24AW "VLESS" ① オリジナルファブリック
今回は真面目なハナシ
(いきなりで申し訳ございません...)
東京も梅雨の足音がすぐそこまで迫ってきました。
こうなるとクライマーはトレーニングに勤しむしかありません。
しかし来るシーズンに向けて、己を磨く不可欠な期間でもあります。
私もまた然りです。
それではLobsterの話題に。
少し前からInstagramで露出していましたが、
2024年秋冬に向けて新作の企画を進めています。
正確には、
ずっと作りたかったものを形にする機が熟した
と云うべきでしょうか。
モノ作り、とりわけウェア作りは日々更新される素材開発へのキャッチアップと言えます。
国内外ともに、各原料メーカー、テキスタイルメーカーは新たな"繊維"や"生地"を開発し販売しますが、私のようなメーカーはそれらを吟味しチョイスして購入し、各自ブランドごとの企画や仕様に料理をして商品化したものを世に発表します。
Lobsterも、毎シーズン(というよりは毎日)新しい素材に目を通し、自分の企画するウェアに落とし込めるかを日々吟味し研究しています。
ものすごく、一般的なやり方ですが
これは実は受け身の姿勢です。
正直なところ、
各テキスタイルメーカーからリリースされる
"新素材"や"新ファブリック"にはクライミング向けと言えるものは皆無に等しいです。
全ての素材は、例えば
・摩擦に強いか?
・引き裂きに強いか?
・色落ちはしないか?
・洗濯で縮みすぎたりしないか?
などを数値化する事ができます。
我々メーカーは生地サプライヤーからリリースされるこれらの数値としてのスペックを読み取って、クライミングウェアに利用可能か?を検証して購入し、商品化します。
ただし、私たちのクライミングスタイルやシーンが千差万別であることも一因し、100点をつけられる生地はありません。
(これは未来永劫存在しないと考えています。あるとしたら、裸でしょうか)
それゆえに、ある程度の妥協点を設け、
市場の生地の中から選んだ生地を使用するのがクライミングウェア(特にLobsterのような小規模メーカー)の通例となっています。
※インターナショナルスポーツアパレルはこの限りではなく、原料から開発している場合が殆どです
私はそれを否定しません。
なぜなら、それが最もビジネスに於いてスリム化されたメーカーとしての在り方だからです。
少しポイントからは逸れますが、
Lobsterには理想とするスタイルがあります。
そもそも自分がクライミングを始めたキッカケは、
ボルダリングにDOPEした先輩が、定例会(という名の飲み会)でクライミング未経験の私にいきなり黒本(著 室井登喜男)を広げてその魅力を熱く深く長く語られた事に因ります。
ゆえに黒本は今もバイブル。
そんな自分がボルダリングを始めるようになり、
国内外のカルチャーを識るにつれて、
また自分がクライミングを続けるにつれて、
クライマーの理想像が出来上がっていきます。
(独断と偏見に溢れております)
感動したクライミングは、、、
クリス・シャーマ氏のDream catcher
ジェイソン・キール氏のevilution
ブローのNarcoticを登るMershall氏
小山田大氏のStory of 2worlds / low start
ジミー・ウェブ氏のSleep walker
ナーレ・フッカタイバル氏のburden of dreams
ショーン・ベイリー氏の2021SALTLAKEfinal#4
橋本今史氏のMelange
などなど... !!! (挙げきれない 汗)
※印象に残っている全て私見のクライミングシーンです
先人や仲間の熱いクライミングをありがたく摂取する過程で
・リスペクトするクライマー像
・憧れるスタイル
が形成されていきました。
同時に、理想とするクライミングパンツは、
市場に流通する生地ではどうしても具現化出来ない現実も目の当たりにしました。
自分の求めるスペックを満たす生地が存在しないのです。
自分も細く長くクライミングを続け、
幾多と感動的な完登を享受していくなかで、
クライミングの意義は
困難な課題を不屈の精神や努力によって登り切り、
それにより得られた感動をシェア出来る事だと信じています。それにはクライマー自身の努力も勿論ですが、サポートする環境、仲間の存在が不可欠です。
ではクライミングパンツが出来ることとは?
それはただひたすら、
クライマーを妨げず、護り、寄り添うこと。
幸いファブリックの開発も職歴として携わっている為、
理想の"妨げず、護り、寄り添う生地"の
構想は比較的早い段階で出来上がりました。
生地をゼロから作ると言うことは、
膨大な選択肢からあらゆる要点を明確に指示する必要があります。
オリジナル生地の詳細は専門用語の羅列になってしまうため割愛しますが、
Lobsterが目指す生地は
・肌に接触する面はドライ感を保つ (快適性)
・表面はホールドに耐久性をもたせる (タフネス)
・合繊には表現できない経年変化性を持たせたい (愛着性)
を兼ね備えた生地です。
そこで出来上がった生地がこちらになります。
一見どこにでもあるような生地ですが、、、
裏面に秘密があります。
レシピの詳細は企業秘密ですが、
・表面は毛羽の立ちにくい紡績をした高密度コットン
・裏面は水分を溜め込まないポリエステル
という見た目と履き心地が相反する生地です。
ストレッチ性は敢えて持たせていません。
(肌に面で接するストレッチ生地よりも、点で当たるノンストレッチ生地の方がストレスフリーに繋がる というLobsterの考えに基づいています)
※ノンストレッチの生地も、たて糸よこ糸の組織が動くのでナチュラルなストレッチ感はあります。
一般的に流通してクライミングパンツに使用されている生地と比べると、比較的"重い"生地にカテゴライズされると思いますが、その課題はパターンで攻略。
ぜひ、ニーバー課題に使用して欲しいです。
デニム並みの安心感を感じるはず。
また、非常に特殊な染料を使用しており、
着用と洗濯を繰り返すことで生まれるエイジングが楽しめる仕様に着地しました。
表面をコットンにしたのは、この染料を使いたかったが故。
※洗濯の際は単品もしくは濃色と洗う必要あり
分かりやすくお伝えすると、
着用を重ねる事で唯一無二の表情に育ちます。
例えば
登りたい課題があり、でも実力がまだ至らない
そんな"ゼロ地点"からこの生地のパンツを履いて欲しい。
トレーニングを重ね、その課題をレッドポイント出来たら、そこにはトレーニングの足跡が垣間見える熟成したこのパンツが寄り添っているはず。
冒頭で述べた
"ずっと作りたかったものを形にする機が熟した"
の意味ですが、、、
生地をオリジナルで作るには非常に多くのメーター数が必要です。
ありがたい事に、皆様のご愛顧のお陰でLobsterも取扱店舗様、並びにエンドユーザーも増え、オリジナルで生地を作れるに至りました。
この場をお借りして御礼申し上げます。
完登への道程にあるクライマー
それを祝福する仲間
この関係性、コミュニティこそ最も大切なものだと考えています。
毎シーズン、
新しい企画を作る上でモデル名を考えますが、
・メーカーとしてクライマーの武運を祈る
・お互いを讃え祝福するクライミングカルチャーへのリスペクト
この2つの想いを込めて
"VLESS" とネーミングします。
あ、でも祝福ってBLESSでは?
とお気づきの方もいるはず。
Lobsterでは、"V" に込められた素敵な言葉をスパイスとして、今回のモデル名"VLESS"とさせていただきました。
victory 勝利
vim エネルギー
virtue 美徳
vital 生命力
vibes 波動
verve 動き
vertex 頂
続く