていますが。
でも、伝わらないです。
「Webデザイン = カンタン」
と脳内に描かれた図式は、初見の48歳の言葉ごときでは崩せないわけです。
第一の壁「デザインソフト」
Illustrator、Photoshop、24年使ってきた私にとってはとても簡単なソフトです。
コンパスでキレイな円が描けない不器用な私でもキレイな円が無限に描けます。
写生会で描く街の風景がどうしてもフラットデザインになってしまっていた私でも、暗い写真を明るく見せたり、きれいに見せたり簡単にできます。
そもそも、パソコンというもの(というか、OSというもの)は
「誰でも簡単に使えるように」
作られ、その結果世界中に一気に普及したのです。
そして、デザインソフトも同様に
「誰でも簡単に使えるように」
作られ、今ではAdobeがほぼ独占状態なわけです。
なのですが、Illustrator、Photoshopの使い方が理解できず、またそこに楽しみが見出だせずに3割ぐらいの人は挫折します。
「私はデザインに向いてない」
「私はデザインのセンスがない」
等々お考えかもしれませんが、そもそもデザインのデの字にも触れてない段階なんです…。
パソコンの操作自体がわかっていない
デザインソフトをペン、モノサシ、絵の具、ハサミ等の具体的な物に置き換えて考えられない
色の理屈がわからない
あたりが理由かなと推測します。
パソコンの操作自体がわかっていない
ここ4〜5年、デザインを始める方が最初にやることが
「パソコンを買うこと」
になりました。
スマホがあるから、パソコンが要らないんです。
だから、パソコンが扱えない。
パソコンの概念がわかっていない。
データ?
リンク?
クラウド?
スマートは人の想像力を退化させます。
いまのところスマホでお仕事のデザインをする時代にはなってませんし、今後も難しいんじゃないかって思います。
日頃からスマホでできることもパソコンでやるぐらいの意気がないと厳しいと思います。
デザインソフトをペン、モノサシ、絵の具、ハサミ等の具体的な物に置き換えて考えられない
「直線を引くにはクリックして、クリックします」
鉛筆で線を引くのと何が違うかというと、ルールが違うだけ。
「そういうものなんだ」
と思って咀嚼してやるしかない。
が、それができない。
曲線は…
丸は…
色を塗るのは…
塗りに1色、線に1色しか塗れないんです…
脳の中で鉛筆や絵の具、モノサシ、ハサミでやってることを置き換えるしかないんです。
これもスマホの影響なのか、インターネット社会の影響なのか、受験戦争の影響なのか、
「1192年→鎌倉幕府成立」
みたいなA=Bじゃないと理解できないのかなとか。
間に自分の脳内で咀嚼する作業が苦手なのかもしれません。
色の理屈がわからない
「Photohsopが難しいです…」
よく言われます。
弊スクールは、画像の色調補正からお教えします。
よくよく聞いてみると難しいのはPhotoshopじゃなくて「色の理屈」なのでは、と。
光の三原色
赤
緑
青
色の三属性
色相
彩度
明度
「人がどういう原理で色が見えているか?」
「画面がどういう理屈で色を再現しているか?」
そういうのがわからないで、画像の色を補正するのはそりゃ無理でしょとは思います。
わからないことはわかろうとして欲しいし、ファッションや絵に興味があって、色彩感覚にアドバンテージがあるのなら別なんですが、そうじゃないのなら知識として学べるものは学ぶしかないんです。
「何がわからないか考えようとしていない」
ように映ります。
第二の壁「Webコーディング」
これは「Webデザイン」を学ぶ方だけですが。
「コーディングができないWebデザイナーもたくさんいますから、難しそうだったら捨てるのも一つです」
は伝えます。
「なぜ、Webデザイナーを目指すのにコーディングを学ばせるのか?」
ですが、それがないと生徒が入学しないという現実があります。
ネットで検索したり、AIに聞いたら
「Webデザイナーになるには、Webコーディングが必要」
と出てきます。
目の前の初見の48歳の
「半分以上のWebデザイナーはコーディングできないと思いますよ」
は聞いてもらえません。
インターネット強し。
これも文字列を並べて、タグという理由のわからない記号をつけて、別のルールで色やレイアウト、文字の指示をする。
日常生活に全くもって近いものがない作業なので、脳内で置き換えることができないのです。
フロントエンドエンジニアさんのレベルにいくと、私など幼稚園児レベルでしょうが、レスポンシブのコーディングぐらいまでのスクールでお教えしているレベルなら、そんなに難しいこととは思わないのです。
人間、一度「難しい」と決めたものを覆すのはかなり難しいらしいです。
「難しい=向いてない」
「難しい=コスパ悪い」
を
「難しい=どうやったらできるんだろ?」
に方向づけするのが講師の私のお仕事なんですが、そこはご本人の
「デザイナーになりたいとういう気持ちがどこまで強いか?」
も関係あるのかなと思います。
そもそも「簡単だから」という理由で興味を持ったジャンルなので、「難しい」は乗り越える理由も見つからないのでしょう。
コーディングがイヤなだけなら
「Webコーディングはせずに、Webデザインに特化する」
と戦略的に考えてもらったらいいんです。
しかし、お教えする側としては
「Webコーディングの理屈がわかってない方に、Webデザインを教えるのは難しい」
という別の問題もありますが…。
第三の壁「デザインは難しい」
これは前回の
に書いてる内容と重複しますが
「いつどこで誰が誰に何をどうしたいのか?」がわかるように
絵としての表現力
そして
「ゼロから何かを考えることができない」
です。
ゼロから何かを考えることができない
これも
・スマホ
・ネット
・学校教育
・社会環境
等の問題が絡んでいるのではと考えていますが、デザインソフトの操作やWebコーディングは問題なくできていたのに、デザインの制作になると急にできなくなる方がいます。
「自分でゴールを描く」
という作業がわからないのです。
私はこういうのは本来、大人になるまでにたくさん経験することだと思っています。
我が子のクラスメイトの話を聞いたり、以前に高校の先生をさせてもらったりしても思ったんですが、今の子どもたちって忙しすぎるんです。
「今日ヒマや〜。何しよう。」
がないのかなとか。
毎日やることが決められている。
それらをきちんと遂行することで大人から褒められる。
ゼロから何かを考える余地がないのでは?って思います。
大人になってから急に
「ゼロから考えろ」
って言われても無理ですよね。
言われた通りにやるように訓練されてきたわけで、何も言われなかったら何もやらない、できないのは当たり前で。
人の感情のシステムがわからない
ほとんどの人が
「人に嫌われないように生きる」
を大切にしていると思うのです。
そこに基準を置き過ぎて
「どうすると人が喜ぶか?」
が蔑ろになっているような気がします。
「人を喜ばせよう」
と思ってやったことで、意図せず人を怒らせてしまうことがあります。
そういうリスクを考えると、何もしないことが無難なんです。
余計なことはしない方がいいんです。
という感じで生きている中で、他者との接点は減り、都合のいいごく数人の仲間としかコミュニケーションを取らなくなり、ますます他者の感情への感度が鈍くなる。
私達のお仕事は広告という媒介を使って、人の感情を動かしたり、行動を促したりします。
人の感情について考える習慣がなかった人が、急に不特定多数の心理を考えるなんて普通に考えるとかなり難しい作業のはずです。
第四の壁「ポートフォリオ」
デザイナー、Webデザイナーへの就職を目指すとなればポートフォリオ必須です。
結構なボリュームと初心者には高いクオリティという、かなりのハードルが設定されます。
つくってもつくってもよくならない。
時間もかかる。
脳も使う。
でも、うまくできない。
そこを乗り越えるだけのメンタリティが必要です。
めちゃくちゃ、コスパ・タイパが悪いんです。
いきなりフリーランスを目指すにしても、自分のWebサイトやポートフォリオは必要でしょうから、同じ作業が発生します。
ここで挫折する人もたくさん見てきました。
最後の壁「案件獲得」
デザイン職に就職した人にはこれは関係なく、フリーランスになった方ですね。
「どこから仕事を取ってくるのか?」
10年、20年やってるプロでも仕事がなくて困ってたり、安い賃金でお仕事せざるをえない人がたくさんいます。
そこには競争が発生します。
起業してたり、商売してたりする友人や友人の友人がすごい多くて、勝手に仕事が入ってくる。
持ち前の人間性で実力と関係なく仕事に結びつけている人もいるでしょう。
クラウドサービス系のサイトを使ってお仕事を取るというのもありますが、何もかもゼロからのスタートになると、初期は最低時給にも満たないと思います。
それでも、仕事をもらえるかどうか。
競争に勝てるのか?
そこには何らかの競争があります。
幼少期から今までの人生で、他者より能力が上回っているものはありましたか?
競争で勝ち上がったことはありますか?
ないのだとしたら、デザインやWebデザインという競争だけは勝ち上がれますか?
その根拠は何ですか?
「デザインという勝負だけ勝てた」
中にはそういう人もいるかもしれません。
でも、自分がそれに該当する可能性はどれぐらいだと思いますか?
世の中においしい話はない
そのあたりの弱みを狙った情報商材屋さんの広告もよく見ます。
「案件の取り方を知りたい方はまずはLINEを」
的な。
それはデザイン業としての仕事の取り方ではないんです。
プロの実力に満たないものを売るための方法論を知るだけです。(どこまで再現性があるのか知らないですが)
そっちにいってしまうと5年後、10年後もこっち側のデザイン業界からは「素人」という扱いのままです。
私、この業界25年目で、小さなデザイン事務所の代表ですが、誰もが知ってるような大企業さんから仕事の相談を受けたりします。
そして、そこにアドバイスをしたり、自分ができることを提案したりします。
「そっち」にいってしまうと、そういう未来が訪れる可能性は限りなく低いと思うんです。
ま、そこは人生観であり、その人の人生であり、自由なのですが。
一度きりの人生の、バリバリ働ける限られた時間を有意義に使ってほしいなとは思います。
最後に
誰でも簡単に「デザイナー」って名乗れる時代。
でも、「デザイナー」になるのは、多くの皆様が思っているより高いハードルがたくさんあります。
「受講料が安いから」
「SNSでハッシュタグをいっぱい見たから」
「代表者のフォロワー数が多いから」
「就職紹介してくれるから」
「案件紹介してくれるから」
「リスキリング助成金でキャッシュバックされるから」
安易に考えない方がいいと思います。
受講料の安さには安いなりの理由があります。
SNSとデザイナーの能力には一切の関係性がありません。
それ相応の能力がない、可能性もない人に就職紹介したり、案件紹介したりするスクールやサロンがあると思いますか?
すぐに潰れますよ。
助成金でキャッシュバックされるのは上記の壁を乗り越えた方だけです。
デザインのお仕事は技能のお仕事です。
技術・能力を高めるために何かをやるか、もともとそういう素養があるかしかないんです。
ちなみに後者だけでデザイナーをしている方に会ったことがありません。
なんやかんや皆さん自分の器の中で死ぬほど考えているんじゃないんですかね。
ま、頑張っていきましょう。