I have a dream.
その文字はひっそりと刻まれていました。
何年か前、ワシントンD.C.のリンカーンメモリアルを訪れた時です。青く晴れ渡った早朝の空の下、大きなリンカーン像を背にして大理石の階段に立ちました。見渡すと、ワシントン記念塔に向かって真っ直ぐに伸びる水路は強い日差しに照らされ輝いていました。
まだほとんど人影もありません。階段を降りかけてふと足元に目をやると、その文字が目に入りました。
そこはあの日彼が立った場所だったのです。そこに立ち、国中から集まった人々に向かい語りかけた、あの場所だったのです。
そこには目印もなければ囲いもありませんでした。そしてもちろん壁もありません。ただその文字だけが刻まれていたのです。気づかずに踏みしめて通り過ぎる人もいるでしょう。それほどさりげなく、ただそこにありました。
じっと俯いてその言葉を噛み締めました。
澄み切った空気と眩い光の下、辺りは音も無く静まり返っています。静謐という言葉はこの瞬間を言うのだと思いました。それはこれまでの人生で最も感動した瞬間でした。
“I HAVE A DREAM
MARTIN LUTHER KING, JR.
THE MARCH ON WASHINGTON FOR JOBS AND FREEDOM
AUGUST 28, 1963”
End
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