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個人事業主が債務整理を行う際の事業設備・什器備品の取扱いについて

個人事業主をされている方の中には、事業資金の借入れなどにより、多額の負債を負っており、いつの間にか返済のために借入れを行う、いわゆる自転車操業に至ってしまっている方がいらっしゃるかもしれません。
この記事では、個人事業主の方が債務整理を行う際、事業設備・什器備品に関して解説します。


1 はじめに

 このような個人事業主の方が債務整理をされる場合、会社員やアルバイトの方よりも財産関係が複雑に入り組んでおり、弁護士に相談する重要性はより高いといえます。
 特に、個人事業主の方については、事業を行う際に事業設備・什器備品を利用されている方もいらっしゃるかと思います。

法的な問題点は弁護士にご相談を

2 リース品を利用している場合


 法的整理の場合、残リース料も債務としてお手続きに含める必要があります。
 もっとも、リース品については、弁護士が受任通知を送付した場合、引揚げを求められることになるのが通常ですが、事業を継続したい方にとっては、事業自体を営めなくなるといった重大な影響が生じます。
 そこで、主な対応としては、以下の二通りの方法があります。

①     残リース料を家計が別の第三者に代わりに支払ってもらう。

②     引き揚げられる物品と同種の物品を購入する。


 上記対応を取ることにより、事業自体を営めなくなる事態を避けることが可能です。

3 リース品以外の利用がある場合

 この場合、破産手続では換価対象として処分され、個人再生手続では清算価値計上の対象となるのが原則です。
 もっとも、破産手続においては20万円以上のものでない限り、自由財産として換価対象とならない可能性があります。
 また、「技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)」(民事執行法131条6号)にあたる場合は、差押禁止財産として、換価対象として処分をされることや、清算価値計上を免れます。

一定の「業務に欠くことができない器具」は処分を免れる可能性があります。

 具体的にどういった事業設備・什器備品が該当するかについては、裁判例が少なく一概に申し上げることができないものですが、少なくとも事業内容に応じ、通常の職業生活を送る上で必須のものであれば認められていると考えられます。
 実際に、弊所の解決事例の中には、数百万円単位の高額な事業設備・什器備品が、差押禁止財産として、換価・清算価値計上の対象とされなかった例があります。

オリオン法律事務所には事業設備を換価対象外とした実績があります。

(差押禁止動産)

第百三十一条 次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。

 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具

 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料

 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭

 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物

 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物

 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)

 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの

 仏像、位牌はいその他礼拝又は祭祀しに直接供するため欠くことができない物

 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類

 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物

十一 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具

十二 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの

十三 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物

十四 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品

民事執行法(昭和五十四年法律第四号)
(令和五年法律第十七号による改正)

6 おわりに

 以上に記載した点は、あくまで一般論であり、一概に個人事業といっても、ご状況は様々かと思います。
 ご相談の際には、皆様のご状況に合わせ、今後の方策を共に検討させていただきますので、個人事業主の方で債務整理を検討されている方は、是非、弁護士にご相談ください。

ご不明点は弁護士にご相談を。


執筆者:横浜支部 加藤弁護士(神奈川県弁護士会)

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