上海モーターショー雑感
4月18日から27日まで、上海モーターショーが開催されていました。
実際に現地に行ったわけではないですが、日本国内で展開されている記事やメーカーのニュース配信などからの担当の雑感です。
「現代ビジネス」では
「上海モーターショーで「日本車のガラパゴス化」が鮮明に…! この残酷な現実をトヨタはどう受け止めるのか」
という記事を掲載しています。
これは、日本国内で斜に構えたメディアに多く見られる「時代は完全にBEVにシフトしている。ガラパゴス化している内燃機関主体の日本の自動車メーカーには未来は無い」という論調の極端な例だと思います。
何故か、この手の記事には記載されませんが、世界で初めて電動モーターで駆動可能な自動車を量産したのはトヨタです。発電用モーターと駆動用モーターのふたつの電動機を制御する動力分割機構を備えたトヨタハイブリッドシステム(THS)を備えたプリウスが登場したのが1997年。乱暴な表現では、THSから内燃機関と発電用モーターを取り除き、動力分割機構もそもそも不要で大きなバッテリーを搭載しているのがBEVとなります。
少量生産では戦後の黎明期にプリンス自動車/日産自動車のルーツとなる「東京電気自動車株式会社」が「たま電気自動車」を製造していた、という歴史もあります。
また、BEVは「電池とモーターを調達すれば誰でも作れる」という主張も目にします。では「エンジンを調達できれば誰でもクルマが作れる」かというと、実はその通りでイギリス等では「キットカー」という少量生産の趣味のクルマを楽しむ文化があります。
しかしながら「リーズナブルな価格で手に入り、安全性・信頼性・耐久性が高い人々の生活を支える移動手段」という文脈では、動力源はその構成要素の極一部に過ぎず、安全性・信頼性・耐久性を満たす車体を低コストで製造するノウハウを得るのは、長い経験の蓄積が必要です。
中国の自動車産業について
では、世界最大の自動車市場である中国では、新規メーカーが多く誕生しているのは何故か、という疑問を抱きます。
中国では、輸入車に高い関税を課すと共に海外メーカーが現地生産に参入する際には中国の地場メーカーとの合弁で行うことを義務付けています。そのため、世界の自動車メーカーが最新鋭の工場を地場メーカーと合弁で設立し、生産技術や量産のノウハウを吸収しています。また、世界の自動車メーカーと共に進出したティア1、ティア2の部品メーカーが多数あり、サプライチェーンが確立しています。
中国のもうひとつの自動車事業参入パターンは、自動車会社の買収です。例えば日本市場に参入して注目されているBYDは、2003年にスズキと提携しアルトを生産していた西安秦川汽車有限責任公司を買収して自動車事業に参入しました。日本の自動車金型会社であるオギハラを買収したことでも注目されていますが、良好な関係を構築しているようです。
中国における新興メーカーの活況は、合弁や買収により、世界の自動車産業から学んだ地場メーカーが、BEV化の流れをチャンスと捉えて独自ブランドで製品展開を始めている、ということではないかと考えられます。
海外メーカーとの合弁でノウハウを吸収する、というのは1950年代の日本の自動車産業でも、日産が英国オースチン、日野がルノー、三菱がウィリス・ジープのノックダウン生産から完全国産化を実現した歴史とも少し重なるように思います。
中国ブランド躍進の理由
冒頭で紹介した記事のように、上海モーターショーは、中国ブランドのBEVが大躍進して大きな存在感を示している、内燃機関中心でガラパゴス化した日系ブランドは終わりが近い、という論調で報道されることが多いようです。
少し斜に構えた見方をしてみると、中国メーカーが自社ブランドで市場に参入するには、新興市場であるBEVであれば新たなイメージを構築可能だし、老舗先進国メーカーとも横並びでのスタートとなります。
既に、合弁事業や買収で自動車開発や生産技術のノウハウを獲得し、部品産業やサプライチェーンも育っていることから、高品質の自動車を製造することは可能です。
そこで、中国市場に特化した商品を企画し、顧客のニーズに応えたクルマを開発すること、潤沢な資金を投入して販売/サービス網を構築し、ターゲット層に刺さるプロモーション戦略を実践することにより、BEVの新興ブランドが一気に成長してきたのではないか? と推測します。
すなわち、中国市場でもアメリカのピックアップトラックや日本の軽自動車のように、市場のニーズに合致した中国ブランド発の車種が支持を獲得しており、現時点ではそれがBEVなのだ、ということではないかと思います。