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「ダンスで方向音痴が改善する」ってどういうことなのですか...?

マイパーソナル編集者を担当してくださっているみなみやんさんのnote一覧を眺めていたら、「え、どゆこと…?」って一瞬フリーズしてしまったタイトルがあった。

ダンスを練習したら、方向音痴が改善……


ダンスって、基本的にはひとつの空間内での運動というイメージで、それが「ある場所からある場所への移動」の能力と結びつくの…?

と、正直最初は半信半疑だった(ごめんなさい)。


私もしっかり方向音痴なのだけど、改善はもう諦めていた。

でもこの記事↑を読んだら、ひょっとしてまだチャンスが…?という気持ちも湧き始めて、どういうことなのかちょっと調べてみたくなった。



ダンスの何がどう効くのか


記事によると、

それは一度通った道を覚えられるようになったこと。見て覚えることをしてこなかった人間が、見て覚える訓練をした結果、新たな神経回路が通ったような気がするのです。

Googleマップ頼りで道を歩けないと思っていたのですが、一度通った道ならだいたい大丈夫。

『筋トレにハマった女子がダンスを練習したら、方向音痴がどうやら改善した話』
https://note.com/minamiyan/n/n1a35101deed3


あ、そういえば!
No No Girls』(好き)でも、振り付けのコーチをしている方が、

ダンスの振り入れでは、まずは覚えることに神経を使うんだよ

的なことをおっしゃっている場面があったよ(Episode 13, Hulu版)。


つまり、ダンスの上達に必要な「見て覚えるトレーニング」が、道を歩く時にランドマークを見て覚える力を高めているということなんだろうか。

そうだとしたら、ダンスあるいは自分の身体を動かすこと自体は、あまり重要ではないんだろうか?


…ってなことを考えてて、ふとアリの話を思い出した。

Sakiyama, T. and Suda, K.
Movement during the acquisition of a visual landmark may be necessary for rapid learning in ants.
J. Comp. Physiol. A 210, 75–81 (2024).

アリに視覚情報を学習させる実験では、アリが自由に歩ける場合の方が、位置を固定されている場合よりも、学習成績がよかったらしい。


さらに、本棚にあった書籍を読み返してみると、

「方向感覚」の悪さは固定した感覚の問題ではなく、「方向感覚」を生み出すために必要な行為を怠りなく行うかどうかの問題

もともと方向音痴の人たちは、空間情報への関心が低いのかもしれない

方向感覚のよい人は、無意識のうちに方向の変化に注意を向け、都市を構造づける基本的な軸線や見えない目的地の方向を意識している

『なぜ人は地図を回すのか 方向オンチの博物誌』(村越真 著)

といった記述があった。


大切なのは、
(身体の動きと何かしら関連した)(?)
しかるべき情報
に、
意識を向けて
覚える
トレーニング?



そういう研究あるのかな


検索してみたところ、バチッとはまる論文は見つけられなかったんだけど、いくつか気になる研究があった。

「神経可塑性」がキーワードの1つみたい。


Rehfeld, K. et al.
Dancing or Fitness Sport? The Effects of Two Training Programs on Hippocampal Plasticity and Balance Abilities in Healthy Seniors.
Front. Hum. Neurosci. 11, 305 (2017).

高齢の被験者を、「ダンスを続けるグループ」と「ダンスではない運動を続けるグループ」に分けて、18ヶ月後に脳の海馬体積やバランス能力の変化を調べた実験

どちらのグループでも海馬体積の増加が見られた。ただしダンスグループに特有の変化傾向もあったことから、「体を動かすだけ」とは異なる効果が示唆された。
※ 実験のlimitationについても議論されている

(私も今すぐダンスを始めるべきなのでは、という気分になってくる)

Hewston, P. et al.
Effects of dance on cognitive function in older adults: a systematic review and meta-analysis.
Age Ageing 50, 1084–1092 (2020).

高齢者を対象に、ダンスと認知機能の関係を調べた研究のレビュー。
認知機能の種類によって、ダンスの効果が示唆されたりされなかったりという結果らしい。


そしてこちら↓は、GPSデバイスの利用がヒトのナビゲーション能力に及ぼす影響について調べた研究。

Dahmani, L. & Bohbot, V. D. Habitual use of GPS negatively impacts spatial memory during self-guided navigation. Sci. Rep. 10, 6310 (2020).

ヒトのナビゲーションメカニズムには2種類ある
・空間記憶、認知地図 タイプ:海馬依存
・刺激-応答連合学習、習慣学習 タイプ:尾状核依存

⚫︎ カーナビなどのGPSデバイスを使って移動する時は、後者のメカニズムに頼っている(この角まで来たら → 左に曲がる、みたいな動き方)
⚫︎ GPSデバイスを多用すると、前者タイプの能力が低下する

ちゃんと理解できているか自信がないけど、おそらく、通ったことのない道でも利用できるようになるような空間認識力が前者で、通った道をあくまで通った通りに覚える力が後者、というイメージ。

後者タイプに関わるとされている、脳の「尾状核」領域の説明↓なんかも読むと、

元々、自発運動のコントロールに主に関わっていると考えられていたが、現在では、脳の学習と記憶システムの重要な部分を占めていると考えられている

Wikipedia「尾状核」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BE%E7%8A%B6%E6%A0%B8

ダンスで鍛えられるのは、後者タイプのナビゲーションのような気がしてくる。

でも、ダンスで海馬が発達したという結果から考えると、前者タイプにも関係しているんだろうか?ダンサーさんって、自分の相対的な位置を俯瞰的に把握する能力高そうだしなぁ。

うーん……。


そんな予感はしていたけど、そう単純に理解できることじゃあなさそうです(結論)。


とりあえず…「運動+記憶+出力」の繰り返しが大事そう


※ あくまで私見です↓

冒頭でも書いていたように、これまで、「方向音痴」というのはあくまで「空間認知」とか「ナビゲーション」という枠内での問題なのだと思い込んでいた。

だから例えば、「タクシードライバーの海馬領域の体積が変化している」みたいな話↓なら、するりと飲み込めるんだけど…。

Maguire, E. A. et al. Navigation-related structural change in the hippocampi of taxi drivers. Proc. Natl. Acad. Sci. 97, 4398–4403 (2000).

Woollett, K. & Maguire, E. A. Acquiring “the Knowledge” of London’s Layout Drives Structural Brain Changes. Curr. Biol. 21, 2109–2114 (2011).


でも今回調べてみた結果、もっと広く根本的な「身体や脳をどう環境と関わらせるか」みたいな特性に由来している(可能性がある)ようだと考えを改めた。

少なくとも私の場合は、自分の身体の動きや周囲の環境への無関心さ(= ぼんやり)に第一の原因がありそうである。たぶんその次に記憶力の問題がくる。


そんな私でも、身体を動かす習い事をしてナビゲーション能力を開花させられる可能性がまだあるのだろうか。ドラム教室とかはどうだろうか。



参考資料


  • Sakiyama, T. and Suda, K. Movement during the acquisition of a visual landmark may be necessary for rapid learning in ants. J. Comp. Physiol. A 210, 75–81 (2024).

  • Rehfeld, K. et al. Dancing or Fitness Sport? The Effects of Two Training Programs on Hippocampal Plasticity and Balance Abilities in Healthy Seniors. Front. Hum. Neurosci. 11, 305 (2017).

  • Hewston, P. et al. Effects of dance on cognitive function in older adults: a systematic review and meta-analysis. Age Ageing 50, 1084–1092 (2020).

  • Dahmani, L. & Bohbot, V. D. Habitual use of GPS negatively impacts spatial memory during self-guided navigation. Sci. Rep. 10, 6310 (2020).

  • 『動物たちのナビゲーションの謎を解く』(デイビッド・バリー 著;熊谷玲美 訳)
    http://www.intershift.jp/w_navi.html

    「第24章:ナビゲーションの脳科学」
    ナビゲーション行動を刺激応答メカニズムで説明することについて、行動主義の文脈と合わせて解説されていて興味深かった。

  • Maguire, E. A. et al. Navigation-related structural change in the hippocampi of taxi drivers. Proc. Natl. Acad. Sci. 97, 4398–4403 (2000).

  • Woollett, K. & Maguire, E. A. Acquiring “the Knowledge” of London’s Layout Drives Structural Brain Changes. Curr. Biol. 21, 2109–2114 (2011).


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