なぜ新規事業の立ち上げ方が、大企業とスタートアップで違うのか?
2週間ほど前から、スタートアップで新規案件の組成を始めました。大企業と比較して違いが面白かったので、取り上げてみます。どういう案件の立ち上げ方が向いているかは、業界・案件・環境等によって異なるので、どちらが良い悪いという話ではなく、向き不向きのお話が出来ればと思います。
私が働いていた某総合商社では、新規事業の立ち上げ時には決まった方法がありました。色々なステップがあるのですが、一番メインとなるステップは稟議書です。その稟議書にも、方針を決める稟議と、実行を許可する稟議があります。方針を決める稟議でも、その案件が如何に意義深い事業なのか、キャッシュフローが良く収益性が見込まれるのか、実行性があるのか、リスクがマネージャブルなのか、と言った内容をしっかりと検証する必要があります。
稟議書の作成にあったては、営業部署だけでは専門性に欠けるので、案件の完成度を高める為に社内の関係部署(法務部やリスク・会計関連の管理部署)を巻き込み、アドバイスをもらいながら精緻な分析を行い、論理を組み立てながら事業計画を作ります。関連部署のOKが出ると幹部への案件説明会でその案件の推進可否が判断されます。
担当部署は、どんな質問が来てもしっかりした隙のない説明が出来る様に、詳細を詰め、想定問答を作り、命を懸けて(大袈裟ですね笑)幹部向けの案件説明会に挑みます。幹部がOKを出すと、晴れて実際に人が動き始めます。ざっくりいうとこんな感じ。
一方、最近お手伝いを始めたFintechのスタートアップで、全く違う文化を経験しています。
因みにこのスタートアップは(名前は出しませんが)、多通貨の決済プラットフォームで、百万人以上のユーザーが、1日当たり14百万ドル以上のトランザクションを行っているロンドンのフィンテック業界では相当アツい会社です(昨年11月にシリーズBで$66百万ドルを調達)。とにかくUI/UXがいいので、LBSの同級生も大半がアプリを使っていて、ユーザーがどんどん増えており、今のところすごく成功しています。というわけで、彼らの仕事の進め方は参考になる部分が多そうだと楽しみにしていました。
ここで経験している新規の立ち上げ方と、総合商社の立ち上げ方で一番違うのは現場への権限移譲です。意思決定までに介在するプロセスの数がとても少なく、圧倒的なスピード感で物事が進んでいきます。新しい地域でのビジネスローンチという結構大きなプロジェクトに関わっているのですが、誰と組むのか、どういうスキームにするのかは決まっていない状態で走りだします。決まっているのはざっくりとしたサービスローンチの時期のみ。
計画が全くないわけではなく、マイルストーンは一応置いていますが、予定外の事が沢山起きるだろうから、ガントチャートなんて作るのが時間の無駄だよね。という雰囲気です。実態としては、週次で進捗共有しながらプロジェクトを少しずつ軌道修正して、目標期日までのゴール到達を目指しています。
意思決定は書類を関連部署に回議して決めるのではなく、基本打ち合わせの中で物事が決まっていきます。私は3人チームの現場担当2人のうちの1人なのですが、提案した内容は大体通っているイメージです。パートタイムで自宅から働いているので、私の上司よりも上のレイヤーにどこまで意思決定プロセスが介在しているのかは把握しきれていませんが、資料作成は依頼されたことが無く、稟議的な資料が存在している気配は全くありません。あっても、メールかSlack程度じゃないかと思います。(今度聞いてみよう。)
サービスをローンチした後も改善を続けることが大前提なので、とにかく世に出して、あとはスピーディーに改善を続けてサービスレベルを高めていくアプローチです。
以前Youtubeで見たグロービスのビデオでDeNAの南場さんが「大企業が同じ分野に新規参入で競合すると発表してもまったく怖くないけれど、スタートアップが発表したら、かなり気にする」と言うコメントをされていた本当の意味をようやく体感しました。確かに、このスピード感で物事進んでいたら、うかうかしてられません。
因みに、スタートアップでよく使われる新規案件立ち上げのアプローチは、Agile(アジャイル)と呼ばれています。これは、スタートアップ界隈(特にエンジニア)で多様される、事業開発の手法です。少数のチームで、2週間程度の短期間で終えられる程度の狭い範囲で開発+リリース若しくは改善をぐるぐる回し、スピード感を失わずに前に進む手法です。知らない方はこの辺を読んでみてください→(http://www.nec-solutioninnovators.co.jp/column/01_agile.html)
この概念自体は目新しいわけではないのですが、実際にこのやり方を使っている大企業はまだあまりない様です。先日、資生堂の魚谷社長が積極的にアジャイル型の事業開発に挑戦している様子をyoutubeで見て結構感動したので、ついでにシェアしておきます。https://www.youtube.com/watch?v=h6qQ6rvssUw
(因みにグロービスはびっくりするほど良質なコンテンツを無料で出してます。かなりお勧めです。)
実は、アジャイルを取り扱う授業はLBSでもいくつか開講されています。そのうちの一つが、Pathways to Startupという新事業を開始する為に必要なことを色々な角度から検証する授業です。
この授業では、従来型の「Business Plan(=事業計画)」という考え方が陳腐化してきている事が紹介されました。事業計画というのは「今までの環境がこの先も1年続く」という想定に基づいた考えなので、月単位で新たな技術やサービスが生まれ、産業構造が目まぐるしく変わってゆく業界では、あまり重視されなくなってきているとのこと。業界によって大小はあるでしょうが、あらゆる業界でこれまでの常識が少しずつ通じなくなってきているなか、今後このトレンドは加速していくのかもしれません。
しかし、「時代が必要とするから」みたいな建前以外に、小さい会社では必要に迫られて事業計画型からアジャイル型を使わざるを得ない側面もあるようです。スタートアップを含む小さい企業は、時代の流れにキャッチアップしていないと即キャッシュフローや収益にヒットしてしまう為、悠長なことを言ってられないのです。つまり、1年の先の事を一生懸命鉛筆舐めるよりも、アジャイルの小さいサイクルでドンドン新規開発なり改善なりを回して、新たな事業を構築していく必要がある。これは良い面もあり、外部環境がものすごい勢いで変化している中では早く外部環境の変化に対応できます。
一方、大きい会社は社内の経験値があり、資金にも余裕があるので、多少の凹みで潰れたりしません。しかし、危機感の欠如から既存の事業開発の仕組みが、時代の変化に対応できなくなっている事に気づくのが遅れるという弊害もあります。
繰り返しになりますが、アジャイルが全ての事業に向いている万能なものだとは言いません。しかし、スピード感が求められる業界における新規事業の立ち上げでは圧倒的に有利だと実感していますし、この形での事業開発が出来る人材の必要性は今後上がっていくと思います。
因みに、Googleでの検索数を比較するサービス(Google Trendhttps://trends.google.co.jp/trends/)を使って、Business Plan(事業計画)とAgile(アジャイル)の検索数を比較してみました。
世界のトレンドが以下です。2015年くらいを境にアジャイルがぐいーんと伸ばしてきています。
どちらがより検索されているか地域ごとの分布が以下です。日本では英語で比較するとAgileの方が検索されています。
単語検索数と実務での重要度が一致するとは言いませんが、世の中の人がより注目している手法がアジャイルというのは事実の様です。
最後にオマケですが、Google trendで少し遊んでみました。
世界全体(Business Plan VS Agile VS Lean)
リーンが圧倒的に強いですね。
米国(Business Plan VS Agile VS Lean)
アメリカがグローバルのトレンドを決めているのか、、、と思わざるを得ない波形の一致。検索の絶対数が多いのでしょう。
イギリス(Business Plan VS Agile VS Lean)
イギリスもリーンが強いですが、Business PlanとAgileが拮抗しています。
日本(Business Plan VS Agile VS Lean)
日本はかなりデータが上下にぶれています。おそらくデータの母数が少ないのでしょう。確かに日本にいながら英語でAgileとか検索する人は少なそうですね。
という事で、日本地域に絞って日本語(事業計画 VS アジャイル VS リーン)で検索してみました。
英語の場合と同じくリーン強しですが、日本語では、事業計画の方がアジャイルよりも検索されている数が多いという事が分かりました。
そして、Googleの検索数カウントは言語が違と違う単語としてカウントしてるんですね。特にオチはないのですが、今日はここまで。ちゃんちゃん。