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福助と納涼祭

8月も半ばの名駅シンボリック、福助はお昼休みの時間を迎えていた。ネイビーの制服を脱ぐと。エレベーターで一階のキャリアコーナーへ降りていく。

おや?いつもは家電が置いてあるスペースに何やら楽しげな、スーパーボールの泳ぐプールとワニ釣りの屋台が出ている。

買い物をした客限定で楽しめる屋台らしい。福助が近づいていくと、キャリアコーナーの北川が近づいてくる。「福助さん、ここは3000円以上お買い物したお客様限定となっております。」

「知ってるよ。朝、金田くんからLINEがあった、レシートなら持ってる。」
福助はポケットから当日のレシートを差し出す。「今ならお客さんはきてないしいいだろ?」愛嬌のある微笑みを北に向ける。

「ならやってみてください。」北川はポイとお椀を差し出す。
「これね、ポイは水面と平行に入れて。全部濡らしてください。乾いている部分が破れて行ってしまうので。焦らずそっと。」

福助はワクワクしているのか、子供のように目をキラキラさせている
ポイを水に浸すと、ショッキングピンクとオレンジのスーパーボールが流れてくる。さらに水面と平行にポイを滑らすと。青とシルバーのキラキラしたボールが福助の元に、、、ニヤリとすると。静かにポイを引き上げて、お椀に入れる。

「よし、次はワニ釣り!」隣のコーナーの弥次から釣竿を受け取るとおもちゃのワニの背中にあるリングにS字のフックを引っ掛けて、慎重に引き上げる。

ワニの腹には白い紙が貼ってあり、「ウェットティッシュ」と書かれている。
「うーん、まあこんなもんか。」スーパーボールとウェットティッシュを受け取り。雑談を始める「金田くんはこれいくつすくっていったの?」

「金田さんは25個です。」
「へ?ポイどんだけ渡したの?」
「一つです。」
「それほんとだよね?」
「まさか、脅されて五つ渡したりしませんよ。」
北川は真面目に答えている。福助は悔しそうだ。

「福助さんのコーナーでは何かやっていますか?」今度は弥次が尋ねてくる。
「赤べこのイベント以来全然。」
「有名企業だから、やるとなったら派手ですね。」
「赤べこは信号機もびっくりなレッドのPRだったからね。次にあるとしたら絶対負けない勝色とナマハゲのタイアップじゃないかな?」
「福助さんが赤鬼になるんですか?」
「いやー、そうなったら金田くんがぴったりだよ。僕にそういうのは似合わない。」冗談めかして笑う福助と青ざめている弥次

「なく子も黙る販売員だからね、テレビ局が取材に来るかもしれない。もしそうなったら遊びに来てね。」そういうと、福助はコーヒーを自販機で購入する。

ーー売り場は、休日も平日も変わらない。でも最近は若い子が定着しないから、それだけが悩みの種だなーー
そう考えながら、お客さんにポイを渡す北川を見守る。弥次は爬虫類が苦手なので、オモチャのワニですらおどおどと触れている。

ピーン!福助のスマホに着信が入っている。本社からだ
ーーもうちょっと休ませてくれてもいいのにーー
既読をつけないように、そっと開くと。

名駅シンボリックの従業員各位とある
ーーあ?もしかして営業がくるん?ーー

株式会社ソリディア電機専務より
年末のセール案内詳細とイベント実施のためのアンケートの文字が踊っている

ーーええ?うちの専務、東北に旅行いっとるんとちゃうのーー
コーヒーを胃袋に流し込むとメッセージをもう一度読み直す。

前回の某外食チェーンとのタイアップ赤べこ促進イベントにご協力いただきありがとうございました。

株式会社ソリディア電機専務より
年末のセール案内詳細とイベント実施のためのアンケートを行います。とある

ーーなんや、これ。金田くんにも送られとるわけか。しかも、イベントは参加が前提。こりゃ参ったなーー
いつもマイペースな福助の額に冷や汗が滲む

写真には、スポンサーや推しキャラのステッカーをベタベタと貼った専務のタブレットが添えられている。しかも、ご丁寧に赤べこと青いナマハゲのステッカーまで貼り付けてある。

ーー何にも隠す事なしに、根性あるわーー

アンケート
①ステッカーは全て配布しましたか?
②ハッピのサイズはいかがだったでしょう。
③楽しく接客出来ましたか?

ーーんなわけあるか!ちんどん屋じゃあるまいしーー
メッセージに既読をつけてしまったことに後悔する。

ーーしかも何?続きがあるんかいなーー

なお、次回のイベントは売り上げNo.1の金田成仁氏に青いナマハゲになっていただきます。

ーーはい、もう予想通りや。金田くん、ナマハゲ決定です!ーー

アンケートには必ずお答えください。
ーーよし、いややから。僕は次回遠慮します。って書いたろーー

スマホに素早く指を走らせると
①ステッカーは完売!
②サイズピッタし!!
③もちろん!!!と書き連ねる

最後に、前回の牛さん踊りとステッカーは職場でかわいい!!と好評でした。
恥ずかしかったですが、家族づれに褒められどうにかやり切ることが出来ました。僕はナマハゲには向いてないので次回は遠慮します。

と送信ボタンを押す。すぐさま、既読がつく

ーー今日の休憩は終わり。金田くんは何て返事するやろなーー

コーヒー缶をゴミ箱に捨てると、エレベーターに乗り。
ロッカー室を目指す。ドアノブをひねると素早く中に入る

カチャン!!ロッカー室には、金田の姿が。案の定ゴールデンタブレットを抱えて震えている。

「あれ、君どうしたの?」
「福助さん、専務からメッセージがあったんです。」
「うん、知っとるよ。アンケートに答えたばっかだけど、どないしたの?」
「オレを青いナマハゲに推薦したのあなたですか?」
「そんなことあらへんよ。専務のサプライズやない?」
福助は問い詰められて、顔の筋肉を緩める。
「あなたは、オレの味方ですよね?」金田の目は血走っている。
「君どないしたん?」
「ナマハゲはオレにはできません。」
「なら、やらんでええねん。」

「今日、オレ。洋酒を一本購入して。そのレシートでスーパーボールを25個もゲットしたんですよ。」
「キャリアコーナーの連中が、駆り出されてとったね。そこで、25個も儲けたの?」
「そう、今日は朝からついてるなと思ってたんです。」 
「ポイはいくつもらったの?」
「一つ」
「君は金にモノ言わせて、儲けたわけじゃないんだな。」
「あたり前です!ルールぐらい守ります。」
金田がカッとなるので、ロッカー室の温度が上がる。
「金田くん、こんなところで怒っても誰も得せやせん。水飲んで落ち着き。」
「安曇野の天然水買ってきます。」
「そうだろ、アンケートなんてテキトウに買いとけばいいんよ。僕だってチンドン屋のマネするのイヤやから。次回は遠慮しますって返事したった。」
「つまり、オレがやるんじゃないですか!」
「別にお面付けとけば誰かわからんし。」
詰め寄る金田を生ぬるい笑顔で引き剥がすと、金魚のように逃げていく。
「君がナマハゲになってる間、僕はステッカーを配っているからよろしくね。」

「‥‥‥。」金田はうなずくと渋々制服を脱ぐ
福助は制服を着て売り場に戻っていく。
「ふーー、今日は儲けたもんだと思っていた。でも、甘かったな。」
ロッカーの中には25個のスーパーボール
ーーふん、オレならステッカー25枚ぐらい。余裕で配れる、でも次回は上司に譲るよりほかにないなーー
スマホを握りしめて、専務からの写真を保存する

気のせいか、ナマハゲステッカーの青鬼が微笑んだ気がする。
納涼祭は金田の心をわしづかみにしたようだ。

to be continue‥‥



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