青の記録(第六章)
『卒業生を送る会』の本番を迎えた3月某日。
観るだけの生徒と、出演する生徒は朝から別行動になり、出演する生徒は生徒会主導の元、諸注意の説明や事前準備等のオリエンテーションがあった。
ちなみに当日の会場となったのは名古屋市公会堂というホールで、1930年築の戦前からの建築物でなかなか立派な外見だった。中はリニューアルされており、設備は最新のものになっていた。
楽屋もあるのだが、かなり広く、鏡の回りに電球が付いたものがあり、初めて実物を見て驚いた。
まず出演順に短いリハが行われる。
音楽専門イベントでは無いため、とりあえず聴こえ方に問題無いかという程度の簡易的なリハだが、自分のギターの音や歌がホールに鳴り響いた時はかなり衝撃を受けた。
これがステージか。
僕達の出番は午後を少し過ぎた頃であり、前半は演劇部の劇やダンス部の踊りをぼんやりと眺めて過ごした。
そしていよいよ本番がやってきた。
リハとは違い満席のホール。
学園祭の体育館のステージとは全然違った。
席は1階席、2階席とあり見上げられ、見下ろされている。
音楽が好きで、自分もやりたいと思いギターを始めた。
バンド活動に憧れて、バンドを組む為に奔走した。
でも何故か今、アコースティックギターを持ってピアニストと一緒にステージに立ち、歌を歌おうとしている。
緊張というより奇妙な感覚だった。
定型文の様な祝辞を述べて、演奏を始めた。
イントロが有名な曲だったので、冒頭から少しざわつきが聴こえてくる。
ピアノの音は聴こえている。
リズムもズレていない。
コードも間違えていない。
いける、大丈夫だ。
なんとか曲は進み、最後のサビに続くCメロの部分になったとき
声が裏返った。
やばい。
爆笑が聴こえる。
続けなければ。
やり切らなければ。
なんとか最後までやり切った。
お礼をしてステージを去るとき、上級生から
「よく頑張ったよ!」
という声が聴こえてきた。
楽屋にて、
ピアノの相方に謝った。
一番大事なところでミスった。
相方からはマジで勘弁してくれと罵られた。
そりゃそうだ。
あんな全生徒の前で恥かかされたら誰でもそう言うだろう。
クラスに戻ると、笑われるでもなく、かと言って賞賛されるでもなく、よくあんなところであんなことやったなという感じの反応だった。
これが生涯初のボーカルデビューであった。
ユニットは当然解散した。
これはまだ高校一年生の話。
これから二年生へと進級するが、ここから混沌は益々、加速していくのである。