見出し画像

やさしい手ほどき、On Elegance ⑦    フランス家庭に招かれたら

緑が眩しいベルサイユよりボンジュール!
大きな青い空が広がる初夏が到来しました。

晩秋の、ショールに頬を埋めたくなる憂い空のベルサイユも、霜が降りて粉砂糖を振ったような真冬のベルサイユも好きですが、やはりベストシーズンは、陽が長くなる初夏から晩夏でしょう。

今日は前回の続き。
先日は、パリにお住まいのマダム達をベルサイユの拙宅にお招きし、「フランスのサヴォアフェール」についてお話しする機会に恵まれました。そのときのルボルタージュ第二弾です。

パリからいらして下さった皆さん。遠くまで足を運んで頂いて嬉しかった!
行きは電車で。パリの西側からベルサイユまでは電車だと20分ちょっとの距離です。
お帰りはUBERで乗り合いされて、所要時間はやはり20分程度。

ベルサイユ宮殿駅で待ち合わせ、宮殿公園へ向かう途中、ベルサイエ(ベルサイユの住人のことをこう呼びます)の胃袋、「ノートルダム市場」に立ち寄りました。この市場は、太陽王ルイ14世によって設営された歴史ある市場です。
(こちら ↓ は昨年撮りました。今ではマスクしている人は少数です)

左はリサイクリングゴミの容器。ベルサイユは細部までシックなのです。
火・金・日は青果市場となり活気も一際。
エスプレッソ・スタンドのお兄さんは、「チャオ!」とフレンドリー。

この後、宮殿公園を抜け拙宅へ。

皆さんに喉を潤して頂きながら、「さあ皆さん、ここがフランス人の家庭だったらば、どのように会話を始めますか?」と不意打ちをかける、いたずらなワタシです。

「アンシャンテ、ですよね?」
という声が上がります。

「初めてのご挨拶の時は『アンシャンテ』と言う」とほとんどのフランス語テキストにはありますし、間違いではありません。
でも、わたしはそう言われたことがないのですよ。
結婚した当初は、初めましての人ばかりで、わたしもアンシャンテを連発していましたが、ある日、義父に「ボンジュールでいい」と指摘されました。あとで「何故ですか?」と聞いても、義父は葉巻を咥え、ミステリアスに微笑むだけで(そういう人なんです)、煙に巻かれました。

調べると、アンシャンテは、英語のEnchantedと同義語。「魅力にうっとり」という意味です。だから、初対面の方の場合、まだ相手のことを何も知らないというのに、「アンシャンテ、魅了させられました」というのも、確かにいい加減というか、おかしな感じもします。
アンシャンテが挨拶に使われるようになったのは、「あなた様のように魅力的な方にお目に掛かることができて光栄です」という、お世辞みたいなところもあったのでしょう。でも、目上の方にこの言葉掛けは少々尊大な気もしたり。また異性への挨拶としても、ちょっと意味深かも?

初対面の挨拶、正解は、「ボンジュール、マダム/ムッシュー」です。ボンジュールだけでは片手落ちで、マダム/ムッシューを付けるところが大切。

拙宅のサロンにて。
ロールプレイ、説明、意見、笑い……ああ、楽しかった!

次に、
「アメリカだと、皆さんご自分の自己紹介をしますよね、こちらフランスでもそうですか」
という声も頂きました。
アメリカでは、「Hello、ドメストル美紀と申します、日本から来ました。○×の妻でして、子どもは二人。物書きをしていて、今はベルサイユに住んでおります」という感じに、皆さんオープンにご自分のことを話します、と。
でも、フランスの、お堅い階級だと、そこまでオープンな自己紹介は奇異に受け取られかねません。その兼ね合いが微妙なため説明が難しいので、参加者の方々と簡単なロールプレーをしてみました。フランスだとこんな感じで会話は始まります。

「ボンジュール、マダム」
「ボンジュール、マダム」
「あの、貴女は○×さんのご家族かしら?(とか何とか、属性を推し量って言ってみる)」
「いえいえ、○×さんの昔からの友人です。ソフィーです、ソフィー・ド・ラセルと申します(実在の名前ではありませんよ、作りました)」
「そうでしたか、わたしは、大和撫子と申します。○×さんとはご近所のお茶仲間でして」
「ーーそうですか。ーー沈黙ーー。ご近所と仰ると、ベルサイユですか?」
「ええ、貴女は?」

とまあ、スローかつ慎重に慎重に話が進むんです。
正直、わたしはこれが苦手。開けっ広げな人間ですし、相手に対する好奇心も強い。それにせっかちですからね。たったかたったかと、お互いを公開しあって、共通項を見出して盛り上がりたい派です。

でもね、郷に入れば郷に従えですよ。

相手と同じ熱量までクールダウンした方が、相手も居心地良いでしょうし、警戒を解いてくれます。

「警戒」と言いましたが、ホント、わたしが知るフランス人は警戒心が高い! 自分の情報をできるだけ公開したくない、というオーラというかバリアに包まれていてアクセスが難しいのです。それはわたしが外国人だから、と言うこともあるのかもしれません。もしくは、フランス人は競争心強い国民ですから、下手にお喋りして弱みを見せたくないところもあるのかも。

なので、わたしも詮索することはせず、「小さな質問と適度な沈黙」という会話法を守ります。すると、意外と興味深い話に至ることもあるのです。
個人的な話ができないとなると、一般的な話題しかない。天候、仕事、経済、旅行、学校、日本、バカンス……探してみると色々話すことはあるんですよ。そういうトピックについて、いざ話してみると、相手から面白い話を聞くこともあるし、「わたし、そんなこと思っていたんだ」と自分の中で閉じっぱなしにしていた引出を開けてみたときのような再発見もあって、「ディスカバー自分」、みたいな面白さがあります。

常用されているけれど、気をつけて使うべきフランス語
Bon appétit ! 
食事を頂くときの声掛けですが、これは「頂きます」とは違います。「食べてね」「食おっか」という感じなのかな?だから場を選ぶ言葉だと思います

De rien
「どう致しまして」という意味だと習いましたが、文法的にはそれだけで使うとおかしいとか。je vous en prie の方がエレガントですね。

À vos souhaits ! 
くしゃみした人に対する声掛けです。英語でいうBless you!のフランス語版。元は、悪霊や呪いを追い払う時に使われた言葉掛けらしいですよ。くしゃみで悪い憑きものを吹き飛ばして良かったね、みたいな思いやりある声掛けなのだと思います。けれど、上流階級の方々にしてみると、人前でくしゃみするという恥ずかしい行為をしてしまったのにこんな声を掛けられると、恥の上塗りをされているように感じるから放って置いてくれ、と思うのでしょう。くしゃみする方がいたら、そっと気づかぬふり、が正解。
ついでに。
咳も、しはじめた途端に「大丈夫? お水持ってこようか?」といわれ、それどころじゃ無いとき、ありませんか? 咳込みする方に対しても、しばしそっと気づかぬふりしながら、助けが必要かな、とこっそりウォッチする、そんな間が大切だと思います。

日本語、外国語に通じることかと思いますが、スラングや新語は敬遠した方が素敵。あれはその言葉を作った方の世代・環境において生きる言葉だもの。大人なら、自分の言葉で話した方がしっくりくるのでは。

ついでに日本語に関して……
「させて頂きます」といった、文字数多い言葉遣いもエレガントじゃないかも。エレガントという言葉には、「シンプルに正確に」という意味もあるんですよ。「します」「致します」という丁寧な話し方で十分気持ちは伝わるのでは?

会話って難しいですよね。でも日本の丁寧で機微細かいコミュニケーションをマスターしている皆さんでしたら、ちょっとコツさえ掴めば問題なしだと思います。

中々テーブルのサヴォアフェールにたどり着きませんが、次こそは!
また行きます!

著書 『フランス伯爵夫人に学ぶ美しく上質に暮らす45のルール』
『どんな日もエレガンス
AXESのウエブマガジンにて


いいなと思ったら応援しよう!