「天才の壁」の向こう側
テニス観戦が好きで、ここ二週間は、時間があえば全仏オープンの試合を幾つか見ていた。
昨日、男子シングルスでラファエル・ナダルが優勝した。これでグランドスラム(プロ・テニスで最も権威ある4大大会)で史上最多22回目の優勝となった。
決勝はナダルの圧倒的な試合だったけれど、準決勝と準々決勝は見応えのある試合だった。そして、この選手は、本当に凄い人だなと改めて思った。
努力の人・ナダル
昔、サンプラスという名選手が最強だった時代、彼が打ち立てたグランドスラム優勝14回は、今後打ち破られることのない記録とされていた。その14回の優勝を、ナダルは一つのグランドスラム大会だけで記録したことになる。
ナダルは全仏オープンが特に得意で、全仏オープンにおける通算成績は112勝3敗、勝率にして97%を上回る。これは途方もない数字で、こういう実績も当然凄いのだけれど、ナダルの試合を見ていて感じるのは、メンタルの凄さにある。
ナダルは、あと1ポイント取られたら負けというような時、多大なプレッシャーがかかっているであろう時、見ているこちらはもう無理だなと思う状況の時でも、冷静にプレーして、スーパーショットを放ってピンチを脱する。そして、逆転する。ナダルは決して諦めるということをしない人なのだなと思う。
だから、この人は一体どういうメンタルをしているのだろうと思う。
そんなナダルに興味を持って、以前、彼の自伝を読んだ。ナダルは少年の頃、叔父にテニスのスパルタ教育を受けてきて、その中で、努力、忍耐、継続ということを学んだのだと思う。
それは、彼の守備的なプレースタイルにも表れており、相手のボールを拾って拾って拾いまくる。どんなに難しいボールでもあきらめずに追いかけ、相手が根負けしてエラーをする。もしくは、相手の隙をついてカウンターでポイントを取る。
ナダルとフェデラー
ナダルのライバルとしてよく比較される選手に、ロジャー・フェデラーがいる。
フェデラーはナダルと対照的に攻撃的な選手で、ズバっと、相手が取れない鋭いボールを放つ。だから、ナダルに比べて1ポイントを取る時間が短い。その鋭いボールは、華麗なラケットさばきによってもたらされ、だからフェデラーは天才と言われる。
それに対してナダルは、天才とは程遠い努力の人といえる。もともと少年時代は運動音痴で、それを厳しい鍛錬によって世界トップになるまでに至った。
天才型のフェデラーと努力型のナダル。攻撃的なフェデラーと守備的なナダル。華麗なフェデラーと泥臭いナダル。
実に対照的な二人で、それぞれの魅力がある。そのため、今回の全仏オープンにフェデラーは欠場していたけれど、彼らの試合はいつも盛り上がる。
天才の壁
ナダルとフェデラーを見ていると、「天才の壁」ということを思う。
ナダルは、フェデラーのような華麗なプレーはできない。数秒でポイントを取ることもできない。それを「天才の壁」というなら、ナダルは「天才の壁」を超えられなかった、ということになる。
しかし、ナダルは泥臭くボールを追いかけてポイントを取る。そして、フェデラーの20回を超える史上最多のグランドスラム22回の優勝を勝ち取った。
ナダルは「天才の壁」を超えることができなかったけれど、壁の下を掘って穴を開け、根気よく掘り続けて壁の向こう側を見ることが出来たといえる。
だから、超えられない「天才の壁」はあったとしても、努力や忍耐、そしてそれらの継続によって「天才の壁」の向こう側を見ることは出来る。
ナダルを見ていると、そのようなことを考えさせられる。
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