人魚に恋したモンキー EP3
EP3【神山海月 18歳 夏】
白い建物の正面玄関自動ドアが開くと無邪気に車椅子を全速力で漕ぐ美少女が現れた。
「海月危ないわよ!」
母に注意されてもその笑顔に変わりはない。
「だって久々の外出だよ。3週間も入院してたんだからハシャギたくもなるわよ」
「もう」
神山海月(かみやまみつき)、18歳の高校生。
3年前、友達と待ち合わせ場所へ向かってる途中に事故にあった。
奇跡的に只の骨折と診断され軽傷ですんだものの、骨折が完治しても歩ける兆しが無かった。
「原因不明ですね。本人の心の問題かもしれません」
細密検査をしても特に異常は見当たらないと医者は診断し匙を投げてしまった。
海月の母は比較的裕福な家庭に育ち有名な大学病院にも知り合いがいた。だが「あの医者はヤブ医者だ」と診断結果に納得がいかず他の病院を転々とするが、どんな名医が診ても結果は同じであった。
母は諦める事無くマスコミで紹介されていた病院にお世話になることを決めた。今回はここで精密検査を受ける為に入院した。当初は1〜2週間の予定であったが、病院側から追加の検査を促された為、結果的に3週間の時間を費やした。
「退院祝い何がいい。それとも何か美味しい物食べにいこっか?」
海月にはこれ以上辛い思いをさせたくない。母が優しく海月に話す。
「あ〜久々に思いっきり泳ぎたい。お腹空かせて焼肉いっぱい食べるんだ!」
入院中、病室の窓から見える人々が、どの人も幸せそうに見えた。みんな笑顔で歩いている。家族、恋人、ペット・・・と、その時海月の心は塞ぎきっていた。そばに居てくれた母をどれだけ困らせたことか。足はまだ完治していないが、母をこれ以上心配させてはならない。海月の満遍の笑みが母を余計苦しめた。
「焼肉ね。今日はママ奮発するわ。最高級のお肉食べに行きましょう」
「やった。特上ロース、特上カルビ。ダメだ考えただけでお腹空いてきちゃった。ママ、早く行こうよ」
結局この病院でも、海月の足を完治させる治療方法は見つからなかった。