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彼女とか、できた?の英訳。

今日、町屋良平の小説『ショパンゾンビ・コンテスタント』を読みはじめた。タイトルの意味はまだ見えてこないけれど、音大でピアノを勉強していた主人公「ぼく」が中退を決め、ピアノもやめバイトをしながら小説を書き始めた、というところから話は始まる。

そんな彼と弟との会話に心が「じん」という音を立てた。

以下がその会話だ。

「表現ってなんかおれはよくわからないけど、あにきのような人間はなにもやらないでいるわけはない」
と、いやにきっぱりした口調でいった。
小説をかいていることはいっていない。
「なんでそうおもうの?」
「長年のカン」
「彼女とか、できた?」
とぼくはきいた。弟は、
「できた」
といった。
『ショパンゾンビ・コンテスタント / 町屋良平』より

「彼女とか、できた?」「できた」のやりとりが物語っているもの。そこがくすぐったく、日本語の素敵なところだと思った。

日本語だから、伝わる。

「彼女がいる」「彼氏がいる」より「彼女ができた」「彼氏ができた」のほうが100倍ドラマに満ちている。

子供から、次のステージへ一歩を踏み出す瞬間でもあり、会話を交わしている人によっては「喜び」「照れくささ」「驚き」「感心」などあたたかい感情から「嫉妬」「妬み」「不安」「寂しさ」など「そうではないもの」がめいっぱい詰め込まれる。

今でも、思い出す。アメリカの高校で、私たち仲良し4人組の誰が一番最初に彼氏ができるか、その瞬間はどういうふうに訪れるか、誰も口にしないけれど、誰もがそわそわ生きていた。

誰が一番に「彼氏ができた」階段を駆け上るのか。そして、置いていかれるのは誰か。

それまでは4人で遊ぶことが何より楽しかったので、気が気ではなかった。

ただ。

英語には「彼氏ができた」「彼女ができた」と同じフレーズはない。だから「できた瞬間」(つまり置いていかれる瞬間)というのは、少し曖昧な思い出として残っている。

あの時の会話は確かこうだった。

Oh my god, did you hear?(ねぇねぇ聞いた?)
What?(なに?)
Cara and Kelly are dating!(カラとケリーがつきあってる!)
WHAT?!(なにーーーー?!)

4人組の代表選手がカラ。ケリーは女の子の名前だけれどブロンドのサーファーのケリー・スレーターに顔も名前もそっくりな男の子だった。とっても優しい子だったし、カラの初めての彼氏としては最高だった。

でも英語に「カラに彼氏ができた瞬間」を表す言葉がないので、私たちの元にニュースが届く頃にはもう「つきあっている」段階なのだ。

もし小説の会話を翻訳するとしたら、「彼女とか、できた?」「できた」に私は何時間も頭を悩ませ、最終的にこう訳すかもしれない。

「彼女とか、できた?」Do you have a girlfriend now or something?
「できた」Yeah.

「彼女とか、できた?」がないので「彼女とか、いるの?」になってしまう。でもそう訳しておきながら思うのだ。

表現したい「瞬間」が違うーーーー!

でもしょうがない。英語圏の人は「彼女いない」から「彼女いる」に突然飛ぶのだから。(つきあうまでの過程は日本と同じぐらいゆっっくりだったりもどかしかったりはしますが)

今日もKobeのことでLAの友達からメールが来たので(カラとは今も仲がいい。彼女は結局ケリーくんとは結婚しなかったけど)、このセリフを読んだ時に、学生時代の色々とリンクしたのかもしれない。

ちょっと(いつもだけど)何がしたい文章かわからなくてごめんなさい。

また明日です!

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