令和6年司法試験予備試験 知的財産法 再現答案
令和6年の予備論文を受験し、全科目再現答案を書いたのですが、知財の再現をあげている方がほとんどいらっしゃらないので、自分の再現も知財を勉強する誰かのためになればと思い、再現答案(及び試験中の思考過程)をアップさせていただきます。なお、残り9科目については予備論文合格したら全科目公開しようかと思っています。不合格でしたが他の方の参考のため公開しております(下にリンクあります)。よろしくお願いします。
(12月28日追記)
予備論文の結果が返ってきました。選択科目(知的財産法)の順位ランクはAでした。自己評価はB〜Cにしていましたが、おそらく論点を網羅的に拾えた人があまりいなかったのかなという印象です。よければ参考にしてください。
1. 再現答案
(wordからそのままコピペしたら改行の際にめっちゃ空白できちゃいました読みづらかったらすみません、、、)
第1 設問1
1 Cとしては、Dの本件ポスターの印刷及び販売は、Cの複製権(著作権法(以下略)21条)及び譲渡権(26条の2第1項)を侵害すると主張する。以下、その当否を検討する。
2 (1)ア まず本件資料は 、Aがファンタジー小説シリーズαの第10巻のために作成していたメモ書き等である。本件資料には、本件キャラクターを含め、後に本件小説にシリーズで初めて登場するキャラクターの生い立ちや性格等の基本的な設定及びそのセリフの一部が示されているのであるから、本件資料はAがその「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸…の範囲に属するもの」(2条1項1号)であり、言語の著作物(10条1項1号)として著作物性が認められる。
イ 次に、本件小説は、本件資料に書かれた大まかなストーリーの構成や初めて登場するキャラクターの基本的な設定にのっとってCが執筆したものであるが、その中には本件キャラクターの名称及び外観上の特徴や細かい設定など、Cの独創性により創作された部分もあると言える。従って、本件小説は、既存の著作物である本件資料に依拠した上で、そこにCの新たな思想又は感情を創作的に表現して作られたと言えるから、本件資料を翻案したものとして、本件資料の二次的著作物(2条1項11号)にあたり、著作物性があるといえる。なお、本件小説を創作する過程においてCは本件資料の著作者たるAと一切連絡を取っていないのであるから、「共同して創作した」といえず、本件小説はAとCの共同著作物(同項12号)には当たらない。
(2)上記の通り、本件小説はCが創作したものであるから、Cが著作者(2条1項2号)にあたる。
(3)本件ポスターには、本件キャラクターをDが視覚的に表現した絵画に加えて、本件キャラクターの名称とセリフが記載されている。まず本件ポスター上の本件キャラクターはDが視覚的に表現したものであり、本件小説において描写されているその外観上の特徴をイラストとして「有形的に再製」したものであるから、Dが本件キャラクターを本件ポスターに表現した行為は複製(2条1項15号)にあたる。また、本件キャラクターの名称とセリフについても、本件小説の中の表現に依拠してそれを「有形的に再製」するものであるから、それらを本件ポスターに記載することも複製といえる。従って、本件ポスターの作成行為及びそれを印刷する行為は、Cの複製権を侵害する行為にあたる。そして、Dはそれを販売することで、著作物たる本件小説の複製物を譲渡により公衆に提供しているため、本件ポスターの販売行為はCの譲渡権を侵害する。
(4)もっとも、本件ポスターにおいて複製されている本件キャラクターのセリフは、本件小説に書かれているものであるが、本件小説の原著作物である本件資料に見られるセリフと同一のものである。二次的著作物が著作物として保護される根拠は、原著作物にはない新たな思想又は感情の創作的表現を付加している点に求められるのであるから、二次的著作物の著作権は、二次的著作物の著作者の思想又は感情の創作的表現の部分にのみ生じると解するべきである。従って、本件キャラクターのセリフについては本件小説の著作者であるCの創作部分ではないため、この部分についてCが権利行使をすることはできない。
3 以上より、Dの上記主張は、本件キャラクターのセリフ以外の部分についてのみ認められる。
第2 設問2
1 Aとしては、B社による本件外伝の出版は、Aの譲渡権(28条・26条の2第1項)を侵害すると主張する。以下、その当否を検討する。
2 (1)本件外伝は、本件キャラクターを主人公とし、本件小説の基本的設定をそのまま引き継いだ新たな小説である。従って、本件外伝は既存の著作物である本件小説に依拠し、そこに新たにCの思想又は感情の創作的表現を付加して創作されたものであるから、本件小説を翻案したものとして二次的著作物にあたり、その著作物性が認められる。
(2)ア 本件外伝はCが創作したものであるが、Aが著作者である本件資料を翻案した本件小説を、再度翻案して創作されている。従って、Aは「二次的著作物の原著作物の著作者」にあたるため、28条により、原著作者の権利としてCが有する著作権と同一の権利を専有することとなると考えられる。
イ もっとも、この点に関してB社としては、本件外伝には、αの過去作品や本件資料に見られる表現は用いられていないのであるから、Cの創作性しか発揮されておらず、もはやAの本件資料に依拠しているということができないため、Aは権利行使をすることができないと反論することが考えられる。
しかし、二次的著作物の中で原著作者の創作性の部分と二次的著作物の著作者の創作性を区別するのは困難であるし、そもそも二次的著作物である以上、原著作物に依拠しない部分は存在し得ないはずである。そこで、二次的著作物の著作者の創作部分であっても、原著作者は権利行使できると解する。
従って、上記反論は認められない。
ウ またB社としては、一度翻案されたものが再度翻案された場合にも、その一番最初の原著作者が原著作者の権利を有し続けるとすると、原著作者の権利が広範になりすぎてしまい妥当でないと反論することが考えられるが、やはり二次的著作物である以上何度翻案されても原著作物には依拠しているはずであるから、この場合にも権利行使を認めるべきであると解する。従って上記のB社の反論も当たらない。
(3)B社の本件外伝の出版は、譲渡により公衆に提供する行為であり、Aの原著作者の権利としての譲渡権を侵害する行為である。
3 以上より、Aの上記主張は認められる。
以上
2.所感
試験から3ヶ月半ほど経った現在でも正解筋がよくわからないのですが、以下自分の試験時間中の思考過程、気をつけたこと等を書いておこうと思います。
(1) 設問1
まず自分は本件資料の著作物性について考えました。というのも、Cが権利を主張したい自らの著作物は本件小説であるところ、この小説はガッツリAの本件資料に依拠しているので、仮に本件資料に著作物性が認められ、本件小説がその二次的著作物ということになれば論述の方向が変わってきそうだと思った(特に、後述の通り二次的著作物の著作者の権利行使の範囲という論点の関係で)からです。そして本件資料の著作物性について検討するのですが、その際、①本件資料はメモ書き等の資料にすぎず、こんなメモなんかに著作権を付与してよいのか、②本件資料は公開が予定されていないものだけど著作物と言ってよいのか、という2点に悩みました。もっとも、①についてはメモであろうがなんだろうが思想又は感情の創作的表現があれば(=2条1項1号の定義にあたれば)とりあえずええやろ、②については著作者人格権として公表権(著作権法18条)があるくらいやから公開を予定してなくても著作物にはなるやろ、と自分の中で納得してとりあえず先へ進むこととしました。しかし、この時点で試験開始から15分くらい経過しておりだいぶ焦っていたのもあって、事実を並べて定義に当てはめた気になって終わってしまいました。
次に本件小説ですが、本件資料に依拠して、そこにCの創作性が加わっていることは明らかなので、(焦っていたのもあり)いきなり事実を摘示、評価し翻案の意義に当てはめました。また、問題文中に「Cは本件小説の執筆に当たり…Aとは一切連絡を取っていない。」との記述があったので、共同著作物について触れて欲しいのかなと思い、なお書きで否定しておきました。ここは、後から考えれば多分共同著作物ではないよーということを明示するという趣旨にすぎないと思われるので、あえて書かなくてもよかったと思います。
次に具体的な権利侵害の成否です。「本件ポスターの印刷及び販売」とあるので複製権と譲渡権を侵害するものとして検討しました。
まず複製について、本件キャラクターについては、問題文で「本件キャラクターの…外観上の特徴はCが考え出したものである。」「本件キャラクターをDが視覚的に表現した」との記載があることから、本件小説の中で本件キャラクターの外観上の特徴について記述されているものと考えられ、Dはその記述をもとに本件キャラクターを表現したと考えられるため、本件ポスター内の本件キャラクターの絵画の作成及びその印刷について複製権侵害が成立すると思いました。わざわざ「視覚的に」と書かれていることから、Dが想像で本件キャラクターを描いたわけではなく、あくまでもCの言語的記述という具体的表現に依拠しているものと思われます。従って、この考え方が正しければ、キャラクターは単なるアイディアに過ぎないため、著作物性は認められないという「キャラクターの著作物性」の論点は出てくるまでもないということになると思います(この論点は、象徴的概念としてのキャラクターの著作物性を否定するものであって、絵画や言語という具体的表現に創作性があるのであればキャラクターの具体的表現の部分に著作物性が認められるので)。
次に本件キャラクターの名称及びセリフについてはまんまパクっていると思われますのであっさり肯定しました。
以上の点について、他の方の再現答案を拝見していて、本件キャラクター、本件キャラクターの名称、セリフの3つに分けて著作物性を検討していた方が複数いらっしゃったのですが、確かにその筋もあるなあと感じました。もっとも、これら3つは一応全て本件小説の中でCが言葉として記述しているのであって、俺の答案のように包括的に一つの著作物の中で複数の要素を有形的に再製したよねって言うのはダメなんやろか、、とも思いました。多分僕が間違っている気がします。有識者教えてください。
そして、(私見では)本件ポスターが本件小説の複製物となる以上、本件ポスターの販売はCの譲渡権をも侵害するため、Cの主張は全て認められそうです。しかし、最初に述べた通り、本件小説は本件資料の二次的著作物であるため、本当に全範囲について権利行使できるかが問題となります(試験中は、設問1問題文中の「このセリフは、本件資料にみられるセリフと同一のものである。」と言うのを見た時、真っ先にこの論点が思い浮かんだので、本件資料を原著作物として本件小説をその二次的著作物とみるという構成を思いついた、という感じです)。あとはポパイネクタイ事件(最判平成9年7月17日)の規範を貼って、セリフについてはCの創作的表現ではないためCの主張は許されないとしつつ、その余を認めるという結論でフィニッシュです。
(2) 設問2
設問2を見た時、やはり鍵となりそうな文言があることに真っ先に気づきました。それはまさに「本件外伝においては…αの過去作品や本件資料にみられる表現は用いられていない。」という部分です。この文言と、問題文の書きぶりから明らかに本件外伝が本件小説の二次的著作物であることを併せ考えれば、考査委員が何を書かせたいのかがすぐに思いつきました。設問1とは逆で、二次的著作物の原著作者の権利行使の範囲です。これに気づけば、あとは書き殴るだけです。まず、「本件外伝の出版」行為のみを問題にしているため、譲渡権の侵害の成否が問題となることを指摘した上で、本件外伝が本件小説の二次的著作物に当たることを簡単めに論じました。その上でAに28条が適用されうることを述べ、二次的著作物の原著作者の権利行使の範囲の論点に持っていきます。自説は判例(キャンディキャンディ事件 最判平成13年10月25日)と同じで、二次的著作物の著作者の創作部分についても権利行使できるとの立場であると予め決めておいていたので、理由づけと規範を貼って終了です。
…
と思ったのですが、ここで「本件外伝って、本件資料の翻案の翻案やんけ、、、」ということを思い出します。裁判例は確かなかったと思うのですが、二度(以上)翻案された場合(三次的著作物?)にも、その一番最初の原著作者は28条にいう「二次的著作物の原著作物の著作者」に当たるのかという論点?を、AガルートのM野先生か誰かが言っていたような気がしてなんか知っていたので、これを書くべきかどうかにまた悩むことになりました。この時点で残り10分を切っていて、間に合うかどうか本当に瀬戸際だったのですが、悩むくらいならさっさと書いて点数稼げ!と天から言われた気がして、これも予め用意していた自説をパパッと貼り付けて、最後にB社の行為が譲渡権を侵害するものであることを簡単に当てはめた上で結論を書いてようやく終了です。
(3) 全体を通して
分量は大体3頁目の半分まで。思ったより事案分析に時間がかかってしまい、一番最後の「以上」を書き終えた2、3秒後に試験終了のタイマーが鳴ったくらいには時間はギリギリでした。
自己評価としてはB〜Cくらいです。ある程度は書けた方だと思うのですが、設問1で本件キャラクター、名称、セリフに分けて著作物性を検討していない点、翻案など解釈が必要な要件について三段論法が崩れている点、設問2の当てはめが薄い点で少し評価を落とすと思います。
以上となります。ここまで読んでくださった方本当にありがとうございました。