PIERROT「FINALE」-デビュー時から完成されていた壮大な世界観
PIERROT(ピエロ)のメジャー1stアルバム、「FINALE」はロックという音楽ジャンルにおいての芸術性の追求と商業的な成功を両立させたアルバムといえるだろう。終末感と新たな始まりを描いた壮大な物語が詰まった傑作アルバム。
1枚のCDの中に様々な物語が凝縮され、ひとつの作品として独特の世界を構築している。今でも色褪せない魅力を放つ個性的な芸術作品である。
時代背景/1999年はヴィジュアル系バンドの大戦国時代
1999年当時の日本はロックの全盛期で、GLAY、LUNA SEA、L'Arc~en~Cielといったバンドがヒットチャートを賑わしていた。
GLAYは「GLAY EXPO '99 SURVIVAL」で20万人規模のコンサートを実施。LUNA SEAは東京ビッグサイトで人数無制限ライブ「CAPACITY∞」を開催し、L'Arc~en~Cielも同じくビッグサイトで10万人規模の「GRAND CROSS TOUR」を行った。これら全てが1999年の出来事であり、ロックバンドはまさに一大ムーブメントとなっていた。
この流れを汲み、いわゆるヴィジュアル系と呼ばれるバンドが次々とデビューし、個性を競い合う群雄割拠の時代が到来する。
また、この年はDir en greyやJanne Da Arcといった、後にレジェンドとなるバンドが続々と登場した記念すべき年でもある。
PIERROTも同じ1999年にメジャーデビューを果たし、1stアルバム『FINALE』はDir en greyの『GAUZE』と並んで約20万枚を売り上げ、彼らにとって最大のセールスを記録した。
数多くのヴィジュアル系バンドの中でも、PIERROTは異質な存在で、その独特な世界観はこのデビューアルバムからも鮮烈に感じ取ることができる。
メジャーデビュー作とは思えない、完成された世界観
メジャーデビュー・アルバムにもかかわらず「FINALE(最終楽章)」というシニカルなタイトルにも彼らのこだわりを感じ取ることができるだろう。
本作は「終わりは始まり」という逆説的なコンセプトを元に、独自の終末観が描かれている。
一曲目「FINALE」は、木管楽器とシンセサイザーが織りなすシンフォニックなイントロから始まり、世界の終焉を予感させる不穏なメインメロディが印象的。そこにバンドのアンサンブルが加わることで、一気に楽曲の世界へと引き込まれる。まさに完璧なオープニングナンバーだ。
本作の楽曲は、登場人物をアダムとイブに見立て、彼らが時代を超えて生まれ変わりながらも互いを求め合うというストーリーを軸にしている。この設定がアルバム全体に一貫して反映され、圧倒的な世界観を作り上げている。
さらにはノストラダムスの予言に合わせ、1999年7月7日リリースという点にもこだわりが詰まっている。
シングル曲を中心とした、壮大な各楽曲のコンセプトが色濃い
メジャーデビュー以降リリースされた4枚のシングルから、カップリング曲を含む5曲がアルバムに収録されている。これらのシングルにはそれぞれ強いコンセプトがあり、互いに繋がりを感じさせる構成が特徴的だ。
デビューシングル「クリアスカイ」は比較的ポップな曲調で、続く2枚目「MAD SKY」はダークで攻撃的。同じ「空」をテーマにしながら、まるで陰と陽のような対照的な2連作となっている。
3枚目のシングルでは「ハルカ・・・」と「カナタヘ・・・」というタイトルの2曲が収録され、対になる構造が印象的。
そして4枚目の「ラストレター」は特攻隊をテーマにしたセンチメンタルなバラード。単体で独立したコンセプトだが、シングルCDには同曲をテーマにした小説がセットになっているというこだわりっぷりで、こだわりが大渋滞している。
これらのシングル群は、それぞれが独立した魅力を持ちながら、統一感のある世界観を作り上げている。
次回作へと繋がる伏線
全13曲収録の本アルバムは、12曲目の優しく壮大なバラード「CHILD」で感動的に締めくくられる。歌詞カードにも「Child」の後にエンドクレジットが掲載され物語は終焉を迎えた。
しかし、奇妙なことにエンドクレジットの後にもう一つ歌詞が掲載されている。「Child」が終わり、しばしの静寂の後に不気味なSEから不協和音のようなリフが急遽始まる。
ここでまさかのもう一曲、「Newborn Baby」が本当のエンドロールなのであった。感動的なムードから一転、不気味で荒々しい印象を残してアルバムは幕を閉じる。
12曲+1曲という楽曲構成からも、セオリーにとらわれないオリジナリティーが色濃く染み出ている。
そしてこの曲は「FINALE」の世界の最後に産まれた赤子「Newborn Baby」が次作のシングル「Creature」で描かれる怪物へと進化していくという、新たな世界線への複線なのである。
アルバムの最後に新たな世界線を提示するこの手法は、映画の予告編のような壮大なエンターテインメント性を帯びている。
こうした緻密なストーリー性とコンセプトが詰まった本作は、発売から25年が経過した令和の現在でも、他に比べるものがないほど圧倒的な個性を放っている。