配信で音楽を流すのって法律的にどうなの?JASRACについても調べてみた。
近年盛り上がりを見せていたフェス市場。今年の夏はさすがに今まで通りとは行きませんでした。フェスに行けず夏を謳歌し切れていない人も少なくないでしょう。
とはいえ、人間側としてもコロナに泣き寝入りをしているワケではありません。過去のライブを配信したり、無観客のライブを配信したりと、withコロナでも様々な形で音楽を楽しむ試みがなされてきました。
最近は個人での音楽配信も盛況ですよね。私も「歌ってみた」とか「演奏してみた」とかを楽しんでいます。
けど、そんな時ふと頭を過ぎることが…音楽と言えばJASRAC。この前も音楽教室での曲の使用料について話題になっていたよなぁ。音楽フェスの配信とかの場合ってどうなるのかな…。ということで、調べてみました。
いきなりJASRACの話に行く前に、そもそも音楽フェスを配信する場合に生じうる法律問題を押さえておきましょう。
肖像権
まず問題になるのが肖像権。肖像権とは「承諾なしに、自分の容姿・姿態を撮影されない自由」のこと。ライブで言えば、オーディエンスが写る場合があるけど、これは肖像権を侵害している可能性があるわけだね。一般的には、ライブチケットや開演前のアナウンスで「本公演は撮影・記録され使用される場合がございます。予めご了承ください」みたいな記載やアナウンスをして、肖像権侵害の可能性をチケット売買の契約の一部に含み、肖像権侵害の同意をとっていたりする。
ちなみに、最近では観客が自分のスマホで会場の写真を撮ってSNSに上げていたりするけど、これも他の観客が写っている場合に肖像権の侵害にあたる場合がある。頭の片隅においておこう。
参考:◆「裁判例結果詳細」(裁判所)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51765
パブリシティ権
パブリシティ権とは、人に備わっている、顧客吸引力を中核とする経済的な価値(パブリシティ価値)を保護する権利のこと。例えば、なんでCMに有名人が起用されるかと言えば、「●●が宣伝しているから買おう!」という効果を狙っているからだけど、その効果に経済的な価値を認め保護しようとする権利がパブリシティ権というもの。
ライブ配信を一般の人が無断で配信した場合は、演者のパブリシティ権を侵害したとして民事上の責任を負う可能性がある。
著作権
はい、来ましたー!今回の山場です。まずは、著作権の解説から。
著作権を理解する上でまず大事なのが「著作物」「著作者」「著作権」の意味を押さえること。各言葉は以下のように定義されている。
著作物:自分の思想や感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
著作者:著作物を創作した人
著作権:著作者に対して法律によって与えられる権利のこと
参考:◆「著作権制度の概要」(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/index.html
そして著作権の内容は大きく二つに分けられる。著作権について生じる経済的利益である財産権と、人格や名誉に関する著作者人格権である。具体的には、前者は著作物である音楽を演奏する権利、後者は自分の著作物を勝手に改変されない権利がイメージしやすいかな。
そして著作者たる作曲者に無断で曲を演奏してお金をとると、著作権を侵害したことになる。だからライブで演奏したい場合は、事前に著作者に演奏の許諾をとっておく必要がでてくるってことだね。
では、基本を押さえたところで具体的に見てみよう!
そもそもJASRACって何しているの?
音楽と権利と言えば、よく名前が挙がるのがJASRAC。私的目的ではなく音楽を利用する場合には、この団体にお金を払わないとダメなイメージがあるよね。
著作権には財産権と著作者人格権の2種類があるって説明したけど、JASRACは財産権としての著作権を預かっている団体。音楽を使いたい人がいちいち著作権者に問い合わせするのでは使用する人も著作権者も手間がかかる。しかも著作権者が常に権利関係のやり取りに詳しいわけではない。そこで、そのやり取りをJASRACが一括して取り扱うことで、権利者と使用者の便宜を図ることを目的とした団体がJASRACというわけ。
なので、JASRAC問題が生じるのは、JASRACに著作権の管理をお願いしている楽曲に限られる。
ライブ(not 配信)でJASRACへの手続が必要な場合
まず、通常のライブ(not 配信)を行う場合、以下の①~③の要件をすべて満たさない時は、JASRACへの手続をし、著作権使用料を払う必要がある。
①営利を目的としない
②聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもってするかを問わず、著作物の提供又は提示に付き受ける対価)を受けない
③実演家に報酬が支払われない
上記の要件を満たした場合でも、営利団体による演奏である場合や入場料を取る場合等には使用料の支払が必要な場合がある。具体的に検討する方は下記のJASRACサイトでチェックしてみて下さい。
参考:◆「お手続きが不要となる場合」(JASRAC)
https://www.jasrac.or.jp/info/event/bepro.html
そしてJASRACへの手続が必要な場合には、観客数と入場料又は使用曲数に応じて、使用料を支払う必要が出てくる。開催日の5日前までに書類を送らないといけないので注意しよう。ちなみに、年間包括契約もあるので、定期的にライブをする人はこちらがおすすめです。
なおライブハウスでは、ライブハウスが直接JASRACと包括契約をしている場合がある。その場合は個別でのJASRACへの対応は不要となるので、まずはライブハウスの人に聞いてみよう。
参考:◆「各種イベント、施設での演奏など」(JASRAC)
https://www.jasrac.or.jp/info/event/index.html
音楽を配信するときに必要な手続
では、音楽を配信したい場合の、JASRACへの手続方法等をみてみよう。
まず、非商用か商用か、で手続は大きく異なる。基本的に、個人・非営利団体・文部科学省が定める教育機関等が行う営利を目的としない配信は非商用にあたる。そして、企業が行い、情報料や広告収入料を得て行う配信は商用にあたるとされている。
非商用か商用かの具体例
★非商用にあたるもの
・個人Webサイトで内国曲の歌詞を掲載する
・学校のWebサイトで生徒の合唱や吹奏楽部が演奏した曲をBGMとして流す
★商用にあたるもの
・企業のWebサイト上で無料で音楽を配信する
・自分の事業を紹介する個人事業主のWebサイトで音楽を配信する
・バナー広告やアフィリエイト広告等により収入を伴うWebサイトで音楽を配信する
★非商用の場合の手続
JASRACと利用許諾契約を締結している配信サイトを利用する場合は、JASRACへの手続をせずに音楽配信が行える。(例:You Tube、Instagram、ニコニコ動画、LINE LIVE等)これは、朗報!
参考:◆「利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧」(JASRAC)
https://www.jasrac.or.jp/news/20/ugc.html
但し、JASRACの管轄は財産権に関する著作権の範囲まで。レコード会社が発売しているCDを伴奏にして自分の歌を配信する場合には、著作隣接権のレコード製作者の権利の侵害に当たりうるので、そのレコード会社にも許可を取る必要がある。また、自分でアレンジを加える場合には著作者人格権への侵害に当たる恐れがある。この場合は、著作者自身にアレンジをしてもよいか確認する必要が出てくる。
★JASRACと利用許諾契約を締結しているサイト上での非商用配信の手続のまとめ
①楽譜どおりに自らが演奏、制作した音源の配信をする場合
→個別の手続必要なし
②市販の音源をそのまま利用して、歌は自分で歌う場合
→権利者のレコード会社の許可を得る必要がある
③アレンジを加えた場合
→オリジナル曲の権利者に連絡し、アレンジをしても良いという許諾を得る必要がある
★商用の場合の手続
商用の場合のステップは、大きく二つに分けられる。1,動画コンテンツを製作することについての手続【ビデオグラム録音(基本使用料)】と2,インターネット上で配信することに係る手続き【インタラクティブ配信】だ。
1,動画コンテンツを製作することに係る手続き【ビデオグラム録音(基本使用料)】
①使用予定作品がJASRAC管理のものか確認する
②J-RAPP(オンラインライセンス窓口)による手続きを行う
③映像ソフトに許諾番号およびロゴマーク等を表示させる
④使用料を払う
参考:◆「DVD・Blu-rayなど映像ソフトの製作」(JASRAC)
https://www.jasrac.or.jp/info/create/video.html
なおこの手続は9つの例外があり、これに当たる場合はこの手続は必要ない。具体的にはストリーム配信および有期限ダウンロード配信で内国曲を利用する場合、同時中継ストリーム配信をする場合等である。具体的な例外例は以下を見てみてね。
参考:◆「動画配信での音楽利用(商用配信)>手続きの流れ>STEP1動画コンテンツを製作することに係る手続き【ビデオグラム録音(基本使用料)】」(JASRAC)
https://www.jasrac.or.jp/info/network/business/movie.html
2,インターネット上で配信することに係る手続き【インタラクティブ配信】
①「J-TAKT」と呼ばれるJASRACの申請システムへの登録と、基本契約書の提出
②サービス概要書の提出
③利用曲目及び広告収入料等の報告と使用料の支払い
※サービス概要書とは?
サービス全体の概要(楽曲のダウンロード販売、企業ホームページにおけるCM動画配信での利用、スマートフォンアプリでの楽曲使用、配信用ゲームでの楽曲使用、等)、ユーザーに対し課金する場合は課金方法、およびその金額、広告料等その他の収入がある場合はその内容等を記載したもの。
参考:◆「手続きの流れ(商用配信)」(JASRAC)
https://www.jasrac.or.jp/info/network/business/procedure1.html
以上が大まかな流れになる。
なお、動画投稿サイトを使用した配信の場合、JASRACと利用許諾契約を締結しているサイト(例:You Tube、Instagram、ニコニコ動画、LINE LIVE等)のみ配信が可能となります。注意しましょう。
参考:◆「利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧」(JASRAC)
https://www.jasrac.or.jp/news/20/ugc.html
このほかにも非商用の場合と同様に、市販の音源を使用する場合にはレコード会社への許諾が、アレンジがなされた物を使用する場合は権利者への許諾が必要となるので注意しよう。
★無観客イベントを配信する場合
これも、JASRACとの間で包括的な利用許諾契約を締結している事業者の配信サービスを利用する場合は、個別に手続きをすることなく利用が可能なようだ。(例:You Tube、Instagram、ニコニコ動画、LINE LIVE等)
自身が運営するサービス等で配信する場合は、メールフォームからご相談ください(by JASRAC)。とのことなので、検討の方はJASRACに相談しよう!相談の際は、利用方法等の詳細を記入してくださいとのことです。
参考:◆「イベントの中止や無観客イベントの配信に関するお手続きについて」(JASRAC)
https://www.jasrac.or.jp/news/20/200319.html
他に注意しておくこと
上記で上げた以外にも、動画投稿サイトで配信する場合にはサイトごとに規約があるのでこれも注意したほうがいい。
他にも、ネット配信したものを無断転載された場合等は主催者等に対する著作権侵害が、他にもプライバシー権への侵害が生じる可能性がある。主催者としては、事前に利用規約を作っておく必要があるかな。
あと、注意事項に電波の状況により映像が乱れる可能性や、やむを得ず休止する場合がある可能性も記載したほうがいいかもね。
なんだか全体的にJASRACの話ばかりになった気もするけど、これでいつでもYou Tubeデビューできるなぁ。まずは、楽曲選びからか~。