冬の嵐とノイズキャンセラー
昨日に比べて気温が下がらないのは、
土砂降りという言葉ですら足りないほど
激しく殴りつける冬の嵐のせいなのか。
厚着をして家を出たことを悔いながら、リュックを胸元に抱きかかえ、役に立ちそうにない傘を進行方向に大きく傾け、身を縮めて潜り込み、駅を目指す。
誕生日のプレゼントで貰ったAirPodsをポケットから取り出して耳につける。スマホに接続した途端にノイズキャンセラーが作動する仕組みだ。
大きな壺の中で蓋をされたような、空気がキュッと圧縮される音とともに、道路に叩きつけられる雨音も、社会に溢れる生活の音も全てが一律に薄まり、僕は安堵を得る。
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思い返せば上京してから暫く慣れることができなかったのが東京の都会的な騒音だった。渋滞する車のアイドリング音、電車の始動音、誰も見ていない街頭広告の電子音、新しいビルの建築音、人が何十人も一斉にエスカレーターを登る音、雨がアスファルトを叩く音。音。音。
それらの耳慣れない音たちは孤独を感じさせ、
僕は音楽を聞きながらでないと外に出れない人間になった。
〜〜~~~
ようやく駅に辿り着く。
普段は5分で着くところが、嵐のせいで10分以上を費やした。ズボンの膝から下はグッショリと雨を吸い込んでいた。
駅の階段を登ろうとした矢先に、僕の目に飛び込んできたのは晴れ間とともにアーチを描く虹だった。
傘を畳み真上を見上げると、灰色の空が白く薄まり、やがて水色に変わり、さらには青の濃度をものすごい速さで取り戻している。
僕は来た道を虹を眺めながら家まで引き返し、
着替えをして再び駅へと向かう。
世界と隔絶された僕の耳には、Fly Away From Hereが流れた。
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