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人魚に恋したモンキー EP2

EP2【川嶌琉海 森咲海翔 18歳 秋】

一進一退。

リベロがボールに喰らいつき必死にボールを繋ぐ。助走距離を充分に保ちボールを待つ。セッターからトスが上がると、迷いなくボールめがけて助走を開始する。最高到達点に達すると時間(とき)が止まる。優しく撫でるようにボールを捉えた瞬間、相手コートに突き刺さった。

この瞬間、高校国体3連覇、春夏国体合わせて9連覇が決まった。 歓喜の輪から抜け出し、川嶌琉海(かわしまるか)は相手チームに近づきエースナンバー「1」に得意げに言った。

「通算成績9勝0敗。練習試合入れると・・・」

「はいはい。完全燃焼、悔いは御座いません。やっぱ強いな琉海のチーム」

「俺が凄いの」

「はいはいはい、敵いません」

チームメイトが高校最後の大会に敗れて泣き崩れる中、笑って答えたのが森咲海翔(もりさきかいと)。

「どのクラブチームに行くか決まってんだったら早く教えろよ。俺もトップクラブから誘いが来てる。お前が行くクラブチーム以外ならどこでもいいって監督には伝えてある。ステージを変えて、今度こそぶっ潰してやる」

「もう決めてる」

「どこだよ。勿体ぶらず早く教えろよ」

森咲海翔が少しムッとした表情をすると、

「そう焦んな。ヒーローインタビューでお披露目よ」

川嶌琉海はウインクをしてチームの輪に戻って行った。

「勿体ぶりやがって」

森咲海翔は試合に負けた事よりも川嶌琉海の態度に少しイラっとした。

テレビ局3年目、売れっ子アナウンサーがヒーローインタビュー開始を告げる。

「東京体育館の皆様お待たせしました。今大会、いえ今や日本バレーボール界のニュープリンス川嶌琉海選手に来て頂きました。国体優勝おめでとうございます。今の感想をお聞かせください」

「ありがとうございます。最高です」

「国体3連覇、高校1年生から春高、夏のインターハイ、秋の国体と負けなしの9冠。最後のスパイクを決めた瞬間は如何でしたか」

「これが最後のプレイになるのかなって少し寂しくて、もっとラリーを続けていたい気持ちと絶対決めてやるって気持ちが50:50でしたね。でも最後みんなが繋いだボールを決めれて良かったです」

「相手チームのエース森咲海翔選手も100年に1人の逸材と言われ、ライバル同士の対決でしたが、3年間1度も譲る事なく勝ちきりましたね」

「僕と海翔が大きくマスコミに取り上げられてますが、お互いほんといい監督とチームメイトに巡り会えていると思います。みんながいなかったらここまでの結果は残せていません」

「2人は地元も同じ大親友とお聞きしましたが、やはり意識しましたか?」

「そりゃ意識しまくりです。海翔に負けたくない気持ちだけで高校生活死ぬ気で頑張りましたから」

「ファンは2人の対決を今度はトップリーグで見られると今から期待しています。次のステージは決めているとお聞きしましたがどのクラブチームに決めたんですか。サプライズがあるとお聞きしてますので、もしかしたら森咲海翔選手と同じチームを選んだのでは。もしくは海外に挑戦するのでは。とファンの妄想が膨れ上がっていますが如何ですか?」

「はい、もう決めてます」

そう言って大歓声を聞いてから川嶌琉海は一呼吸した。

「今日の試合をもちまして、川嶌琉海はバレーボール界から引退します。第2の人生応援宜しくお願いします」

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