譲渡制限特約違反の債権譲渡による契約解除(2)
本論点につき、2018年3月に刊行された筒井=村松『一問一答 民法(債権関係)改正』の該当頁(164頁以下)を読んだが、残念ながら、合理的な説明は提示されなかった。現状、「譲渡制限特約の趣旨に反するものではない」「権利濫用等に当たり得る」との法務省の独自説は、私の知る限り、弁護士の支持を全く得られていない。
法務省は、「債務者が譲渡制限特約を付する場合の一般的な目的、すなわち、弁済の相手方を固定する目的」といった、個々の事案を離れた一般的・抽象的な整理にのみ依拠して、およそあらゆる事案においても、特約違反の譲渡は「譲渡制限特約の趣旨に反するものではない」、特約違反を理由とした契約解除は「権利濫用等に当たり得る」、との結論に至るかのように説明するが(前掲『一問一答 民法(債権関係)改正』164頁)、賛同できない。
また、「この趣旨に沿った実務慣行が形成されていくことが強く期待されている」や「今後、このような内容を含む譲渡制限特約が普及することが期待される」とのコメント(前掲『一問一答 民法(債権関係)改正』165頁)にも、強く違和感を覚える。もちろん、ABLの活性化は強く期待したいところだが、上記の「期待」(今風に「忖度」と言い換えてもいいかもしれない)は、今回の改正の狙いがABLの活性化にあることを踏まえても、法解釈から離れすぎている。
最後に、本論点に係る違和感を一言で示すとすれば、「私的自治に対する不当な干渉」である。
◆ 補 足 ◆
前回の繰り返しになるが、債権譲渡による資金調達を望む中小企業(譲渡人) vs. 大企業(債務者)との構図においては、最終的には個々の事案(当該事案における特約の趣旨等)次第ではあるものの、法務省のような説明も成り立ち得るものと考えている。
また、これも繰り返しになるが、私がどうしても違和感を拭えないのは、法務省が、上記のような場面の限定や個別・具体的な事情への配慮もなしに、「一般的にはこうだから、どんな事案でも、特約違反の譲渡は債務不履行にならないし、契約解除は権利濫用になる。」といった、アバウトな論理に終始しているからである。
仮に、法務省が「いや、そうではない。法務省の見解は、上記の場面(ABLの場面)を当然の前提にしているし、『基本的に』や『特段の事情のない限り』として、個々の事情にも配慮している。」と反論/補足してきたとしても、現状の法務省の説明は極めてミスリーディングであるから、これまで私が述べてきた批判は免れ得ないように思う。
◆ 補足(2)◆ Mar 30, 2018
法務省の独自説に対する違和感の1つに、同省が、譲渡制限特約の目的(趣旨)につき、「債務者が譲渡制限特約を付する場合の一般的な目的、すなわち、弁済の相手方を固定する目的」との説明に終始し、それ以外の目的について何ら検討していない点がある。
では、それ以外の目的とは何か。たとえば、道垣内弘人『信託法』35頁では、「『当該契約の利益を第三者が取得することを妨げることを企図する』という目的」が紹介されている。
仮に、譲渡制限特約の目的が上記のようなものであった場合には、法務省の独自説はその前提を欠くことになる。
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