法律家ってどんな専門家?②テニスのルールを題材に
前回↓の続きです。
https://note.com/lawyeryamamoto/n/nb12fe3765daa
前回は、テニスのルールを題材に、法律を事実に適用するというのはどういうことかを考えてみました。
今回も、同じようにテニスの事例を思い浮かべます。
私が、またかみおひろみち@Kamy1126先生とテニスのシングルスのゲームをしていました。しかし、かみお先生はなかなか本調子が出ない様子。どうやら、私がショットを打つたびに大きなうなり声を出すのが気になって、普段通りのストロークのタイミングが取れないようでした。試合の途中、かみお先生は「山本のうなり声が大きすぎて集中できない。これは故意の妨害ではないか」と主張しました。
この主張は認められるでしょうか?(事例はすべてフィクションです)
さて、この問題は前回よりも難問です。
法律(ルール・オブ・テニス日本語訳)を見てみると、次のような規定があります。
「規則26 妨害
インプレー中、相手が故意にそのプレーを妨げた場合は、相手の失点になる。しかし、相手が故意ではなく無意識にプレーを妨げた場合、またはプレーヤー・チームに責任のない何かの物体がプレーを妨げた場合は、ポイントのやり直しとなる(パーマネント・フィクスチュアは含まない)。」
前回は、法の定めが「ボールがラインに触れていたらイン」という明確な基準だったので疑義が生じませんでした。しかし、今回は、山本のうなり声が「妨害」に当たるか、直ちにははっきりしません。
おそらく、私はかみお先生の主張に対して「いや、ボールを打つときに自然に出ているだけで、妨害じゃない」と主張するでしょう。
そうすると、この「妨害」該当性については、法を見るだけでは解決せず、法の解釈に委ねられることになります。
この「法の解釈」は、特に法律家の専門性が現れるところです。
この試合をしているのは両方が法律家なので、ネットを挟んで激論になったとしましょう。
かみお先生はおそらく「この規定は、プレーヤーが、インプレー中静かに集中できる環境でプレーできることを保障しようとするものだから、その妨げになる事情は広く含むものと解釈すべきである。無意識の場合や責任がない場合も広く含む規定となっており、その趣旨が規定自体に現れている。したがって、対戦相手のうなり声も、それがプレーの妨げになる場合には広く「妨害」にあたる。山本のうなり声は「妨害」にあたる」と主張するでしょう。
私はといえば「この規定は、プレー中に生じた特殊な出来事について例外的にプレーが止まる場合を定めるものだから、この規定を広く解釈して適用すべきでない。そう解釈しなければ、自然なプレーをかえって妨げることになってしまい、妥当ではない。対戦相手のうなり声は自然なプレーの延長であり、よほどのことがない限りは「妨害」にあたると解すべきではない。私のうなり声は「妨害」にはあたらない」と主張したいところです。
このように私たちは、その規程の趣旨や目的などにさかのぼり、法律の解釈論を展開するわけです。実際の「法律」現場では、今回の事例とは比べ物にならないほど複雑です。それこそ法律の制定過程を調べたり、他の法律と比較したり、判例を検討したり、憲法に遡ったり、様々な解釈の手法を駆使して解釈論を展開します。
裁判官も、両者の主張を見たうえで、同様の調査をしたり自ら法の趣旨を考えたりして、結論を導きます。
上の例で言うと
「うーん、両方の言い分とも一理あるなぁ。あまりに広くしすぎると声を出すことをためらって自然なプレーができない選手も出てきそうだし。でもプレーの妨げになる場合も実際にあるし、そういう場合に声を出している方が不当に有利になるのも妥当じゃない。そうすると、まあ、一応妨害に当たり得る事情は広く認めたうえで、うなり声については、通常のプレーにも伴う事情であることから、通常想定される程度のうなり声かどうか、裏を返せば、相手が受忍すべき限度を超えているかで判断することにしようか」
という感じです。
ちょっとずつ法律家の仕事らしくなってきました。
次回は、この事例に代理人がついて、法廷ではどんな活動をしているのかを話します。次回完結!
※なお、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、このうなり声論争は数年前に実際ありましたね・・・。
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