ハンディキャップがあっても、自分らしく接客したい
全国にあるローソンのオーナーさん・クルーさんに、マチの魅力とご自身との関わりをインタビューする企画「#マチのほっとステーションをつくるひと」。
第7回目は、大阪府から全国のローソンで「アバター接客」をする、枡谷剛さんにインタビュー。障害というハンディキャップを持ちながらも「アバター」という存在を通して、自分らしい接客を模索する枡谷さんにお話を伺いました。
接客はほぼ未経験、SNSから飛び込み応募
本日は、よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
最初に、今、枡谷さんがされている、「アバター接客」という仕組みについて教えてください。
大阪のセンターや自宅から、パソコンを通じてローソンで接客をする仕組みです。画面越しのアバターとして、セルフレジのサポートなどをして、接客を行っています。
アバターのモニターが設置されているローソンは全国各地にあるのですか?
今は東京と大阪、福岡に4店舗、アバター用のモニターが設置してあります。なので、さっきまでは大阪の店舗で接客をしていても、他のアバターオペレーターさんが休憩に入ると、入れ替わりで東京に入るといったこともよくあります(笑)。
今後、アバターを設置しているお店がどんどん増えたら、色んな場所に行けるということですね。
そうですね。行くことになると思います。実際はパソコンの前にいるので、行っている訳ではないのですが(笑)。
そもそも、なぜアバターの接客という、珍しい仕事に応募されたのか、教えてください。
自宅でTwitterを見ていたら、タイムラインにローソンのアバターオペレーター募集の投稿があって、そこから応募しました。1回だけの投稿だったそうなのですが、偶然それを見て公式サイトから応募しました。
それまでは、どのようなお仕事をされていたのですか?
高校卒業してから1年程、大阪空港の中の貨物運送の仕事をしていました。その後は、地元の道路工事の交通誘導のアルバイトなどを半年ほどしたんですけど、それから1年程お休みして。その後、21歳の頃から、心にハンディキャップを負った方の福祉施設の非常勤職員を6年ぐらいやっていたのですが、そこでちょっと頑張りすぎて燃え尽きてしまって。
私は、発達障害っていうメンタルの、というより脳の特性を持っていて1日8時間とか、週5日とかでコンスタント働くと、肉体的にも精神的にも疲弊して動けなくなっちゃうんです。それからしばらく日雇いみたいな形のスポットのお仕事は何回かしたのですが、それだったら、短時間とかスポットでやれる形で、自分のポテンシャルを出せる働き方があったらいいなと思って。それでアバターオペレーターに応募しました。
ということは、応募は条件面だけで選ばれたのですか?
もともとパソコンとかスマホとか機械関係が好きだったので、しばらく家で過ごしていた時期も、自然とSNSを見たりとかして過ごしていて。だから、募集を見た時に「パソコンなら自分もそれなりに使えるからできるかも」と思って応募しました。接客はほぼ未経験に近かったんですが、心とか体にハンディキャップとかあっても、アバターオペレーターという仕事で、自分でも何かしら世の中の役に立てたり、自分のスキルを出し切って働ける環境があるんじゃないかと思って、勇気を出して応募しました。
接客はほぼ未経験な中で、接客業自体への壁みたいなものはありましたか?
福祉関係のお仕事をしてる時にそういう、手作りのお菓子とかを売ったりするイベントはあったので「いらっしゃいませ」とか「お菓子いかがですか」っていう声掛けはやったことあるんですが、同じ場所で長時間、勤務時間中ずっと接客という経験がなかったので、最初は緊張しました。でもYouTubeなどで、VTuberの方とかがキャラクターを動かしたりしている動画もよく見ているので「自分もこれを実際に仕事でやるんだ」みたいな、わくわく感も大きかったです。
やっていく中で大変なことなど、ありましたか?
最初にオペレーターとしてやった時に、「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」「また起こしくださいませ」みたいな声出すときの声のトーンとか、経験が少ないので、なかなか明るい声で言えなかったっていうのが大変でした。緊張すると早口にもなってしまいますし、滑舌が悪くなりがちなので、そこは日々気を付けるようにしています。これは、本当に慣れの問題だと思うので、日々勉強、日々練習ですね。
人が動かすアバターだからこそできる接客
アバターでの接客の中で、何か面白かったエピソードがあれば伺いたいのですが。
大阪の店舗で接客していた時なのですが、アバターを見て「AIだ」て仰られたお客さまがいらっしゃって。そこで「AIじゃありませんよ」なんて自己紹介をして、動いてみたりお客さまに手を振ってみたりして、驚かれたことはあります。
AI技術が注目を集めている今だからこその驚きかもしれませんね。実際、AIでの接客ではできない、アバターらしさってどういうものがあるのでしょうか?
最初の感想として、上半身だけですけど、予想以上に追従して動くなっていうのは自分でもびっくりしました。なので、AIにはできないアバターならでは、人ならではの動きを使った接客というのは、特長だと思います。やっぱりAIではできない臨機応変な接客が一番だと思います。AIだとデータを基に接客パターンを決める、お客さまごとの急なお困りごとなどにどうしても対応できなかったりするんです。でも、裏側でアバターオペレーターという人間が声を出して操作することによって、そういった状況にも臨機応変に対応することができますよね。そういったAIではできない接客は、アバターオペレーターという仕事で誇りに思っているところです。
ちなみに、アバターの画面からはどこまで見えているのですか?
画面の目の前にお客さまがいらっしゃった時だけしか見えないと思われがちですが、意外と遠くまで見えています。結構広く映るウェブカメラなので、お客さまが近寄って来るのも普通に見えています(笑)。
なるほど、そういった意味では普通の接客と変わらないですね。
そうですね。アバターの一番の強みは、それぞれの人の強みを活かせることにあると思っていて。人によっては商品アピールとか説明がものすごくうまいオペレーターの方もいるでしょうし、セルフレジ担当でものすごく丁寧に説明できる方もいるでしょう。お客さまとかお子さまとかにアピールするのがうまい方もいらっしゃるでしょうし、そういった色んな強みを持った人が、姿を変えずに一連で接客できるといいかもしれません。短時間であっても、その人その人の能力が発揮できる環境がつくれるのも素晴らしいと思っています。いろんな人のスペシャリスト的な要素が合体して一つのキャラクターとして形成されて接客できるというか。
個々のオペレーターさん同士の繋がり、というのはあるのでしょうか?
それぞれのオペレーターで気がついたことを、チャットなどでフィードバックするようになっています。今はセキュリティもしっかりとしてきたので、自宅から在宅で出勤することもあるのですが、そういった仲間たちとのチャットがあって、気がついたことはどんどんそこに書き込んでいきます。そのフィードバックを元に、全体の接客が良くなったら嬉しいなと思って。
いつも笑顔のアバターで、自分の気持ちも前向きに
アバターは画面上で動いているので、正直、なかなか話しかけづらいということもあると思うのですが。お客さまの反応はどうですか?
大阪と東京、福岡に4店舗あるというお話をしましたが、大阪の方が話しかけられやすいと思います。
それはやっぱり地元だからですか?
どちらかというとお店の状況によるんだと思います。特に大阪のローソンは、品出しとかをするスタッフさんはいるのですが、基本的に接客は無人でアバターのみなので、話かけられることが多いのかなと。
東京の店舗では、遠巻きに物珍しそうに見ているお客さまが多いのですが、大阪に出してからはいっぱい話し掛けてくるから、他のアバターオペレーターさんにとってもやりがいになっていると聞いています。アニメのアバターの絵なので、結構声をかけづらかったりするとは思うのですが、気軽に声をかけていただけると嬉しいですね。画面越しではあるけれども、お客さまに喜んでいただけるというのは、自分たちにとってもやりがいがになりますし、やっぱりお客さまに喜んでもらえる仕事がしたいと思って応募したので、これからもできる範囲で頑張っていきたいと思っています。
その喜んでいる様子、というのがなかなか伝わらないと思うので、こういった場で発信できると嬉しいですね。
画面越しだとアバターの表情が笑顔なので、喜んでいるのもなかなか伝わりづらいので、声色で工夫したりして上手く伝えたいとは日々思っています。ちなみにアバター越しだと、逆に困っていても、困ったような表情にはならないので、安定して接客することもできますね。
一度、大阪の店舗でお客さまに「全然声出てないよ。接客の意味ないやん。」というようなお叱りをいただいたことがあって、もちろん私がいけないのですが、そういうことを言われるとどうしても困った表情になってしまうようなことも、現実の接客ではあると思うのです。その反省している表情が、次のお客さまの接客にも響いてしまうというは良くないなと。でも、アバターなら常に笑顔なので、そういう通常通りの接客をどんな気持ちでもすることができますよね。そうすると、前向きに接客する気持ちになって、声の出し方変えてみようとか、ポジティブに前向きにって自然となれます。
自分の心とうまく付き合いながら、新しいチャレンジができる場が、アバターオペレーターということですね。
そうです。やっぱりどうしても、自分のようなハンディキャップを持った人は、普通のお仕事で接客に立つのは難しいと思っていたんですよね。でも、こういったアバターを通じた接客であれば、自分みたいに決まった時間、決まった曜日では働けなかったりとかっていう人でも働くことができます。誰かの役に立てるんだっていうことを、アバター接客で頑張る姿を通じて、もっと多くの人に知ってもらいたいです。
枡谷さん、本日はありがとうございました。