見出し画像

高校卒業のあと : 学校のはなし第三部〜肩を張らずにフランス34

めでたくバカロレアを取得した先には晴れて日本で呼ぶところの「大学教育」が待っている、、、?ちょっと待った!フランスの « Enseignement supérieur »高等教育システムは日本のそれとかなり違う。

現在では大学 « faculté »(略してfacというが)は« Parcoursup »を介してインターネットで願書登録をする。そこで行きたい学部をリストアップする。あとはバカロレアの結果待ちでどこに行けるかがきまる。

お分かりいただけただろうか?

入学試験は普通のfacにはない。医学部でも商学部でも法学部でも工学部でもバカロレアがOKで合格ラインに入っていればOKだ。センター試験の結果でとりあえず大学に入れると思えばいい。驚きのシステムだが、定員がないわけでもないので1年後には試験があってふるいにかけられる(特に医学関係)。いずれにせよ大学1年生の初めの講義では教室に入りきれない学生が出てくる。「ふるい」のないままほとんどの中学生が高校に進み、バカロレアの取得率が91%だとこうなってしまうのは火を見るより明らかだ

学生のレベルの低さを嘆く大学教員も多く、入学当初は大学のカリキュラムではなく高校までの既習内容を後押しせざるを得ない状況らしい。「ふるい」も「選択」もなしでここに至らせてしまった皺寄せがいよいよ顕著に現れる。

結果的に、全員が « licence »学士3年と « master »修士2年を終了出来るはずもなく、中途で脱落していく。これは社会問題になっている。高校生の9割が高度の学問を欲しているとは信じ難い。早い時点での選択肢を悉く潰した国の政策の当然の帰結だ。

20歳を過ぎて何も身についていない若者が道に溢れる。 « apprentissage » 「職業を身につけること」は何歳からでも可能だが、15歳から入っていく若者の方が色んな意味で優遇されるのは致し方ない。受け入れ側にも選ぶ権利があるのだから。

                ***

普通のfacの他に « Grandes écoles »グラン・ゼコルと呼ばれるエンジニア学校がある。歴史的に見てエリート技術者を選る意味があったので現代でもコンクールを受けないと入れない。その準備をする過程が « CPGE - Cours Préparatoire aux Grands Ecoles» 俗にプレパと呼ばれるものだ。高校卒業時に« Parcoursup »で登録する。

"Prépa"の仕組み

ヨーロッパの他の国のシステムは知らない。ただ「フランスでは年齢が上がるほど勉強が厳しくなる」とよく言われる。こういうと申し訳ないが日本では大学に入るまでが大変厳しい(かくいう自分も経験者)。ところが一旦入ってしまうと気の抜けた学生が大勢いる。

プレパのことを指して言っているのかもしれない。2年間は昼夜勉強漬けになる。趣味とか遊びをしている間はない。寮制度から食堂まで時間のロスがないように完備され、完璧な環境が整っている。面白いのは大多数のプレパがリセ(高校)に並立されていること。多くの高校が設備的に整っていることを考えるといかにも論理的でフランス的だ。

2年目が終わる春にコンクールがある。筆記は各々の地方で行われるが口頭はパリで行われる。この口頭試験は2次試験なのだが1週間はかかる。隠キャだとか内気だとか言ってられない。知識以外の能力も試される。将来のエリートを選ぶんだからこのくらいでへばってもらったら困るというのが思惑なのか?

プレパでの2年間は大学学士課程の2年とみなされるので、守備よくどこかのグラン・テコル(単数なので発音が違う)入ると « L3 - Licence 3 »学士3回生(学士最終学年)になる。

ここで学校を出てしまう学生はいない。全員 « master »修士課程を履修する。マスターでの2年間が終わるとあとは日本と同じで職探しとなる。求人広告の条件で « BAC+5 »というのはバカロレア後マスターまで取得済みといういう意味。博士課程(3年間)を選ぶ学生も案外多い。必ずしも教員になるわけではなく、卒業後は研究員としてあちこちで修行を積むことになるケースが多い。

こうして見てくると歴史というか古ぼったさが漂ってくるが、フランスの知識エリートはこうして作られてきた。

グラン・ゼコルに入学するためのプレパとコンクールは公立大学に属する医学部に入るより遥に難関で、門戸が狭い。もちろん医者になるのが簡単だというわけではない。医学部2年に残れるには試験による選抜があり、留年も含めて2回チャンスがある。この試験の準備には予備校のようなものもある。試験は « QCM : Questionnaire à Choix Multiples » 多肢選択式。口頭2次試験はない。合格率約25%。4人に1人しか残れないので厳しいには違いない。ただプレパとコンクールを経験した学生の方がずっと多方向から鍛えられる印象は拭えない。

今の政治家たちはこの「エリート」階級を潰しにかかっている。プレパ入学の際「生活レベルや地域によって人数を設定する」なんかは愚の骨頂。本来の「平等主義」の真逆をいっている。「実力があれば社会階級なんのその」の理念はどこへ行ってしまったのか?その結果フランスの本当の頭脳が海外に漏れ出すようになってしまった。

このように問題は山積みだが、今もなおグラン・ゼコルはフランスの教育の頂上に君臨している。

今は厳しいコンクールを乗り越えた将来のエリートたちにエールを送りたい。

いいなと思ったら応援しよう!