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【物語】坊やの願い


なんと昔 あるところに

可愛い坊やを、川で亡くしてしまった

女がおりました

それは一瞬のことでした

あっという間に流されてしまったのです

女は必死になって助けようとしましたが

とても間に合いませんでした


それから後の女の暮らしは

毎日、坊やのことを思って涙を流し

毎日、坊やのお墓に参って手を合わせ

自分がどれほど

坊やのことを愛しているかと

どれほど後悔しているかと

どうか許して欲しいと、謝り続けたのです

そうして何年も経った、ある日のことです

ひょんなところから坊やが現れて


「母ちゃんごめんよ、
僕がうっかり川に入ったもんだから
毎日母ちゃんを泣かすことになってしまった
ごめんよ、ごめんよ。
母ちゃんは何にも悪くない
何も悪くないんだ
たまたまそうなっただけなんだ
僕は大丈夫だと信じておくれ。
僕は母ちゃんが大好きだから
どうか笑っておくれ。
母ちゃんのことが大好きだから
笑ってくれると嬉しいんだ」


そう言ってまたどこかへ行ったのです


それを聞いた女は

樽のふたを開けたときのように

どお どお どお と、へそのあたりから

何かが流れ落ちたのでした

それはそれはたくさん落ちていったのです

女はその日から謝ることをやめて

笑って暮らせるようになりました






見に来てくださりありがとうございます。【003】






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