アメリカのファッション誌の編集長になった日本にルーツを持つ女性。
アメリカのメジャーなファッション誌のひとつ『マリ・クレール』の編集長に、日本人の両親を持つAya Kanaiが就任したことが去年末に発表され話題となった。
1937年にフランスで創刊された『マリ・クレール』は現在29カ国で刊行され、日本では2012年より『マリ・クレール・スタイル』として復刊されている。
VOGUE誌、ELLE誌、Harper's Bazaar誌と並ぶMarie Claireが初めて編集長にアジア人を迎えたことは、出版業界、ファッション業界以外でも多くの人を喜ばせた。
ニューヨークで生まれ育ったカナイの父親はグラフィックデザイナー、母親は元ファッション誌の編集者で、現在もイッセイミヤケのコアスタッフとして現役でご活躍されている。
それを聞くと一般家庭で育った私などは「やっぱりそういう恵まれた環境で育ったのか...」と思ってしまうのだが、今のアメリカでは「representation」が全てである。
私とは全く違う能力や家庭環境で育った人であっても、マリ・クレールのマストヘッドのトップに「Kanai」という名字を見て、喜びを感じずにはいられない。
カナイ自身もインスタグラムで、母親のJun Kawai の名前がハーパーズ・バザールの1976年のマストヘッドに「ファッション・エディター」として記載されていることを誇りに思う、とシェアした。(2枚目の写真です)(鳥肌がたった)
メインストリーム社会で、マイノリティーと呼ばれる人が当たり前のように活躍することがどれほど大切か、アメリカにいると、またはメディアをウォッチしていると毎日のように目に入ってくる。
Representationがなぜ大切なのか。まさに、カナイが育った家庭がそのことを証明しているように映る。
Refinery29という人気ファッションメディアのポッドキャストで、Aya Kanaiはこのように語っている。
My parents came to this country (US) in the late 60s, separate from each other. They met in America, which is kind of an unusual origin story. They both independently wanted to come to America to study, and my father was doing some graduate work at Pratt, my mother was going to college here as well. (09:07)
私の両親は60年代後半に、それぞれ別々にアメリカに来ました。アメリカで出会っているんです、ちょっとあまり聞かない流れですよね。それぞれがアメリカで勉強したいと思って渡り、父はプラット大学の大学院に通い、母もアメリカの大学に通っていました。
That desire to do something different, and move to another country...I can't even imagine choosing to do that and not knowing the language and then ultimately getting married, and having two American kids and building an entire career in any other country other than the one that I live in right now... (09:38)
人と違うことをしたいという願い、そして実際に母国ではない国に引っ越してしまうということ。そこで、言葉もわからない中で結婚もし、二人のアメリカ人の子供を産み、育て、キャリアを築き上げるなどとは、アメリカにしか住んだことのない私には想像もつかないことです。
The fact that I have been able to be the product of, and observe that life story is a real honor to me, and only something that I figured out later in life is, weird. (09:50)
そのようなふたりから生まれて、ふたりのライフストーリーを見てこられたことを誇りに思うし、大人になってわかったことなんですが、やっぱりちょっと「変」ですよね。(変わっている、という意味)
Both of my parents, and this, I think, has really shown up in my career, had one foot in the creative side and one foot in the more grounded business-oriented side. (10:31)
両親を見てきて、私のキャリアにも大きな影響を与えているなと思うのが、片足はクリエイティブに、片足はビジネスサイドでちゃんと地に足をつけて来たことかなと思います。
And so that idea that you can have both of those sides be a very active part of who you are also feels like something that I have been able to cultivate because I observed it in others.
両サイドを持ち、自分のキャリアに生かしていけるんだという発想を持てるようになったのは、周りでそうしているのを見てこられたからだと思います。
Representationとは、「周りの人がそうしているのを見て、自分もそうできると信じる」ことである。
Aya Kanaiのご両親はアメリカでゼロから実績を積み、キャリアを築き上げた。それを見て育った娘は、自分にもそれができる、と思って育つ。
Kanaiのようにアーティスティックな一家で育っていなくても、今アメリカに住む(または世界中の)「アジア」をバックグラウンドに持つ少女たちは、自分と似た顔や外見の女性がアメリカの有名ファッション誌の編集長をつとめていることを見て「当たり前のように」目指すことができる。
野茂英雄やイチローや大谷翔平がメジャーリーグで活躍し「日本人がメジャーを目指すこと」が現実的になったように。オバマが大統領になり、マイノリティーも「なれるんだ」と気づいたように。
Representationは、私たちに気づきを与えてくれる。
私もアメリカで小さくなっていた子供の頃に、Aya Kanaiのようなキャリアを持つ女性を知っていたら、全く違った人生になっていたかもしれない。
インタビューの最後のAya Kanaiの言葉がかっこよかった。
Show, don't tell.
最終的に自分がこの仕事にふさわしいかどうかは「あれこれ喋るのではなく、見せること」でしか証明できない。
その一言に、彼女が背負っているプレッシャーと自信が見え隠れした。
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Aya Kanaiの就任が報じられたメディア:
本人のインスタグラム: