PIERROT「PRIVATE ENEMY」現世=地獄。心にキズを負った少年少女のバイブル
PIERROTの2ndアルバム『PRIVATE ENEMY』は、現代社会の闇に迫る壮大なコンセプトアルバム。その物語は、この世の不条理を描き、その苦悩と葛藤の末に光を見出すという壮絶なもの。まさにPIERROTらしい陰鬱で壮大な世界観が詰まった1枚といえる。
1曲目「THE FIRST CRY IN HADES (GUILTY)」では、産声を上げた赤子の目に映るのは輝く希望ではなく、絶望の世界。この衝撃的な幕開けから、アルバム全体を貫くテーマが見えてくるように思える。
産声を上げた赤子の目に映るのは、輝く希望ではなく絶望の世界だった
なにやら不穏な印象を感じさせる1曲目の「THE FIRST CRY IN HADES (GUILTY)」。
不気味な効果音から始まり、徐々に重なるベースとドラム、そして印象的なギターの不協和音がPRIVATE ENEMYの世界を切り開く。ストーリー性豊かな歌詞は、聴く者を一気にアルバムの深い世界へと引き込んでいく。
とある罪人が死刑を執行され生まれ変わるところから物語は始まる。生まれ変わった赤子はこの世へと引きずり下ろされる。
闇の外に溢れる光は希望ではなく、絶望の世界だったという衝撃的な幕開けである。
周囲が新しい生命の誕生を祝う中、生まれ変わった罪人は押し寄せる恐怖に悲鳴を上げるという、なんとショッキングな歌詞だろう。
そしてその少年は2曲目の「CREATURE」(怪物)として現世へ落とされるのであった。
1曲1曲は独立しているが、この作品全体を通して一貫したストーリーを構築しているように感じられる。この曲で生まれた赤子がこの世で体験する、不条理で理不尽な現実世界の闇を描いているように思えてならない。
攻撃的なライブ定番曲からバラードまで幅広く、ポップとダークが両立したバランスの良い作品
前作で増したポップさの反動か?メジャー2作目となる本作は、より攻撃的でダークな要素が際立ちバランスの取れた作品に仕上がっている。
特に序盤の「CREATURE」や「ENEMY」は、ロックサウンド全開のアグレッシブな楽曲で、ライブで盛り上がることは必至。中でも「CREATURE」のイントロのリフが秀逸。このツインギターの掛け合いは圧巻で、ロック史に燦然と輝く名フレーズと言っても過言ではない。ギターのアイジと潤による完璧なアンサンブルは、リスナーの心を強烈に突き刺し、彼らの代表曲と称するにふさわしい。
他にも、両A面シングル「AGITATOR」「FOLLOWER」、そして「神経がワレル暑い夜」といったシングル曲の存在感が大きく、アルバムの顔となっている。
さらに「Waltz」や「ATENA」といったアルバム曲も絶妙に脇を固め、全体の完成度を底上げしているのが特徴だ。どの曲も捨て曲がなく、ニュース番組の音声を模したインタールード「Analyze Chat FREAKS」は、次曲の「FREAKS」を引き立てる伏線として機能している。
そして「パウダースノウ」、「ゲルニカ」など、深い悲しみを綴ったバラード曲も名曲揃いである。
「パウダースノウ」は元々シングル「CREATURE」のカップリング曲で、そのアルバムヴァージョンを収録。原曲よりもテンポを落とし、よりドラマティックなアレンジが感動的。深々と降り積もる雪を連想させる。
一方、シングル版の流れるようなメロディアスなアレンジも魅力的で、どちらが優れているかを比較すること自体がナンセンスだと感じる。
本作は、まさにPIERROTを代表する1枚。大傑作と言っても過言ではないだろう。
心にキズを負った者たちに深く突き刺さる作品
そして、物語は最終曲「THE LAST CRY IN HADES (NOT GUILTY)」で幕を下ろす。その結末は、地獄のような世界を体験した主人公は絶望を経験しながらも最後は希望の光を見出すのだ。
これは果たしてハッピーエンドだったのか?容易には結論付けることはできない。しかし、優しく罪を洗い流すような穏やかなメロディに、まるで浄化されたような感覚さえ覚える。そんな感動的なクライマックスで本作は大団円を迎える。
これが、「PRIVATE ENEMY」の物語である。
アルバム全体を通して絶望感溢れる楽曲ばかりなのにも関わらず、どこか救われるような感情が沸き立つ。
陰鬱で悲しみに溢れた楽曲をベースにしながらも、サビでは開けて希望を感じさせるようなPIERROT節は健在。それがPIERROTの個性であり魅力なのだろう。
こうした極めて特異な音楽にも関わらず、発売当時に触れたリスナーに深く突き刺さる作品だった。音楽という枠を超え、人生と重ね合わせた若者も多かっただろう。例えば学校でいじめにあったり、人生に不安を覚えていたティーンの心を映し出すような、現代社会の闇にフォーカスした一枚である。