見出し画像

山奥の村にオープンして繁盛!「地域共生コンビニ」のやりがいとは?

 昨秋、日本三大美人の湯の一つとして有名な龍神温泉がある龍神村に、待望のコンビニが誕生した。豊かな自然に恵まれた村では、少子高齢化による過疎化が進み、前年の夏に唯一あったスーパーも廃業へ……。
 村民が食料品や日用品の調達に困っていたところ、その跡地にローソンが出店した。同店舗には、小上がりのイートインスペースが設えられ、龍神マッシュや里芋焼酎など地域特産の生鮮食品も揃い、いわば「地域共生コンビニ」として繁盛している。和歌山県で数多くの出店を手掛ける中嶋さんに話を伺いました。


株式会社ローソン 近畿カンパニー 大阪・和歌山開発部 大阪3エリア/ 中嶋 将貴
1968年、奈良県生まれ。奈良そごうの外商マンを経て、1998年にローソン入社。大阪で店社員、店長、SV(スーパーバイザー)を経て、2007年に本社法人営業本部にて社内新事業のサテライト店舗の展開に貢献。以来、東京や近畿地区で店舗開発や運営に携わる。和歌山県での開発担当は5年目。休日は卓球の大会出場、または練習に励む。目標は全日本マスターズ卓球選手権大会でベスト8入りすること!

「店がなくなって困ってる」
現地に下見に行った途端、有名人に


── 龍神村は良質な温泉で知られていますが、あたりは山深く、一番近くの街からも車で40分ほどかかります。ここでの出店に至った経緯を教えてください。
 
 和歌山県では和歌山市内の他、白浜町、那智勝浦町、串本町などの主だった観光地にはコンビニが元々あったので、龍神村のような山の中こそ、出店したいと考えていました。村周辺にはコンビニが全然なかったので、地元の新聞をチェックしていたら唯一のスーパーがなくなったと知り、村の人は不便されているだろうなと。
 
 それで、まずスーパーの跡地を下見に行ったんです。すると、スーツ姿の人間は私しかいないので、村の人に「どこの人?」「何しに来たん?」と話しかけられるんですね。詳しくは明かせない段階なので「ちょっと店出したいなと思ってるんです」と答えていたのですが、村の人たちから「店がなくなって困ってるねん」「ぜひ出してほしい」と口々に言われて。使命感を感じつつ、社内外での調整や交渉を進めて出店に至りました。
 
 話が決まった翌日には、村全体に私のことが知れ渡っていて、「ローソンさん」「いつオープンするの?」って毎日のように声をかけられるようになりました(笑)。
 
── 素敵なところですが、昨今の物価高や輸送費の高騰など、採算が合わないかもしれないといった懸念はなかったのでしょうか?
 
 龍神村は人口2500人あまりなので、多少の不安はありましたが、これまでの経験から十分に利益は出せるだろうと試算は立っていました。まず人口は少ないですが、街中の店舗よりも必要性が高いので客単価は大きくなります。
 
 他にももちろん、利益を安定的に出せるよう、商品の品揃えを工夫します。例えば、「龍神マッシュ」という肉厚な生椎茸はじめ、地元で採れる青果や里芋焼酎のような特産品、冷凍食品を充実させました。龍神マッシュは4本で350円ほどする食材なのですが、近畿では有名です。椎茸が嫌いな私も食べられるぐらい本当に美味しいので、毎日よく売れますよ。
 

地元で採れる野菜がズラリ
野菜の詰め放題も行われている

── 利益が出るとの計算が立っていたとは驚きました。では、こうした地方の出店で、まず課題となるのは何でしょうか?
 
 一般的にはオーナーさん、そしてパートやアルバイトというクルーの皆さんが見つかるかが課題になります。ここも24時間営業なので、クルーさんも15人から20人は必要になりますしね。

牧場で作られた商品が並ぶ

  今回は、これ以上ないオーナーさんが見つかりました。すでに和歌山市内で10数店舗を経営されているマネジメントオーナーの山田敦司さんで、普段から交流させていただいているんですが、龍神村に下見に行く時、たまたま市内でその方に遭遇したんです。興味深そうにされていたので「一緒に来ます?」と尋ねたら「行く」と二つ返事で。聞けば、山田オーナーのお祖父様が龍神村出身らしく、そのまま「これも何かの縁。先祖孝行できる」と同店舗のオーナーになることに快諾いただきました。それどころか、龍神村のお客さまのニーズを汲み取って、自らいろんな商品を交渉して仕入れてくださっています。

山田オーナー(右)と中嶋さん。店内には小学生の絵も展示されている

 クルーさんも、地元の方々が何とか集まりました。あとは、山田オーナーの会社の従業員の方が二人、龍神村に移り住んで働いてらっしゃいます。お二人とも街の出身なのですが日々、龍神村で「星が綺麗だな」「食べ物が美味しいな」と仙人のように山奥の生活にも馴染んでおられるとか。
 
※ マネジメントオーナー……地域に密着した多店舗経営を行い、 ローソン本部と共に成長を目指す事業経営者として、より強いパートナーシップを持つローソン公式認定オーナーのこと。
 

「小上がり」にして大正解
村の人々が集まる憩いの場に


── 店内には広々としたイートインスペースがあります。しかも珍しい「小上がり」になっていて、寛げる雰囲気ですね。
 
 せっかくのスペースなので、温泉にあるような休憩室をつくったら喜ばれるに違いないと、いろんな方と話し合いをしていく過程で決まりました。建設担当の方には無理を聞いてもらいましたけども、テーブルも備えて、周りを囲んでワイワイと座れるようにしました。
 
 おかげさまで、昼間はご年配の方々に来ていただいています。この店舗には和菓子も多く取り揃えてあるので、そうしたお菓子や、お茶にコーヒーなどの飲み物を買って、皆さんで集まって楽しんでらっしゃいます。

小上がりスペースが充実

  夕方になると、近くに南部高校の龍神分校があって野球がなかなか強い高校なんですが、そこの野球部の生徒さんたちが集まったり、若い子たちが賑やかにしていたりします。街中なら、夕方に高校生の溜まり場になっていると聞くと悪いイメージを持たれるかもしれませんが、村の子たちはみんないい子たちばかり。

 食べたものもきちんと片付けて帰るし、「こんばんは」「さようなら」って挨拶も欠かしません。  高校生と年配の人たちも知り合いだったりするので、世代関係なく村の交流や憩いの場になっています。想像したとおりに、本当にいろんな皆さんに喜んでもらえる場所になってくれて嬉しい限りです。 

村の人に会うたびに
「本当にありがとう」の声  
田舎の出店がやりがいに

 
── 街中にはあまり見られない良い光景ですね。
 
 そうですね、ないと思います。おかげさまで、村の人も私のことをすごく覚えてくれていて、会う度に「ほんまありがとう、ありがとう」って言ってくださるので、本当に龍神村に出店できて良かったと感じています。
 
 これまでに街中の出店も数多く手掛けましたが、こんなにお礼を言ってもらえた経験はありませんでした。出店交渉の際も、やはり都会はビジネス色が強いイメージがあるのですが、地方ではそんなこと全くなくて「あんたやったら貸したいわ」という感じで、人と人との繋がりが一番大切になるんですね。これを経験すると、人の温かさを感じながら、地域共生を実現するための役割の一端を担えていることも、本当にやりがいに思います。
 
── 田舎ならではの仕事の魅力なんですね。でも自然が豊かなところでは、災害や野生動物の被害も身近なのでは?
 
 集中豪雨が増えているので、土砂崩れの被害はよく見られますね。だからこそ、必要なインフラとして出店を進めていきたいというのもあります。
 
 実際、和歌山県の山中を車で走っていると、野生動物にもよく遭遇します。龍神村での仕事を終えて、夜になって帰る道すがら、シカやイノシシ、それに天然記念物のカモシカを見かけたこともあります。私のドライブレコーダーは、急ブレーキを踏むと録画されるんですが、ここに来てからはたいてい私の悲鳴とシカが逃げていく姿が記録されています(笑)。
 
── 龍神村の温泉は名湯です。これを持ってきて足湯ができたら、もっと喜ばれるのでは?
 
 いいですね。まだオープンしたばかりなので、今後もっと繁盛したら検討していきたいです。実は別件ですが、和歌山市内に温泉の源泉があるところにオープンした店舗もあるんです。より多くのお客さまに喜んでもらえるよう、たくさん利益がでたら足湯をつくるというチャレンジもしたいなと考えています。
 
取材・文/松山ようこ