【丸ごとレポート】「物語で加速させるソーシャルビジネス」〜パン業界を革新するパンフォーユーの場合〜(前編)
3月15日、特別ゲストに株式会社パンフォーユー取締役・山口翔さんをお招きし、「Short Story for Sustainability Talk Live Vol.1」を配信しました。
この企画は、昨年12月にリリースした新サービス「ショートストーリーforサステナビリティ」とのタイアップ企画です。
「会社の理念やビジョン、パーパスを策定したはいいけど、社内外にうまく伝わらない」
「物語がビジネスを動かす実例を、具体的に知りたい!」
「事業の継続と社会性の確保、両立するにはどうすればいいの?」
そんな想いを抱く全ての方に、寄り添い、解決に向けた一歩を提示する対談です。ぜひご覧ください。
■ショートストーリーforサステナビリティとは
サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)に伴走するLa torcheと、ストーリーマーケティングで共感、共体験を創るFROGLOUDの業務提携からはじまった、新しい映像表現提供サービスです。
組織のパーパスやミッション、ビジョンを「策定して終わり」にせず、物語と映像の力で価値を内外に伝えていく。これまでにないアプローチで、「ビジネス・サステナビリティ」の加速をサポートしていきます。
サービス詳細はこちらの記事をご覧ください。
■登壇者
「パンを作らないパンの会社」パンフォーユーとは?
秋間
今回は、「パン業界を革新するパンフォーユー」というサブタイトルのもと、ゲストをお呼びしております。パンフォーユー代表の山口翔さんです。よろしくお願いします。
山口
初めまして。パンフォーユーの山口と申します。パンフォーユーは、パン屋さんと消費者を「冷凍とITでつなぐ」プラットフォームを提供している会社です。提携している全国100店舗ほどのパン屋さんに、私たちが国際特許を出願している独自の冷凍技術をご提供し、冷凍パンを個人宅をはじめ、オフィシャ事業社などにパンをお届けして、これまでは店頭でのみ販売していたパン屋さんの商圏を、パンフォーユーが提供するさまざまな事業を通して広げています。
その中で私は、「パンスク」という、個人宅に月替わりで全国のパンを冷凍でお届けするサブスクリプションサービスを担当しています。
また、パンのギフト券をオンラインで贈ったり受け取ったりできる「全国パン共通券」などの新規事業開発も担当しています。
秋間
ウェブサイトを見させていただいたのですが、本当に新しい取り組みですよね。パン屋さんをつなぐ「プラットフォーマー」ということでしょうか。
山口
そうですね。パンを作る人・売る人・食べる人を冷凍とITでつなぐということに関しては、私たちがフロントランナーだと思っています。単にプラットフォームを企画・運営するだけではなく、パン屋さんの抱える問題も解決していきたいと考えています。例えば、パン屋さんが店頭以外のECなどでパンを販売する場合、包装もしなくてはいけないですし、原材料、アレルギーの表示されたラベルを付けなくてはいけないんですね。そのようなオペレーションの部分も支援しています。
また、「全国パン共通券」は、店舗に新しいお客様を呼び込み盛り上げるサービスで、切り口は異なっていても、「パン業界を盛り上げていこう」という想いは同じです。
秋間
私は「花キューピット」という花屋さんのネットワークをお手伝いする仕事もしているのですが、これも、それぞれの店舗は自分たちのブランドを大切に花を作り、ITの力でオペレーションを手助けするという仕組みになっています。ただのチェーン展開ではなく、ITによって目線を変えると、消費者にとっても働き手にとってもすごく良いコラボレーションになるんですよね。近しいものを感じて嬉しかったです。
山口
そうですね。先ほどご紹介した「パンスク」の登録者さんに対してアンケート調査をしたところ、「美味しいパン屋さんとの新たな出会い」に喜んでくださっている方が一番多いんです。自宅にいながらパン屋さんめぐりができるというワクワク感は、パン屋さんと私たちのサービスによって、パン屋さんと消費者がつながったからこそできることで、双方ハッピーの仕組みになっていると思います。
諏訪
僕が初めて知り合った時の山口さんは、グライダーアソシエイツという会社で、「antenna*」というアプリを運用していました。そこで山口さんがやっていたのがキュレーションだったので、今の話を聞いて、「パンのキュレーションをやっているのか」って合点がいきました。
山口
まさにそうなんですよ。前職で運用していた「antenna*」のコンセプトは、数百ある出版メディア・ウェブメディアの中から本当に価値のあるコンテンツを人の目で厳選してユーザーにお届けする、というものでした。
パンフォーユーでも、実はこんなに世の中に美味しいパン屋さんがあるよっていうことを消費者にお伝えしていきたいと思っているので、「antenna*」に通じるところもあるかもしれませんね。
諏訪
もっと突っ込んでもいいですか?では、なんで今は「パン」をキュレーションされているんでしょうか。
「地域に魅力的な仕事を」パンフォーユーの出発点
山口
我々のミッションは「新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する」というものですが、それに加えて「魅力的な仕事を地方にも」というビジョンも持っており、群馬県太田市出身の代表・矢野の想いが原点になっています。彼は地方に魅力的な仕事を生み出すために、うまくいくビジネスって何があるんだろう、とずっと考えていたそうなんですね。
そこで出会ったのが、パンだったんです。パン市場全体では単価が上がっているにも関わらず、地域によっては安い値段で販売しているという価格差に目をつけたのが、パンフォーユーのきっかけになりました。
山口
ちなみにみなさん、全国にパン屋さんが何店舗あるか知っていますか?
正解はおよそ1万店舗。
パン市場は右肩上がりで成長しているんですが、街のパン屋さんは減少傾向にあるんです。10年前ぐらいは1万5000店舗あったのですが、毎月毎年減ってきているという現状です。
これは、美味しくないパン屋さんが淘汰されているというわけではありません。パンフォーユーが提携している店舗でも、早いところでは朝3時から仕込みが始まって、レジ締めや明日の準備を含めると夜9時や10時まで働かなくてはいけないんです。一次産業の労働問題、後継者問題に近いところがあって、それで泣く泣く閉店する、というパターンが多いんですね。
諏訪
肌感としては、パン好きの人が増えている印象もあるんですが…。
山口
そうなんですよね。総務省の統計調査の結果を見ても、パン食が主食に台頭してきています。最近横浜で開催された「パンのシェフ」も3日間で10万人の来場者を記録したそうで、引き続きパン熱は高まっているといえると思います。一方で、街のパン屋さんは減っているんです。これは、美味しくないパン屋さんが淘汰されているというわけではありません。パン屋さんは、早いところでは朝3時から仕込みが始まって、レジ締めや翌日の準備など、夜までお仕事されることも多く、人口の減少はもちろんながら、第一産業の労働問題や後継者問題などとつながっているところもあって、泣く泣く閉店するというパターンも多いそうなんです。
それに対してパンフォーユーでは、冷凍×ITによって「パン屋さんの働き方改革」も支援しています。
例えば、まちのパン屋さんの多くは午前中に1日に販売するパンをほとんど焼いて、午後はオープンを使用せず、翌日の仕込みなどをしています。しかし、パンフォーユーの冷凍技術を使用して、オーブンが空いた時間を使って、パンを効率よく追加で製造することが可能です。また、買い手が決まってから作っていただく受注生産の仕組みを採用しているので、天気などによって売上が変わってしまう転倒とは異なり、売上の見通しをつけることも可能です。
店頭にいる時間を有効活用したパンの製造と、売上の見通しもつくことで「ご家族との時間を増やすことができた!」という声もあり、実際にそこを評価していただいているパン屋さんは多くいらっしゃいますね。
■"切り取り方”は無限大。だからこそ難しい
大泉
山口さんが今お話しされたのも、いいストーリーですよね。パンに関するお仕事をされている動機であったりとか、地方と都会の格差などの背景にある課題も含めて一つの物語だと思います。それをどうやって他の人に伝えていくのかというのが、まさに僕らがやろうとしていることです。
最終的には、山口さんたちの取り組みがどんどん広がって、パンを食べる人がほっこり笑顔になるとか、パン屋さんの間にも格差がなく、自分が美味しいと思うパンを作れている状態を実現したい。そのためには多くの人たちを巻き込んでいかなくてはいけないので、ストーリーや物語の力が重要になってくるのかなと思います。
山口さんはこういったストーリーをどういうふうに伝えていこうとか、考えていることはありますか?
山口
そこはまだまだ課題があると思っています。というのも、パンフォーユー自体、"切り取り方"がとても多いんですよね。
パンスクは消費者向けに「おうち時間を充実させ、豊かにする」サービスとして打ち出していますし、冷凍で賞味期限が伸びることによってフードロスを削減できるという切り取り方もできます。あとは先ほど言ったように、パン屋さんの働き方が良い方向に変わっていくという文脈もあると思います。
また、私たちは個人に対しても法人に対しても、サブスクリプション(定期契約)という形で費用を頂戴しています。それはパンフォーユーの経営を安定させたいからというよりも、パン屋さんと安定した取引関係を作りたいからです。
このようにいろんな切り口があるので、ここから一個のストーリーラインを作るというのは、まだまだ悩んでいるところがあります。
諏訪
パンフォーユーには、対オフィス向けや個人宅向けなど、様々な顧客がいますよね。そういった中で山口さんはPRも統括されていると思うんですが、伝え方の区別などはサービスによって工夫されているんでしょうか?
山口
対消費者向けの価値を伝える時には、少しずつ切り口を変えていますね。個人向けの「パンスク」ではパン屋さんとの出会い、オフィス向けでは、休憩時間や朝の時間に美味しいパンを食べられる福利厚生サービスの一環としてご案内しています。
ただ、パン屋さんに対しての価値に関しては、基本は同じ切り口になっていないといけないと思っています。「株式会社パンフォーユー」としてこう考えていますよ、というのを伝えていきたいです。
諏訪
それが、先ほどおっしゃられていた「新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する」につながってくるんですね。
パンフォーユーのキャラクター性と、目指す未来
秋間
企業の価値を伝える時に、「こういう課題を解決しています」というだけだと、聴く側が疲弊してしまったり、未来の話ばかりしていて足元がない、会社が違っても同じじゃないかと思われてしまったりと、ビジネス上大事な差別化がおそろかになることがとても多いんです。
でも、このパンフォーユーさんの取り組みは、ドキュメンタリーで追いたくなるような現場での喜びの形があるので、すごく人間的で惹かれると思います。パン屋さんが休めるようになったとか、美味しいパン屋さんとして愛され続けられるとか、本当の意味での持続可能性を感じるお話でした。
大泉
山口さんが先ほどおっしゃられた「どこを切り取るのか」というお悩みについてですが、僕は映像プロダクションで働いていたので、自分でゼロから脚本を書いたりもしていたんですね。
白紙な状態から物語を作るというのは、AとBという選択肢があってBを選びましょう、とかではなくて、キャラクター像を明確にして、みたくなる、続きが気になるストーリーを探していくということだと思っています。
僕たちが「ショートストーリーforサステナビリティ」を通してやっていくのもそれなんですが、山口さんにとって、パンフォーユーはどんなキャラクターで、どんな未来を歩んでいくのか、考えていることはありますか?
前編はここまで。
後編では、パンフォーユーの理念や山口さんの行動力の源をさらに深掘りします。「物語」がソーシャルビジネスを加速する様子を、皆さんにも体感していただける時間になりました。ぜひご覧ください。
▼後半はこちらから
■ショートストーリー for サステナビリティに関心のある方へ
サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を伴走するLa torcheと、ストーリーマーケティングで共感、共体験を創るFROGLOUDの業務提携からはじまった、新しい映像表現提供サービスです。
組織のパーパスやミッション、ビジョンを「作って終わり」にせず、物語と映像の力で価値を内外に伝えていく。これまでにないアプローチで、「ビジネス・サステナビリティ」の加速をサポートしていきます。
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