ダンボール漢字テスト
25問の漢字テスト。
練習だがテストと同じように行った。
「いいかい。先生が一画ずつ書いていくからわかったらストップって言うんだよ?」
「うん。」
朝の一画目を赤鉛筆で書いた。
きっと無理だろうと思った。
すると彼はこう言った。
「はい、わかったー。」
ダンボールを机にし顔をプリントにグッと近づけて書き始めた。
彼のダンボールの隣には「答え」が置いてあった。
私は気づかぬふりをした。
「おっ!すごい!もうわかったのか!やっぱりYはできるなぁ〜。」
とにかく彼に成功体験をさせたかった。
彼はにっこり笑って「先生、次は?」と聞いてくる。
嬉しかった。
全てを自分で答えを見ながらでもやり切った。
100点
そうでかでかと書き、花丸を描いた。
たった一枚の紙切れを大事そうに抱きしめていた。
彼の嬉しそうな表情、にこやかな表情を電車の中で思い出す。
涙が出そうだ。
朝、彼に謝った。
「今、君ができないのは先生が悪いです。」
「ここまでわからない気持ちがわかってあげられなくてごめんね。」
そう言って踊り場の階段で彼を抱きしめた。
彼は1番前の席になることを望んだ。
私に1番にみられるから。
そして、自分もできるようになりたいと切に願っているから。
まだ席に着くのは難しそう。
それでも45分間の中で彼がみんなと同じことをし、成功体験を得られた数少ない事実を生み出せた。
変えさせるのではない。
わたしが変わるのだ。