意を決して日本で独立したスリランカ人オーナーの覚悟
全国にあるローソンのオーナーさん・クルーさんに、マチの魅力とご自身との関わりをインタビューする企画「#マチのほっとステーションをつくるひと」。
第6回目は、静岡県、掛川市で店舗を営むオーナー、スランジットさんにインタビュー。スリランカ出身のスランジットさんが日本で独立開業し、ローソンオーナーになった経緯、そして現在の覚悟と描く未来を伺いました。
父の家業を手伝うために日本へ、そこで出会ったローソンという道
本日は、よろしくお願いします。お名刺に「スランジット」と記載がありますが、これは日本でいう苗字と名前のどちらになるのでしょうか?
正式な名前は、カブルガムワ・アラッチゲ・スランジット・サラッド・クマーラです。でも、すごく長いので、日本では名前に当たる「スランジット」だけを使っています。
では、スランジットさんとお呼びさせてください。スランジットさんは、どうして日本にいらっしゃったのですか?
最初は、自動車整備の勉強をする為に日本に来ました。日本に来る前に、スリランカの父が経営している自動車の整備工場を兄と一緒に手伝っていて。洗車からエンジンの解体修理まで、色々やっていました。しばらくしたら、父から日本に行ってくれないかと言われて。当時のスリランカは、日本製のオートマチック車が出回っていたのですが、その修理をできる技術を持っている人がほとんどいなかったんです。なので、日本に行ってオートマチック車の修理を学んで来て欲しいということで。
では、もともとはスリランカに帰られる予定だったんですね。いつ頃、日本に来られたのですか?
2001年12月に日本に来ました。まさに冬の時期で、到着した時はもうすごく寒くて。宿舎から学校まで自転車通学していましたが、その寒さが大変でした。その時は、お母さんに電話で連絡して、嫌だ、早く帰りたいって言っていたのを覚えています(笑)。
そういった経緯から、どうやってローソンの開業に至ったのですか?
まずは、日本に来て、静岡にある日本語学校に入学しました。スリランカの日本語学校から紹介してもらったのですが、静岡が日本のどこかにあるかも知らないし、どこに行くかわからないまま日本に来ました。その後、アルバイトを探して、何店か違うコンビニで働いたのですが、最終的にローソンでしっかりとシフトに入ることになりました。
ローソンを選んだ決め手はありましたか?
静岡市清水区で今でも経営されているオーナーさんなのですが、そこのローソンのオーナーの人がすごく親切で、正直、人柄で決めたという感じです。別のチェーンも掛け持ちしていたのですが、どっちかとなった時に、こっちがいいなぁと思って。
当時は、学校に通いながらのアルバイト勤務ですよね?
そうですね。日本語学校に通って、その後に、静岡市にある短期大学に1年間行きました。科目履修生って言うんですけど、大学に行く前の準備みたいな感じですね。その後に、藤枝市にある大学に4年間通いました。国際情報学部で、経営面も学んで。4年制ですけど、科目を多めに選んで朝から夕方まで学校にいて、2年でほとんど単位を取って、残りの2年は必須科目だけ受講しながらアルバイトに専念していました。
国際情報学部、となると車の整備には関係なさそうですが…。
あ、そうなんです。日本語学校を卒業する時に、自分の進路を決めなきゃいけないんですけど、そこで車の専門学校のこといろいろ調べると結構費用が高くて。大学より専門学校の方が高い。それで難しいなと自分で思って、両親に相談しました。すると「いいよ、いいよ。好きなこと選んで」と。留学で日本にやってきて、最初に自分が求めてきたものと別な道を選んでいる人も多いと思います。
もちろん車の整備のことも学びたかったんですけどね。スリランカで工場を持つとかも考えました。その気持ちに偽りがあるわけではないのですが、その時の気持ちも、だんだん変わってきたんです。
そして、そのまま独立したということですか?
いえいえ、最初はフランチャイズ店の社員からです。卒業する一年くらい前から、ローソンで働きたいと当時の働いていたお店のオーナーさんに相談して。そのオーナーさんが複数店を経営されていて、私も大学でマネジメントを勉強していたので、卒業後にすぐにビザを申請して、大学を卒業した後に社員になりました。そのお店でどうしても働きたくて、他の会社の説明会などは、一切受けていないです(笑)。
不安な気持ちを持ちながらも、奥さんの強い後押しで独立開業
その後、独立するまでのお話を伺えますか?
その後、5〜6年くらい、そのオーナーのお店で店長をしていました。その時から、良くしていただいたSVさんに、自分でもお店をやりたいとずっと伝えていたんですよね。静岡市清水区から出たことがなかったので、清水の近くで独立したい気持ちがあったのですが、近くには開業できそうなお店がなくて。
そうしたら、「清水ではないのですが、隣の掛川市にある店舗はいかがですか?」って。もしよかったら一度、見てきてください、と。そこで、この掛川平野店を見に来たのが始まりです。土曜日か、日曜日か、とにかく休日に初めて来たのですが、不安しかなかったですね(笑)。
最初から、不安(笑)。それは何か理由があってですか?
店の前を通るバイパスはできていたのですが、見に来たのが土日だったので全く車が通っていなかったんです。建物だけがポツンとある状態で、一気に不安になってしまいました。
でも、結果的にはそこで開業したと。
奥さんとどうしようかと相談して、「よし、やってみましょう」と。もちろん不安はあったのですが、奥さんの後押しが大きかったですね。本当にここまで来るには、奥さんから大きなパワーをもらっていて、なので奥さんの力が大きいのは間違いないです。
素敵なエピソードですね。奥さんは日本の方ですか?スリランカの方?
スリランカの人です、お見合い結婚ですね。スリランカはお見合い結婚が多いんですよね。母が探してきて、そのタイミングでスリランカに帰って、お見合いして、結婚しようとなりました。もう11年前ですね、二人三脚で歩んでいます。
やはり自分のお店を持ちたいと思ったのは、ご家庭の影響ですか?お父さまが家業をされているということでしたので。
それもありますが、経済的な面が大きいですね。スリランカから日本に来て、子供も生まれて、もっと経済的に成長していくためには、何店舗か経営したいなと。その為には、まずは独立開業するしかないので。奥さんが永住権を獲得する頃には、3番目の子供も生まれて、ここが頑張りどころだなと。
定物定位置、いつ来ても安心できるお店にしたい
実際にお店を始めてみてどうでしたか?
最初に来た時は土日で車の通りも少なかったのですが、始めてみると平日は車通りも多くて多くのお客さまに来ていただけました。
清水とのお店の違いに戸惑ったりすることはなかったですか?なんとなくですが、ロードサイドって常連さんとかも少ないイメージがあって。
そんなことないですよ。もちろん、清水のお店は、住宅街で平日・土日を問わずお近くにお住まいの方が来るって流れだったのですが、バイパスにはバイパス特有の常連さんというのがいらっしゃって。毎日、車でお仕事に通われる方が多いので、朝夕一気にラッシュで来るのは見知った顔のお客さまがほとんどです。お仕事前と、夕方にワーッっとご来店いただく感じですね。
スランジットさんが、このお店で徹底していることはありますか?
常連さんのほとんどが、時間のない中でお買い物をしていくので、商品を探しやすいようにしています。おにぎりとか、パンとか、お茶とか、コーヒーとか、基本的な商品の陳列位置は変えたくなくて。
一度、商品の陳列位置を変えたら、「あれ?ないなぁ」といった声が、お店のどこからか聞こえてきたんです。商品の位置を変えると、お客さまは毎回探さなきゃいけなくて、それでは困ると思うのです。なので、毎日、同じところに同じものがあるように、分かりやすくしたいです。
その他には、トイレの清掃には気を使っていますね。
ロードサイドだと、お手洗いを利用する方、多いですからね。
そうですね。まずは、トイレを利用して、それからお買い物をする。お店の第一印象というのはトイレで決まることが多いので、とにかく壁とか床を徹底的にキレイにします。床は、結構汚れで黒くなるじゃないですか。普通にブラシで磨いても取れない時は、スポンジで丁寧に擦って、定期的に壁も全部洗ったりしています。
あと、土日は土日でまた違った客層のお客様がいらっしゃるんですよね。お店の向かいにイベント会場があって、そこで色んなイベントをやっていて。フリーマーケットとか、車のイベントとか、コンサートとか。そういうイベントのある土日は、女性やお子さま連れのお客さまを中心に、お店の外までトイレの行列ができることもあって。なので、備品を切らさない、キレイなトイレで気持ちよく過ごしていただけるようにということも心がけています。
今後、チャレンジしたいことがあれば教えてください。
複数店舗を経営したいと思っています。ゆくゆくは5店舗くらい経営できたらいいなと。その為には、安心して任せられる人を育てるのが大事ですね。今はリーダークルーが一人しかいないので、まずはリーダークルーさんを育てるのが一番。明日から、その研修にも行ってくる予定です。
この周辺は駅からもアクセスが難しいですし、人材獲得もなかなか難しそうですが。
オープン当初は非常に苦労しました。求人広告を出しても、全然応募がなくて…どうしたらいいのだろうと。とにかく奥さんと一生懸命に頑張りました。でも、近くに日本語学校ができて、そこに通うスリランカ人の子たちが、応募してくれるようになってからは、多くの人が働いてくれるようになりました。
それは地元での斡旋?みたいなものがあったのでしょうか?
最初の頃は覚えていないのですが、2人くらいかな、応募してくれました。どうやってこのお店のことを知ったのかは分からないのですが。その後は、卒業する時に後輩を紹介していく流れができて、掛川や袋井の方にも日本語学校がどんどん増えたものですから、今はウェイティングリストみたいなものができて、順番に紹介してもらうという流れです。
そうやってクルーさんが増えてくれているので、自分の時間も増えて、研修とかトレーニングとか、未来への準備に向けて、頑張る時間が生まれたので、ここからまた頑張っていきたいなと。
ちなみに、複数店舗を出店するのであれば、やはりこの地域ですか?
そうですね、なるべく近い場所で探しています。日本に来た時から静岡にずっと住んでいて、近くに一軒家も建てましたし。もちろん別の場所に挑戦したらそれはそれで良いこともあるかもしれませんが、静岡のこの辺りが好きですし、何も知らずに来ましたけど、ここに来れて本当によかったなと思っているので。
嬉しいですね。スランジットさん、本日はありがとうございました。