テニスにおけるオリンピック代表選手決定の方法③紛争事例の紹介
前回の投稿で、オリンピックにおけるテニス競技の国別代表選手の決まり方について解説しました。
今回は、実際に紛争になった2つの事例を紹介します。
一つは、2008年の北京大会のものです。スポーツ仲裁裁判所(CAS。スイスのローザンヌにあるスポーツ紛争の解決組織です)のアドホックディヴィジョン(オリンピックの時だけ設置される特別部)の事例です。
この事例は、シングルスのドイツ代表が誰になるべきかが争われた事件でした。代表選手としてドイツから選出された選手の一人が、ライナー・シュトラー選手でした。前回までの投稿の記事に記載したとおり、テニスにおけるオリンピック代表は、国のNOCが決めるのではなく個人に割り当てられ、ほぼ基準時のランキングに従って決まります。NOCは、基本的にこの基準時のランキングに従ってエントリーをしなければなりません。
しかし、この北京大会当時、どの選手をNOCが推薦するかについては、「ランキングの高い方から選ぶべきである(shoud select)」とされていました。
この北京大会時、基準時においてかなりランキングが低迷していたシュトラーですが、基準事後のウィンブルドンでベスト4になり好調だったことから(ランキングも急上昇していた)、ドイツNOCが代表選手に推薦したのです。
これがITFによって認められず紛争になったのですが、CAS(スポーツ仲裁裁判所)は、「should」という文言を重視して、ドイツNOCの判断は認められるとしました。その結果、シュトラーはドイツ代表としてオリンピックに出場しています。
その後、ITFは、その文言を「must select」に変更しました。
もうひとつは、2020年東京大会の事例です。これも、CASのアドホックディヴィジョンの事例です。
この事例は、ジョージアの女子ダブルスペアの出場資格が問題になった事例でした。ジョージアの女子ダブルスペアのカラシニコワとゴルゴゼ両選手は、オリンピック直前に上位選手がウィズドローしたことによって出場できるランキングでした。しかし、彼女らが改訂されたエントリーリストを見ると、自分たちの名前が載っていませんでした。
ITFは、彼女らについてエントリーの手続が行われていないといいました。彼女らがジョージアのテニス連盟やジョージアのNOCに問い合わせると、エントリー手続は済ませたという回答でした。けっきょく、裁判の手続の中でどこにミスがあったのかは明らかになりませんでしたが、ITFにエントリーが届いていないことは明らかだったようで、代理人(日本の弁護士です!)の懸命な主張にもかかわらず、ジョージアのダブルスペアの出場は叶いませんでした。
2つの事例を紹介しましたが、このように代表として誰が出るかについての紛争は、オリンピックではとても典型的なものです。
スポーツ仲裁裁判所の特別部の役割は大きく、当地の弁護士を中心にした代理人も活躍しています。北京の冬季五輪も近いですが、こうした視点も知った上で見てみると面白いかも知れません。
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