2019年、心をつかまれた本。(英語の場合)
今年の読書ライフは、なかなかハードなスタートを切った。
読みたい本は山ほどあるのに、山ほどあるからか、どの本を開いてもしっくり来るものがなく「あれも」「これも」と色々読みはじめては最後までたどり着かない。
先ほどインスタで「今年6冊目読了!」という投稿を見て「うそー」と思った。比べるものではないけれど、一日一冊ペースが羨ましい。そのグルーブというか、フローに似た状態が羨ましい。
とにかく一冊ずつ、読み終えていこう。
先日こちらで、2019年に読んだ日本の小説ベスト5を紹介させてもらった。今日はその続きで、英語で読んだ小説のトップ5について書いてみようかと思う。
もしよければ、お付き合いください。
去年読んで最も心をつかまれた英語の本はこちらの5冊でした。
『A Place For Us』(Fatima Farheen Mirza)
カリフォルニア生まれのファティマ・ファルヒーン・ミルザは29歳のインド系アメリカ人作家。「A Place For Us」(私たちの場所)は彼女のデビュー作である。
多くのデビュー作が音沙汰もなく消えていく中で、彼女の小説が大勢の目に触れた理由のひとつに「セックス・アンド・ザ・シティ」で日本でも有名となった女優サラ・ジェシカ・パーカーの存在がある。2018年、アメリカの大手出版会社の傘下に「SJP For Hogarth」という出版インプリント(ブランド)ができ、読書家としても知られるパーカーが監修をつとめることが発表された。彼女が第1作目に選んだのが、この「A Place For Us」だった。
デビュー当時27歳だったミルザが約10年かけて書き上げた切ない(英語に切ないという単語がないのが残念)家族の話。「ムスリムの家族」であることが重要なのではなく、その家族が「普通の一家」であることが響く。
誰もが思い当たる家族内で生じる誤解、こじれ、取り返しのつかないところまで悪化する様が描かれている作品は、家族ひとりひとりの視点から語られているため、読者にのみその誤解の哀しさが徐々にわかってくる。知れば知るほどに、彼らに修復はないのかもしれないと絶望に近い感覚を覚える。
親子の話でもあり、姉と弟という、私にとっても他人事ではない構図に、読みながら何度も弟たちに会いたくなり「あの時言ったこと、大丈夫?誤解はない?」と確認したくなってしまいました。
切ない…。この単語なしでよくやっていけるな、英語…。
ミルザの今後の作品が楽しみ。
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『Their Eyes Were Watching God』(Zora Neale Hurston)*日本語訳あり
2019年のトップ5に選んだが、出版されたのは1937年。大学生の頃に買って20年以上も本棚に収められたまま読まれることなく、10回以上一緒に引っ越しもしている。それでも捨てることができなかったのは、いつか読まなくてはいけない「名作」と聞いていたから。
『彼らの目は神を見ていた』というタイトルで日本語にも訳されているが、どのように訳されているのだろう、とても興味がある。原書は当時の黒人が使っていた英語でそのまま書かれているため、活字だけではなかなか「音」が聞こえてこなかった。何度か読み始めては挫折していた理由はそこだった。でも「絶対に読む」と決めていた今回は、ひとりで朗読しながら読み進めていった。すると、ジェイニーというひとりの女性が「女性は黙っとけ」と言われていた時代の黒人社会で、祖母に押されるまま結婚をし、男に頼って生きるしかない人生から誰にも依存せず「自分のための人生」を見つけるまでの壮大な物語が生きてきた。
名作を生み出したハーストンは現在は高く評価されているが、生きている間に自分の作品が残すインパクトを知ることはなかった。後に名作と認められ作者の名前も知れ渡ったが、ジェイニーの息苦しさ、スマートさ、したたかさと必死さは、全てハーストン自身の声にも聞こえる。
◇ ◇ ◇
『Conversations With Friends』(Sally Rooney)
2018年と2019年、英語圏で最も注目された若手作家のひとりがアイルランドのサリー・ルーニー。日本では、今年「来る」のではないかと思う。今年、ルーニーの作品がはじめて日本語訳で発表される。
28歳のルーニーの名前を最初に見たのは、インスタの本好きが集まるBookstagramというコミュニティー。本のことを投稿して #bookstagram とつければ誰でも参加できるコミュニティーだが、そこで2年ほど前からやたらSally Rooney, Sally Rooneyという名前が目に飛び込んできた。
期待が大きいとがっかりも大きそうだけれど、ルーニーの言葉の並べ方やストーリーの「持っていき方」は素晴らしくて、ため息ばかりついてしまう。
デビューしてまだ2冊しか出していないのに、両方がベストセラーだ。「Conversations With Friends」(友人たちとの会話)はたった三ヶ月で書き上げたというデビュー作だが、読み始めると一気にラストまで読んでしまった。流れるカンバセーション(会話)、20代の親友同士ふたりとちょっと年上のカップルとの人間関係から展開するプロット、言葉の美しさ、全てにおいて全く巻き込みかたがすごい。
ちなみに日本語に訳されるのは、2作目の「Normal People」とのこと。こちらもとても面白かったが、デビュー作を読んだ時の衝撃が大きかったので、今年ベストにはそちらを選ばせてもらった。「Normal People」は7月にはBBCにて映像化も決まっている。どこまでいく、サリー・ルーニー。
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『How to Write an Autobiographical Novel』(Alexander Chee)
アメリカ人作家、アレクサンダー・チーの新作のタイトルを訳すと『自伝小説の書き方』となるだろうか。
「小説家になりたい」と言い切るほどではない人でも、「書く」ことに興味があれば、やっぱり知りたい。どうやって書けるのか、いや、書き続けられるのか。
子供の頃から抱えてきた「秘密」をそのまま小説にするのではなく。自分に起きたことを小説の主人公を通じて、初めて目をそらさずに見つめること。チーは何年もかけて、韓国人の父親と白人の母親の間に生まれアジア系の人が少ないメイン州で過ごした子供時代のこと、若かった父親の死、自分がゲイだと知った瞬間、友人たちの死との闘い、そして突然思い出した子供時代のトラウマなどを分解し、分析し、感情を言葉にして「自分ではない人」の小説を書いていった。
そのプロセスを丁寧に、時に生々しく、正直に綴ってくれていることにこちらまで「感謝」で溢れるのだから不思議だ。
日本語には残念ながら訳されていないけれど「作家と読者の親密な関係」は世界共通の言語。誰かの秘密を知ることで、なぜ傷が癒えていくのか。
これからも小説を読み続けて、いつかちょっと理解できたら...そう思う。
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『Never Let Me Go』(カズオ・イシグロ)
カズオ・イシグロ の『わたしを離さないで』、ようやく読めました。出版されて14年、開かないまま本棚で眠り(上記のTheir Eyes Were Watching Godの隣で)、表紙が少し色褪せていました。読んで私の何かがぐらっと揺れるのを避けていたのだと思う、そうでなくてもぐらぐらだったので。
実際に、ぐらっと来た。映画もドラマも観たことがなくストーリーを事前に知らなくてよかった。(真実が少しずつ明かされていくので、ここでもネタバレなしで)
勝手な想像だけで、壮大すぎてついていけない話?と思っていたが、実際に読んでみて気づいたことを、イシグロ氏がノーベル賞スピーチで話されていました。その一部分です:
「私がごくささいな、個人的なことに重点をおいて語るのは、私の作品がそうだからです。ひとりの人間が、静かな部屋で文章を書き、別の静かな部屋、あるいは静かではない部屋でそれを読む「誰か」と繋がることができる。物語は人を楽しませ、時には何かを教えたり、議論を提起したりできます。でも私にとって大切なのは、「感情」を伝えることです。感情こそが境界線を超え、同じ人間として共有できるものだからです。
物語とは、ひとりの人間が別の誰かに、「私はこんなふうに感じています。言っていることが伝わるでしょうか?あなたも、そんなふうに感じますか?」
そのスピーチのオリジナルが素晴らしかったので、ここで。
"I emphasize the small and the private, because essentially that's what my work is about. One person, writing in a quiet room, trying to connect with another person, reading in a quiet, or maybe not-so-quiet room. Stories can entertain, sometimes teach, or argue a point. But for me, the essential thing is that they communicate feelings, that they appeal to what we share as human beings, across our borders and divides.
Stories are about one person saying to another, "This is the way it feels to me. Can you understand what I'm saying? Does it also feel that way to you?"
◇ ◇ ◇
今年もやっぱり本を読もう。ハードなスタートなどと言っている場合ではない。
今、読んでいる本はこちら。本に集中できない理由が、他にもあるのかも...。