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中国1万店舗を目指して猛勉強。ゼロからのチャレンジと感謝をやりがいに変えて

「日本のコンビニはなんて便利なんだ」──。
 
 留学生として日本に来た際にコンビニを利用したことがきっかけで、ローソン入社を決意したという李さん。念願かなって入社すると、店舗での勤務を経て経営戦略本部へ。さらにはローソンが中国で事業拡大し、1万店舗を目指すというビジョンに共鳴して「力になりたい」と猛勉強。昨年ついに中国の名門大学・上海交通大学でMBA(経営学修士)を修了し、今も新しい分野の仕事に挑戦しています。飽くなきチャレンジ精神の源について、詳しく話を伺いました。


株式会社ローソン 中国カンパニー・羅森投資有限公司 マネジャー/李凌(り・りょう)
 1985年、中国安徽省生まれ。大学時代から日本語を学び始め、上海の日本語学校を経て来日。九州大学大学院を卒業後の2011年にローソン入社。首都圏の3店舗にて店社員、店長として勤務した後、経営戦略本部・経営管理部に配属。2018年からは中国のローソンで、運営サポート・経営分析・コーポレートガバナンス等を担当。2020年より、特別チームを編成して中国全体のデジタル・トランスフォーメーションを推進する。漫画『キャプテン翼』の影響を受け、サッカーはインテル(インテルナツィオナーレ・ミラノ)のファン。

日本の漫画とアニメが息抜きだった少年時代

──日本に興味を持ったきっかけを教えてください。
 
 私の出身は、中国の安徽省という所で、家の前には長江が流れていました。自然豊かな土地で、中国八代料理(四川料理、広東料理、福建料理、山東料理、湖南料理、江蘇料理、浙江料理、安徽料理)の一つでも知られています。
 
 農業も盛んでのんびりした町なんですが、中国は受験戦争がかなり激しいんですね。中でも、安徽省は人口も多い(2022年現在 6,127万人)。だから、私も高校生の時には平日だけでなく、土曜と日曜の午前中にも関係なく学校に通っていました。
 
 その中で、唯一の息抜きが漫画やアニメだったんです。勉強の合間に、日本の文化を知って、自然と日本に興味を持つようになりました。
 
──来日して日本のコンビニに感銘したと伺いました。ローソンに入りたいと考えた理由は?

 ローソンは、アニメや漫画など、私が好きなエンタメ系にも幅広く携わっている会社なので元々興味がありました。それに私自身、海外の文化に触れることが好きなので、ローソンが国内だけでなく海外事業を手掛けているところも魅力に感じました。

──入社後のキャリアアップは、経営部門で活躍されていますが?
 
 はい、希望は出していなかったのですが、経営戦略本部に異動になりました。その時「経営戦略本部って何をやるところですか?」って率直に聞いたぐらい、本当に何もわからないところからのスタートでした。
 
 異動の理由は今もわからないままなのですが(笑)、そこで6年間しっかり鍛えられて、経営のノウハウを学んだおかげで今の自分があると心から感謝しています。

未知の仕事にワクワク。新しいことがとにかく好き

──期せずして経営部門に異動になったことについて、葛藤はなかったのですか?
 
 全然なかったです。というのも、私は新しいことが大好きなので、その時も「新しい世界が開かれる」としか思わなかったぐらいです。
 
 結果として、経営は何かということ、予算の作り方、分析の手法など、あらゆることを学ぶことができました。それだけでなく、経営戦略本部はいろいろな部署とのやり取りも不可欠です。仕事が多岐に渡るので、実感としては「かなり面白い経験ができた」ということでした。
 
──入社後に中国での事業拡大を知り、中国への異動を希望されたと伺いました。
 
 はい。私が入社した当時、中国のローソン店舗数は数百店だったのですが、そこから1万店舗を目指すと知って、私も力になりたいと考えるようになりました。
 
 ただ、当時の私は仕事をしていても、わからないことが山ほどあったので、すぐに中国に行っても役に立たない。ですから、上司とも相談して、しっかり勉強してから行くことになりました。

──今では中国で、6000店舗を超えています。展開するスピードが早いですね。
 
 2017年時点では、中国全体で1000店舗だったので、ものすごいスピードです。ただ、展開スピードが早くなると、人材育成や業務効率など、どうしても追いつかない面が出てきます。
 
 そこでデジタルのツールを導入することで、そういった面の効率を高めて、標準化を図ることができます。私たちが今、中国全土でデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)という仕事に着手したきっかけです。
 
──今の李さんの仕事ですね。わかりやすく説明していただいてもいいですか?
 
 簡単に言うと、私たちがメインでやっているDXとは、デジタルの手法を用いて会社の業務改革をしていくということですね。
 
 実はこれも私にとって、「DXとは?」というゼロからのスタートだったんです。不安もありましたが、経営を学んだ時と同じで、新しいチャレンジだと思ってワクワクしました。
 
「課題があるから改善の余地がある」

──新しいチャレンジが好きなのですね。とはいえ、その過程には苦労があるでしょうし、課題を克服することの連続で大変だったのでは?
 
 綺麗事に聞こえるかもしれないですけど、私はそういうことは“課題”と思っていません。というのも、課題があるから改善の余地があると考えていますから。新しいことができる喜びが大きいので、ストレスも感じたことはあんまりないんですね。
 
 課題があるとすると、会社の急成長に伴って、中国ローソンで一緒に新しいことに取り組む皆さん全員に、もっとDXの概念や考え方を理解してもらうことです。まだわからない人にもしっかり伝えて、浸透させていかなければなりません。
 
── DX業務の一環で、社内アプリの開発や導入を推進されています。DXを理解してもらうために行っていることは?
 
 やはり最初は、皆さん戸惑いがあります。例えば、SV(スーパーバイザー)が店舗を巡回する際に使用するDXツールを導入した時も、最初のバージョンは、不評でした。でも、どうすれば使いやすくなるのか、皆さんの意見をしっかり聞いて、バージョンアップを図ってきたので、段々と私たちの取り組みに理解を示してくれるようになりました。今では、信頼関係も築けているのかなと感じています。
 
 大変なことはたくさんありますが、後には皆さんが「導入して良かった」「業務に役立っている」と言ってくださる。そういった声を聞けることが、私の一番のモチベーションにもなっています。

「三人行えば必ず我が師あり」

──「課題があるから改善の余地がある」にも繋がりますね。他にも、チャレンジに取り組む上で心がけていることやモットーはありますか?
 
「三人行、必有我師焉」という孔子の言葉です。日本語では「三人行えば必ず我が師あり」と言うようですね。3人いれば、その中に自分の先生になるべき人が必ずいるという意味です。これを仕事でも活用していて、つまり自分がわからなくても、チームを組んで仲間を見習いながら進めて行けばいいということです。

 万能な人などいません。自分がすべてを知らなくても、他の人の知恵や知識を学びながら、一緒にやっていけば何でもできるのかなと思っているんです。
 
──とはいえ、周りに頼るだけでなく、自身では中国の名門大学でMBAも取得されました。必要性を感じた理由は?
 
 1つは、私はずっとローソンで働いてきたので、外の世界について知らないことが多かった。いろんな人たちと接している中で、視野の狭さを痛感したからです。
 
 2つめは、今の部署を回していくには、マネジメントが必要です。どういったマネジメントが妥当なのか、知識を備えたかったんです。

 3つめは、やはり将来的には経営に携わりたいと考えるようになったからです。
 
 ともあれ3年間かけてMBAを取得したので、上司はじめ周りの方々が応援して、サポートしてくれたおかげです。

飲みニケーションを大事に

──仕事に一生懸命でコミュニケーションを大切にしている李さんのお人柄だからこそですね。中国では宴会を開いて、本音を言い合う文化もあるそうですが?
 
 そうですね。お酒を飲んで、一緒になって気持ちをぶつけ合うっていう習慣があります。なので、そういった場に行ったら、覚悟して飲まなければいけません(笑)。
 
 “覚悟”と言いましたけれど、皆さんと心をぶつけ合うのはすごく好きなので、飲みニケーションは大事にしていますね。ただ、中国に戻ってから痛風を4、5回発症しました(笑)。
 
──えええ!! 痛風でもお酒を飲まれるんですか?
 
 痛風なのでって言うと、皆さん「ビールは駄目でしょうけど、バイジウ(白酒)はOKですよ」って冗談で勧めてくるんです(笑)。もちろん医師からは、アルコールは全部駄目って言われましたので、しっかり治療をして、ここ2年近くは発症していません(笑)。
 
※白酒=中国の無色透明な蒸留酒。アルコール度数が高く、独特の香りがある。中国では紹興酒より一般的で、宴席などで振る舞われることも多い。
 
──コミュニケーションは大切ですけれども、本当にお身体には気をつけて頑張ってください。
 
 はい、ありがとうございます。頑張ります。

取材・文/松山ようこ